2019年11月17日

シネマ歌舞伎 「女殺油地獄」


aburanojigoku.jpg松本幸四郎さんが「大阪松竹座でやるならこれを」と昨年の襲名披露興行で唯一こだわったとおっしゃっていた演目。
2001年博多座で初役を勤めて以来、「夏の大阪でこの演目をやるのが最終目標」だったそうです。
そして、「こういうドラマ性のある作品こそシネマ歌舞伎になり得るのではないか」とシネマ歌舞伎で撮ることも強く希望されたのだそうです。


シネマ歌舞伎第34弾 「女殺油地獄」
原作: 近松門左衛門 
監修: 片岡仁左衛門(舞台公演)
監督: 井上昌典
出演: 松本幸四郎  市川猿之助  市川中車  市川高麗蔵  
中村歌昇  中村壱太郎  大谷廣太郎  片岡松之助  嵐橘三郎  
澤村宗之助  坂東竹三郎  中村鴈治郎  中村又五郎  中村歌六 ほか
(2018年7月 大阪松竹座公演)

2019年11月13日(水) 12:20pm なんばパークスシネマ シアター8
(上映時間: 103分)



昨年7月 松竹座で3回観た感想はこちら


エンドロールに「収録・編集協力 松本幸四郎」とクレジットされていました。
幸四郎さんのこだわりと思い入れが随所に現れたシネマ歌舞伎。

今回シネマ歌舞伎にするにあたって、公演本番ばかりでなく、観客の入っていない舞台稽古でも撮影されたり、殺しの場面はカメラマンが舞台上に上がって撮ったり、ほかの場面でも客席にレールを設置したり、舞台上のカメラの台数を増やしたりと、これまでのシネマ歌舞伎にはない仕上がりになっているのだそうです。
幸四郎さんのシネマ歌舞伎に対する考え方は、「いわゆる劇場中継ではなく、映画館のスクリーンで観る作品として成立するものでありたい。」ということなのだとか。


「全編通してご覧いただくと、3階からも見えるような劇場全体を計算した演技から、アップの画面でないと確認できないような繊細な演技まで、多種多様な歌舞伎の表現方法を感じていただけると思います」とインタビューで語っていらっしゃった通り、こんな表情していたんだ、とか、ここでこの動き、と今さらながら気づく場面もしばしば。

新感線のゲキxシネもそうですが、どれほど最前列でもここまで観ることはできない表情のアップや、今回はカメラのアングルもとても凝っていて、絶対に客席からは観られない視点もあって、とても見応えありました。

特に殺しの場面。
義太夫なしで与兵衛とお吉の息づかいまで聞こえてくるよう。
逃げるお吉と追う与兵衛の緊迫感あふれる場面に挿入される二人それぞれのアップに息をつめて見入りました。
絶望の中からスイッチが入ってしまった瞬間の与兵衛のあの表情。
お吉が与兵衛の頬に指でつける血のなまめかしさ。
「死にとうない」といおう断末魔の叫び。

昨年松竹座で観た時の感想に、「仁左衛門さんの与兵衛は、手負いのお吉をいたぶるような狂気を見せていましたが、幸四郎さんはそれとはまた違う、自分でもどうしようもない衝動に突き動かされているような。そして終始とても哀しい。」と書いたのですが、お吉に迫る与兵衛が時折ふっと微かな笑みを浮かべる瞬間があって、これってまさしく「いたぶるような狂気」じゃない、と背筋が寒くなったりも。
ずっと動いている場面ですので、なかなかあんな表情捉えきれてなかったな。
あの笑みを観ることができただけでも、このシネマ歌舞伎観た甲斐があったというものです。



aburanojigoku2.jpeg

今回 フライヤーもムブチケカードも新たに撮り下ろしたのですって のごくらく度 (total 2034 vs 2036 )


posted by スキップ at 23:04| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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