2019年10月22日

奇跡のような『船弁慶』 「源平の雅」


genpeinomiyabi.jpg公益財団法人関西・大阪21世紀協会の上方文化芸能振興事業の一環として開催された公演。
この情報を知ったのは8月半ばのことでしたが、「えっ!?幸四郎さんの『船弁慶』? 観るっ!!」と即決でした。


日本の文化に親しむ 「源平の雅」
企画: 阪口純久
構成・演出: 藤間勘十郎
2019年10月17日(木) 12:30 国立文楽劇場 
1列センター



一、半能 橋弁慶
出演: 武蔵坊弁慶: 浦田保親  牛若丸: 味方慧 ほか
笛: 杉市和  小鼓: 吉阪一郎  大鼓: 河村大
(上演時間: 20分)


もともと能楽の演目ですが、「橋弁慶」をお能で拝見するのは実はこれが初めて。
半能なのでいきなり牛若丸と弁慶の出会いの場面から入ります。

二人とも面をつけない直面でした。
稚児の拵えの牛若丸がリアル子供さんで、「そうだ、お能では牛若丸は子方の役だった」と思い出した次第。
味方慧くんは小学校高学年くらいかな、キビキビ動いて台詞もしっかり。
弁慶は観世流の浦田保親さん。僧兵の装束でいかにも屈強そう。
リアルに体格の違いもあって、事実こうだったのかなといにしえの古都に思いを馳せました。

まるで夜空を切り裂くような笛、カーンと高く響く大鼓の音色にも聴き惚れました。


二、所作事 時鳥花有里
振付: 藤間勘十郎
作曲: 笘舟
作調: 藤舎呂悦  藤舎貴生
出演: 白拍子三芳野: 中村梅彌  鷲の尾三郎義久: 尾上菊之丞
     白拍子: 花柳まり草  若柳京子
     源九郎判官義経: 中村鷹之資  傀儡師良吉: 藤間勘十郎
     (上演時間: 25分)


頼朝に追われる身となった義経が家臣 鷲の尾三郎とともに逃げ延びた龍田の里で出会った白拍子、傀儡師の一行が実は龍田の神女と明神で、「吉野の川連法眼館を訪れなさい」と神託をくだす・・・という物語。

素踊りですが、キレイどころの白拍子や背景の桜も美しくて華やか。
よく通る声で口跡よく、立ち姿も凛とした鷹之資くんの立派な義経に感動。
腰越まで行ったのに鎌倉に入ることができなかったと語る義経。
鷲の尾三郎の口からも何度も「讒言により」という言葉が発せられて、主従の無念さ、もどかしさが伝わってきます。

傀儡師の勘十郎さんが四つ面を使い分けて踊るのが相変わらずすごいな~と思いながら観ていて、「あれ?これ前にも観たことあるような・・・」と思って帰宅後このブログ検索したら、2016年6月に観ていました(こちら)。
「義経千本桜」の通しで幸四郎(当時 染五郎)さん)が碇知盛を初役で演じられた時でした。

今回のプログラムに「『義経千本桜』の古い台本に残っていたものを松岡亮補訂、藤間勘十郎振付により松本幸四郎が復活し、歌舞伎座にて上演」と書いてありましたが、それがあの時のことだったのね。


三、長唄 船弁慶
出演: 静御前・新中納言知盛の霊: 松本幸四郎
     源義経 :中村鷹之資  武蔵坊弁慶: 市川九團次
     亀井六郎: 市川新蔵  片岡八郎: 片岡當吉郎
     舟長: 茂山逸平  舟人浪蔵: 尾上菊之丞  舟人岩作: 藤間勘十郎
     鳴物: 藤舎呂悦  藤舎貴生 ほか
     (上演時間: 68分)


これ、観られて本当によかった。
無理して予定調整した甲斐もあったというものです。

幸四郎さんに限らず、「船弁慶」はこれまで数々拝見していますが、Best of the best の一つに数えられるのではないかしら。
この演目だけは素踊りではなく、拵えもしての登場。

静の時は、「あれ?幸四郎さん痩せた?」と思うくらい儚げでたおやか。
一転して美しくかつ気合入った隈取の知盛は、体はもちろん、お顔まで大きく見えるなんて、相変わらずどんな魔法を使ってるんだか。
かぶりつきでしたので、薙刀がぶんっ!と目の前に来て、首はねられるかと思いましたよ。

幸四郎さんが中村富十郎さんに教えていただいた「船弁慶」に、富十郎さんのご子息の鷹之資くんが義経として同じ舞台に立っていらっしゃることも胸熱でした。

茂山逸平さん、 尾上菊之丞さん、藤間勘十郎さんという豪華共演の舟長、舟人の間狂言は、今回、狂言の茂山家のやり方だったとか。とても楽しかったです。
歌舞伎では絶対観られない座組な上にご宗家と菊之丞さんの連れ舞い観せていただけるとかどんなご褒美でしょう。


そして、あの引っ込みです。
まさに知盛の霊の化身。
幕前の太鼓と笛に合わせて花道を行きつ戻りつする時も、指の先、毛先の1本1本にまで気迫が漲っているよう。
花道を回ながら揚幕に向かい、揚幕手前で移動せず高速でぐるんぐるん回ってました。
多分、息をするのも忘れて見入っいたと思います、ワタクシ。
心臓バクバクです。100万回観ても観足りない感じ。


この「船弁慶」には幸四郎さんと太鼓を演奏された藤舎呂悦さんとの素敵なお話があって、終演後、ご子息の藤舎貴生さんがInstagramで明かしてくださいました(こちら)。

呂悦さんの太鼓で「船弁慶」を、という幸四郎さんの強い思い。
その思いに応えて、歩くこともままならなかった体をもう一度奮い起こして舞台に立った呂悦さん。
ここにもまた胸熱のドラマが。


いろんな人の思いや願いがこもって、集まるべき人が舞台に上がった奇跡のような「船弁慶」。
たった1日だけの公演。大阪で上演してくださって本当に感謝しかありません。



*貴生さんのInstagramコメント
 見られなくなってしまうことはないと思いますが、念のため全文転載

「源平の雅」終わりました。
幸四郎さんより、父に是非太鼓を打って下さいと言われたのが今年3月!その時父は足が悪く杖を突き出した所。歩くこともままならくなった時でした。船弁慶は幕外があるので立てない、歩けないのではと思いましたが、本人が「絶対打ついい」それから好きなお酒も断ち、筋トレなどし杖なしで歩けるようになり、今日を迎える事ができました。

終演後、幸四郎さんは父の太鼓で船弁慶をする事を昔から願っていてくれたらしく、「30年越しの夢が叶いました」と嬉しい言葉と共に、父の楽屋にとりたて?とれたて?の押し隈を「今度は負けません、リベンジ果し状です」と持ってきてくれました。
父は今打っていた撥を幸四郎さんに!

父への幸四郎さんの気持ち、この舞台を励みに勇ましいさを取り戻せさせてくれた頂いた事に感謝します。
「リベンジ早くしてくれんと死ぬえー」と言う80歳。まだやる気です。




菊之丞さんのイイ声も聴きもの のごくらく度 (total 2022 vs 2025 )


posted by スキップ at 14:31| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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