2019年11月16日

この世から戦が消える日に 「Q:A Night At The Kabuki」


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Love of my life – you’ve hurt me
You’ve broken my heart and now you leave me~

フレディ・マーキュリーが歌う “LOVE OF MY LIFE”の甘く切ないメロディが流れる中
名もない兵士として屍の中に身を埋めるロミオ
ジュリエットへの愛を胸に抱いて

あれ?ワタシ 泣いてる?
・・・訳もなく涙があふれるという思いを久しぶりに味わったラストシーン。


NODA・MAP 第23回公演
「Q:A Night At The Kabuki」
Inspired by A Night At The Opera
作・演出: 野田秀樹 
音楽: QUEEN
美術: 堀尾幸男
照明: 服部基
衣装: ひびのこずえ
美粧 柘植伊佐夫
サウンドデザイン 原摩利彦
出演: 松たか子  上川隆也  広瀬すず  志尊淳  橋本さとし  
小松和重  伊勢佳世 羽野晶紀  野田秀樹  竹中直人 ほか

2019年10月20日(日) 6:00pm 新歌舞伎座 1階8列下手/
10月23日(水) 2:00pm 1階3列センター
(上演時間: 3時間/休憩 15分)



野田秀樹さんがQUEENのアルバム「オペラ座の夜」からインスピレーションを得た作品。
映画「ボヘミアン・ラプソディ」よりも2年前、「『オペラ座の夜』の演劇性を本当に<演劇>として広げられないものか、それをクイーンが好きな日本の劇作家、演出家ヒデキにお願いできないか」というQUEEN側から直接のオファーが始まりだったそうです。


モチーフは「ロミオとジュリエット」。

最初からこのモチーフが明らかにされているので、たとえば「逆鱗」の人間魚雷、「エッグ」の731部隊のように、観ているうちに主題が現れて愕然とする、といったことはないなぁと思いながら観ていたのですが、そこは野田さん。
私たちが知っている「ロミオとジュリエット」の物語は一幕で完結して、二幕はその二人が生き残っていての「その後」の物語。

「オペラ座の夜」がまずあって、「ロミオとジュリエット」と源氏平家の争いとを重ね、さらにシェイクスピアの他の戯曲を散りばめ、歌舞伎、近松、民族闘争や近現代の戦争までを融合させて一つの物語として昇華させるなんてとんでもないワザで、それでいてちゃんと切ないラブストーリー。野田さんの筆致が冴えわたります。

本当に野田さんは天才。
2012年に中村勘三郎さんが亡くなった時、串田和美さんは「芝居の神様の子ども」という追悼文を寄せていらっしゃいましたが、野田秀樹さんも間違いなく「演劇の神様に選ばれた子ども」だと思います。


432,000秒(5日間)の恋に疾走するロミオとジュリエット。
源氏の領袖 源義仲の娘 源の愁里愛(じゅりえ)に広瀬すずさん
平家の平清盛の嫡男 平の瑯壬生(ろうみお)を志尊淳さん
そして、2人のその後の姿となる「それからの愁里愛」「それからの瑯壬生」を松たか子さんと上川隆也さんが演じて、この2人がこの恋の結末を死という悲劇で終わらせないよう運命の先回りをしようという展開。

ティボルトがマーキューシオを殺し、そのティボルトをロミオが殺して・・・という報復の連鎖が描かれる「ロミオとジュリエット」ですが、平清盛が源義朝を討ち、義朝の遺児である頼朝、義経が平家を滅ぼすという源氏と平家の争いは、まぎれもなく報復の連鎖だと改めて感じました。

「この世から戦(いくさ)が消える日に」また会えると約束したはずの愁里愛と瑯壬生。
「この世から戦(いくさ)が消える日に」と何度もつぶやく愁里愛。
でも二人にその日は来なかった。
それはとりもなおさず、この世界から戦争がなくなる日がまだ来ていないという野田さんのメッセージと受け止めました。



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本人確認が厳格だったこの公演。
確認終了後にいただける日替りのカードはポスターやパンフレットからのデザイン。
渡辺敏秋さんのイラストです。


相変わらずの言葉遊びはたっぷり、笑いも時事ネタも盛り込まれ(上川さん瑯壬生筆頭に男たちが三角に並んでハカやった場面、客席からは大拍手でした)、シンプルな舞台装置を縦横に使う多彩な演出。
長いトレーンのウェディングドレスで進む愁里愛と瑯壬生の結婚式の荘厳な雰囲気。
初めての夜を迎えた2人をふわりと白い大きな布が包むシーンの美しさ。
ひびのこずえさんの衣装も素敵で、細部にまで神経が行き届いたとても洗練された舞台。
「はーっ NODA MAP好きだ~」と観ている間じゅう何度も思いました。


心に深く残るキーワードの一つは「届かない手紙」
シベリアに抑留され帰国の船に乗ることも許されなかった瑯壬生が託した手紙は愁里愛に届けられることはなく、30年後・・・。

瑯壬生が遺した言葉は「私はもはやあなたを愛していない」。
その言葉に込めた瑯壬生の思いが切なく、痛ましい。
遠い地から祖国へ、愛する人のもとへ戻ることのできなかった、かの戦争の時代の人々の悲劇が浮かび上がるよう。

もう一つは「その名を捨てて」
「私のためにその名を捨てて」はジュリエットがロミオに告げる有名な台詞ですが、それがずっと瑯壬生の心にはあって、「名もない兵士(=平氏)」として死んでいく瑯壬生。
折り重なるようにしてうず高く積み上がるそんな「無名兵士」たちの屍。
すべての兵士に名前はあり、それぞれの人生があったはず。


30年を経て瑯壬生の言葉と思いを受け止めて、瑯壬生の面影(志尊淳)を抱きしめる愁里愛。
遠い地で愁里愛の面影(広瀬すず)を抱きしめる瑯壬生。
LOVE OF MY LIFE が流れる中、やがてそれぞれの面影は抱きしめた腕からするりと抜けて、2人残る愁里愛(松たか子)と瑯壬生(上川隆也)。
時間はかかったけれど、面影ではなく、互いの存在を、心を、きちんと確かめ合うことができて穏やかな表情を浮かべる2人・・・その刹那、崩れ堕ちる瑯壬生(ここの上川さんの倒れ方、絶品でした)。
切な過ぎるラストに涙。


私はQUEENにはそれほど明るくなくて、だから「オペラ座の夜」も全曲知っているという訳ではありませんが、さすが名盤と言われるだけあって聞き覚えのある曲が数々。
個々の曲にそこまで思い入れがあったりイメージを持っていることもありませんので、劇中に使われても時に違和感はありませんでした・・・一幕はちょっとうるさいなと思ったりもしたけど(コラッ!)

“LOVE OF MY LIFE” はこれを書いている今も脳内をグルグル(野田さんもパンフレットの序文に同じことを書いていらっしゃいます)。
多分これからこの曲を聴くたびにあのラストシーンを思い浮かべるだろうな。
瑯壬生が義仲を殺してしまうシーンで、♪Mama~ just killed a man~ と「ボヘミアン・ラプソディ」が高らかに流れた時には「なるほど!ここで!!」と思いました。


役者さんは皆とてもよかったですが、やはり何といっても松たか子さん。
強くてしなやか。凛と立つ姿も少しとぼける仕草もとても魅力的。
台詞の声がとても心地よくて、「松たかちゃんの声好きだ~」と何度も思いました。
台詞がない時、他の人が芝居をしている時も繊細に表情を変化させていて、目が離せませんでした。

舞台で拝見するのは久しぶりの上川隆也さん。
ラストの倒れ方が凄いのは前述しましたが、台詞がそれほど多い訳ではないのに、松たかちゃん愁里愛に結構押され気味ではあるのに、それをもろともしない重量感と存在感。

広瀬すずさんと志尊淳さんのフレッシュカップルも先輩方に負けない熱演。
透明感と可愛らしさ際立つ広瀬すずさんはぎゃんぎゃんわめく(言い方)台詞が多いのですが、ちゃんと聞き取れてすばらしい。あえていえば緩急が課題かな。
志尊淳さんはTVで観るひ弱そうなイメージとは違って声も姿もよいばかりでなく身体能力も高そう。

義仲も法皇も頼朝もあと平家の誰かもと大活躍の橋本さとしさん。
愁里愛と瑯壬生、それぞれのママと尼マザーッテルサの3役を力強い声でくっきり演じ分けた羽野晶紀さん。
晶紀ちゃんすばらしかったな。朝ドラ「スカーレット」のほんわかした荒木サダさんも好きだけど、やはり舞台女優さんだと思いました。
巴御前の伊勢佳世さんも熱演で迫力ある巴御前でしたが、1回目観た時、台詞の届き方が他の役者さんたちよりいささか足らない印象で、これが小さな箱で緻密なお芝居をしてきた人と大劇場の舞台踏んできた人の発声の違いかなと感じました。

傲慢な平清盛と自信なげな平の凡太郎もほんと、声からして別人だよね~な竹中直人さん。
飄々とした小松和重さんにロミジュリなら絶対あの役(乳母)だと思ってた野田秀樹さんも。


10月23日は鳴りやまぬ拍手に前回より1回多かったカーテンコール。
松たかちゃんはちょっとおどけるように握りこぶしの両手と片足上げてキュートなジャンプ。
上川さんはラスト上手はけ際に右手を胸にあてて丁寧なお辞儀。
そうそう、上川さんのあれ、久しぶりに見たな~。素敵でした



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お約束の舞台模型。
上二つが幕間、下が終演後のものです。
インスタグラムのストーリーに動画をあげたのですが、動く舞台装置で扉がパタパタ開閉していました。




短期間に2回観ちゃって何だかもったいない 時間をおいてかみしめて再見したかったな のごくらく地獄度 (total 2033 vs 2036 )

posted by スキップ at 23:35| Comment(2) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
10月の東京公演で見て以来、40日ぶりに行く直前にこちらを拝読、そして観劇後の今またじっくり読んでいます。
一番びっくりしたのはハカで、そんなのあったっけ?私が知らなくて気がつかなかったのかしら、でした。今回はちゃんとわかったんですが、それほど受けてはない感じで、やはり流行り物という気がしました。

スキップさまの丁寧なご感想に、いちいち頷いてます。ほんとほんとそうなんですよね(あれもこれも)。私と同世代の野田さん、これからもついていきますー。
ちなみに今回いただいたカードの絵柄は、スキップさまのと同じでした。前の方で見ることがかなわない代わりに、もう1回見るのだわ。
Posted by きびだんご at 2019年11月22日 11:20
♪きびだんごさま

まぁ!2回も読んでいただけるなんて、ありがとうございます。
光栄ですがお恥ずかしくもあります。
台詞や楽曲など、記憶が曖昧な部分もあって、できれば再見して
確かめたい気持ちです。

きびだんごさまはあと1回ご覧になるのですね。いいなぁ~。
うらやましい限りです。

ハカは、そうでしたか。
大阪公演の折はちょうどワールドカップ開催中だったこともあってか、
私が観た2回とも大ウケで拍手喝采でした。

先日ヘアサロンで「ボヘミアンラプソディー」が聞こえてきて
スタイリストさん(29歳 男子)にこの舞台のことを延々と
語ってしまいました(^^ゞ
折にふれてじわじわ来ています。
私はもう舞台を観ることはかないませんので、WOWOWでオンエアして
いただくことを切に願っています。
Posted by スキップ at 2019年11月23日 00:12
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