
7月15日に赤坂ACTシアターで初日を迎えた「けむりの軍団」。
東京のチケット2回分取っていましたが諸般の事情で観に行けず、博多を経て大阪でやーっと my 初日。
新感線の舞台で初日開いてから観るまでこんなに長くかかったのは自分史上最遅。
劇団員メインでやるのはキツくなってきた”王道”いのうえ歌舞伎は若手の客演を中心に据えて、古田新太さん中心に劇団員や同世代の役者メインでやる場合はこちらで(by いのうえひでのりさん)といういのうえ歌舞伎《亞》alternative 第一弾です。
alternative つまり not 王道ということになりましょうか。
2019年劇団☆新感線39興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎《亞》alternative 「けむりの軍団」
脚本: 倉持裕
演出: いのうえひでのり
美術: 池田ともゆき 照明: 原田保
衣装: 前田文子 音楽: 岡崎司
振付: 川崎悦子 映像: 上田大樹
殺陣指導: 田尻茂一 川原正嗣
出演: 古田新太 早乙女太一 清野菜名 須賀健太 高田聖子
粟根まこと 右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子
インディ高橋 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ
宮下今日子 村木仁 川原正嗣 武田浩二 池田成志 ほか
2019年10月10日(木) 1:00pm フェスティバルホール 1階9列センター
(上演時間: 3時間5分/休憩 20分)
本能寺の変以後、秀吉の小田原征伐より前のいつか、という時代。
目良家、厚見家、夭願寺の三勢力が争うとある国の物語。
かつては軍配士として力を発揮してきた真中十兵衛(古田新太)は今は浪々の身となり、賭場で騒ぎを起こした美山輝親(池田成志)の賭場泥棒騒動に巻き込まれ、子分たちを人質に取られて五日の間に輝親を捕まえて戻らないと子分の命はないと脅されて輝親探しに出ます。途中、政略結婚で目良家に嫁いだものの同盟を反故にされたことで城を出た厚見家の紗々姫(清野菜名)と家臣の源七(須賀健太)を成り行きで厚見城まで送り届けることになりますが、紗々姫には、姑である目良家の権力者 嵐蔵院(高田聖子)や目良家の侍大将 飛沢莉左衛門(早乙女太一)という追手が迫っていました・・・。
2016年の「乱鶯」以来、3年ぶりの新感線登板となった倉持裕さんが脚本執筆にあたっていのうえひでのりさんからのリクエストは、黒澤明監督の映画「隠し砦の三悪人」と太宰治の「走れメロス」の要素を取り入れて欲しいということだったとか。
ナルホド、言われてみればそんなお話だったかな。
・・・と語気が弱めなのは、自分が今イチこの物語の世界に入り込むことができなかったからです。
おもしろくない訳では決してなかったのですが、何だろ、この感じ。
これまでのいのうえ歌舞伎で感じてきた高揚感とか、切なさに胸が苦しくなるといったところが薄めだからでしょうか(自分比)
「頭はキレるし弁も立つ(多分腕も立つ)」軍配師・真中十兵衛を中心に据えた展開。
一番感じたのは、主役である十兵衛にドラマがないこと・・・いや、恐らくあるのでしょうが、それが描かれていないことです。
「あれは俺がやった」みたいな発言はありましたが、真中のここに至るまでの生き様とか、切ない過去などがほぼ見えて来ない、語られない状況なのでいささか消化不良。結果として主役としての求心力が弱まっているのではないかと思います。
古田新太という役者に求心力や魅力がないという訳ではもちろんなくて、あくまでも役として捉えた場合の印象ですが、それでも何でしょ、この、「古田新太の凄みはこんなもんじゃないはず」感。
むしろドラマがあるのは美山輝親の方で、いい加減に生きているヘラヘラした奴、実は・・・というあたり。
とても度量が大きく時勢を見極めることができる人物のように思えたり、ただのお育ちのよいのんきなお殿様のようにも感じられて、そんな輝親が時折ズバリと真実を突いた発言をするあたりも俄然興味が沸きます。
演じる池田成志さんが気負いなくやっている(ように見える)のもいい感じ。
この作品の見どころのひとつともなっている古田十兵衛と池田輝親のバディ感。
これまで「数えきれないほど」新感線に出演されている池田成志さんですが、古田さんと敵対することはあってもこういう感じは初めてなのではないかしら。
新鮮でとても楽しいし、さすがの阿吽の呼吸です。
十兵衛がかつてこのあたりに存在した地侍の軍団「煤煙党」の風評を逆手に取って、大人数に見せかけて目良軍を震え上がらせる手法はお見事。
そして、十兵衛の細かい仕掛けで「口は立たぬが腕は立つ」飛沢莉左衛門が自分の正当性を訴えてもがけばもがくほど裏切者として追い詰められていく過程は観ていて切なかったです。
太一くん莉左衛門も、その出自についてのドラマがあって、それが十兵衛に陥れられる際の別の意味での伏線にもなっているのがうまい作劇だなぁと思いました。
が、ラストのあれはいかがなものか。いわゆるナレ死っていうやつ?(死んでないけど)
あと、あのうまくしゃべれない設定必要ですかね?(暴言)
ちょっと笑いオチのようなキャラクター入れない方が莉左衛門の悲劇性が際立ちますし、入れるなら、普通に話せる時と話せない時のスイッチはどこかを脚本でもう少し明確にしていただければよかったかなーと思います。
いやしかし、殺陣はもちろんシビれるカッコよさ、美しさ、速さ。
終盤の川原正嗣さん一虎との対決なんて永遠に観ていたいくらいだったのに、その後にまだ古田十兵衛との一騎打ちもあって、どんなご馳走なんだと思いました。
あの血だらけの登場の仕方がまたすばらしくワタシ好みなのよ←
(は、また太一語りしてしまった)
演出では、映像の多用はともかく、場面転換のたびに幕(というかスクリーン?)が下りるのが気になりました。
IHIステージアラウンド東京こけら落としで「髑髏城の七人 Season 花」を最初に観た時、「場面転換や暗転がなくても芝居を続けることができる、というのがこの劇場のウリというけれど、いのうえひでのりさんの演出は元よりスピーディで、これまでの作品も暗転とか舞台転換待ちとか幕前とかほとんどなかった」と感想にも書いたのですが、今回、あれ?いのうえさんの演出、こんなに幕前多かったっけ?と感じました。
加えて、盆やセリもほとんど使っていなくて、何だか平面的だった印象です。
博多座はともかく、他の2劇場(ACTとフェス)の舞台機構の関係もあるのかなとも思いましたが、このところフェスティバルホールで観た作品(「Vamp Bamboo Burn」や「偽義経冥界歌」)はそんなこと感じなかったのだけど。
高田聖子さん、河野まさとさん、早乙女太一くんたちが並ぶ目良軍出陣の群舞がメタルマクベスで森山未來くんが歌う「明けない夜はSO LONG」のダンスシーンとよく似ていて、後でフライヤー確認したらどちらも振付は川崎悦子さんでやっぱりねーとなりました。
権力を持つ者の傲慢さとそれを守るための冷酷さを併せ持つ嵐蔵院 高田聖子さん、飄々としつつ抜け目なくしたたかな残照 粟根まことさんはじめ劇団員の皆さんにも見せ場があり、いかにも「劇団公演」といった趣きもよかったです(なるし~や太一くんは準劇団員ですしね)。
宮下今日子さんの長雨という役が山本カナコさんがやるような役だなと思って観ていたら、カナコさんお怪我で休演のための代役だと後で知りました。
カナコさんがやるような・・といえば、劇団の女優さんたちの役がいつも同じタイプでキャラクターが固定されているという傾向もこのところさらに強くなったように思います。中谷さとみさんの千麻の方なんて、いかにも「どこかで観たさとみさん」。
清野菜名さんは公演の終盤でさすがに喉が苦しそうな印象でしたが、口跡よく、「髑髏城 Season花」の沙霧で見せた動きのキレも健在です。
須賀健太くんは観るたびに思うけど大きくなったよね(笑)。
と、幾ばくかの不満はありつつも、新感線はやはり観ていて楽しいし、オープニングでジューダスが流れる時のワクワク感は格別です(そこ?)。
もう古田新太主演の”王道”いのうえ歌舞伎は観られないのかな の地獄度


