2019年12月09日

私はまだ変われるから 「FACTORY GIRLS 〜私が描く物語〜」


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いつか私が終わるとしても 
誇りをこの胸に歩き続けよう 
世界はまだ変われるから 
私はまだ変われるから

出演者全員で歌うエンディング。
これはサラの物語であり、ハリエットの物語であり、アビゲイルの、ルーシーの、マーシャの物語であり、そして、私たちの物語です。


A New Musical「FACTORY GIRLS 〜私が描く物語〜 」
音楽/詞: クレイトン・アイロンズ & ショーン・マホニー
日本版脚本・演出: 板垣恭一
音楽監督 :  大崎聖二
美術 : 乘峯雅寛
出演: 柚希礼音  ソニン  実咲凜音  清水くるみ  石田ニコル  
原田優一  平野良 猪塚健太  青野紗穂  谷口ゆうな  能條愛未  
戸井勝海  剣 幸 ほか

2019年10月26日(土) 5;00pm 梅田芸術劇場 1階6列上手/
10月27日(日) 12:00pm 1階9列上手
(上演時間: 3時間/休憩 20分)



物語の舞台は19世紀半ば、産業革命中のアメリカ。マサチューセッツ州ローウェル。
家族の借金返済のため、この町の紡績工場に女工として働きに来て、機械のように働く工場労働の厳しい現実に直面し、劣悪な労働環境の改善に行動を起こすサラ(柚希礼音)。
ローウェルで働く女性たちの自己啓発のための冊子「ローウェル・オウファリング」の編集長として女工たちの憧れの存在でありながら、発行人の州議会議員のスクーラー(戸井勝海)とサラはじめ女工たちとの間で苦悩するハリエット(ソニン)。

ハリエットと出会い、文章を書くことに新たな自分を発見するサラと、彼女の文才を認め、深い友情で結ばれるハリエット。
過酷になる一方の労働環境に疑問を持ち、働く女性の尊厳を求めて、ともに働く女工たちのリーダーとなって立ち上がるサラ。
女性の地位向上のために、彼女のやり方で、たった一人で孤独な戦いに挑み続けるハリエット。
様々な思惑が渦巻く中、いつしかすれ違う2人の生き方
この2人を軸に、社会と戦う女性たちの姿を描いた舞台。


この作品は柚希礼音さん、ソニンさんが所属するアミューズから板垣恭一さんへの「この2人が主人公のミュージカルを」というオファーから始まったのだとか。
そこから、19世紀半ばにアメリカで実際に起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーを描いた物語に行き着いた板垣さんの慧眼にまずは敬服。
クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーの未完のままだった作品に、まず日本語の上演台本が作られ、上演するための音楽を彼らが新しく作曲する、という形の「日米合作の新作」=A New Musicalは、かなり特別な立ち上がり方だとお聞きしました。


工場で布を織ることを「機械のように」1日10時間以上も続けてわずかな賃金を得る女性たちの物語を観て、最初は「アメリカ版『あゝ野麦峠』だな」と思いました。
ただし、『あゝ野麦峠』に登場する女工たちがどんなに悲惨な目にあってもひたすら「耐えて」「沈黙」しているのに対して、この物語に登場するサラをはじめとするファクトリーガールズたちは、ペンを持ち「言葉」を使って、やがてはストライキという行動で、自分たちの意見や主張をしっかり表現します。
そして明るい。
つかの間の自分たちの時間には夢を語り、よく笑い、キルトに精を出し、歌をつくって歌い、恋やおしゃれにも目を向ける女性たち・・・過酷な労働条件の中で重苦しくならず、とてもエネルギッシュ。
ここまで女性ばかりを中心にしたミュージカル(いや、ストレートプレイもかな)も珍しいのではないかしら。その意味でも画期的です。

この作品で描かれる女性たちが「闘っているもの」は、決して2世紀前のいにしえの物語ではなく、形は違っても、今もなお世界の至るところで、日本で、そして私たちの周りで、社会の仕組みや意識の中に根強く残っていると言えるでしょう。
だからこれは、サラの、ハリエットの、アビゲイルの、そして、私たちの物語なのです。


楽曲はいずれもよかったですが、2回観て2回とも泣いてしまったシーンが2つ。

それまでどちらかと言えば控え目だったアビゲイルがガールズたちを率いて歌う「言葉の戦争」。
1回目からかなりウルウルだったのですが、その後のアビゲイルを知ってから観た2回目は、そのしなやかな強さにほぼ号泣。

もう一つは、遂にストライキを起こして先頭に立って力強く歌うサラと、そこで一旦は崩れ落ち、やがて拳を握って立ち上がるハリエットの「ストライキ」。
ハリエットの魂を絞り出すような絶唱はとても心を揺さぶられます・・・歌を聴いて自然と涙があふれるというあの感じ、久々に味わいました。


柚希礼音さん演じるサラ・バグリーは実在の人物ではありますが、いかにも板垣恭一さんのあて書き。
「背が高い」とか「みんなより少し年上」とか、まんまじゃん!と思いました。

強い心を持ち、間違ったことには毅然と声を挙げ、戸惑い迷いながらもみんなのため、そして自分自身のために信じた道を進み、自然とリーダーとなっていくカリスマ性を持ったサラが柚希さんと重なります。
力強くのびやかな歌唱。
心情を表現する身体能力高いダンス。
無邪気な笑顔。
ちえちゃん、また一つ、当たり役に出会いましたね。

直情径行型のサラに対して、ハリエット・ファーリーは頭脳派である意味辛抱役。
こんなソニンさんを観るのは初めてかもしれません。
自分の能力で手に入れた地位と立場に固執するように見えて、心の内に熱い思いを秘めたハリエット。終始冷静で、サラの“暴走”を嗜めようとさえしていたハリエットが最後の最後に爆発させる魂のカタルシス、その力の限りとも聞こえる歌唱がソニンさんならでは。

二人それぞれのソロもすばらしいですが、声の相性がいいのか「あなたと出会えて」「自由の国の娘たち」といったデュエットもとても心地よく響いて耳福でした。

やさしく知的で、意見が異なることがあってもハリエットを同じ仲間だと言い切るほど誰に対してもリベラルで、誰からも慕われるアビゲイルの実咲凜音さん。
キュートな少女が自分たちの戦いの中で成長していくルーシーの清水くるみさん。
美人で明るく、「いい男をゲットする」ためにおしゃれも欠かさない、でも友情を何よりも大切にするマーシャの石田ニコルさん。
パワフルな歌声に芯の強さを見せるヘプサベスの青野紗穂さん、彼女がつくった歌そのままに純粋でやさしいグレイディーズの谷口ゆうなさん、壮絶な過去と闘う、おとなしく引っ込み思案のフローリア 能條愛未・・・ガールズたちは皆個性的で愛おしい。

この物語は時を経て、作家となったルーシーが自身の講演会で過去を振り返るという形で描かれています。
そのオールドルーシーを演じたのは剣幸さん。
聴講客に見立てた客席に語りかけるやわらかで落ち着いた語り口が印象的で、物語の中のルーシーの母 ラーコム夫人との演じ分けもお見事でした。

オールドルーシーが過去を振り返るという形で描かれたこの作品は、ルーシーの講演会という形ではじまります。
何もない舞台に一人で真ん中にたち、聴講客として見立てられた観客席に語りかける剣幸さんの存在感がまた光っていました。ラーコム夫人であり、ストーリーテラーでもある演じ分けもみごとでした。
最初の方で「紡績」を説明するところが日ネタのアドリブになっていたようで、私が観た2回は
・S席 A席 エエ席 紡績
・大関 即席 ボーっとせんとき
だったかしら(笑)。



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とてもメッセージ性のある作品。
「ビリー・エリオット」もそうでしたが、柚希礼音さんが出演していなければ観なかったかもしれない舞台ですが、観られて本当によかったと思います。



興行的に必ずしも大成功ではなかったのが残念だったかなー。もっとたくさんの人に観ていただきたい舞台でした のごくらく地獄度 (total 2042 vs 2045 )


posted by スキップ at 23:38| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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