2019年10月15日

NORA IS BACK! 「人形の家 Part2」


dollhaouse.JPG「人形の家」といえば1879年に発表されたノルウェイの作家 イプセンの代表作。
140年も前の作品ですが、演劇史上に燦然と輝く戯曲で、新たな時代の女性の姿を世に示した物語として今なお上演され続けています。

最近ではデヴィッド・ルヴォー演出で宮沢りえさんがノラを演じた舞台(トルヴェルは堤真一さん)が印象的だったなと調べてみたら2008年・・・全然最近じゃないじゃん💦
昨期の朝ドラ「なつぞら」でも雪次郎くん(山田裕貴)が感銘を受けて演劇を志す場面に使われていましたね。


「人形の家」のラストは夫も子どもを捨てて家を出て行くノラ。
そのノラが15年後に帰って来て・・・という物語。
アメリカの気鋭の新進劇作家ルーカス・ナスが2017年に発表しブロードウェイで初演された作品です。


パルコ・プロデュース2019
「人形の家 Part2」
作: ルーカス・ナス
翻訳: 常田景子
演出: 栗山民也
美術: 伊藤雅子   照明: 服部基   衣裳: 前田文子
出演: 永作博美  山崎 一  那須凜  梅沢昌代

2019年9月14日(土) 6:00pm ロームシアター京都 サウスホール 1階6列センター
(上演時間: 1時間45分)



ドアがノックされ、ノラ(永作博美)が15年前に出て行った家に入って来るところから始まります。迎えるのは乳母のアンヌ・マリー(梅沢昌代)。

自伝的な小説を書いて多くの女性たちの共感を得、女流作家として成功したノラですが、ある読者の家族からノラが「未婚」というのは偽りで、それを世間に公表すると脅されています。夫のトルヴェル(山崎一)が離婚届を出しておらず、離婚が成立していなかったことを初めて知ったノラは窮地に立たされ、何としても離婚してもらおうと15年ぶりに家に帰ってきたのでした・・・。


ノラとアンヌ・マリー(乳母)
ノラとトルヴェル(夫)
ノラとエミー(娘)

すべての場面がノラと3人のいずれかの二人芝居で、その会話の中でノラの今の状況や15年間の家族の感情などが明らかになっていく、濃密な会話劇です。


「人形の家」は当時の封建的な社会や結婚制度の中、「新たな時代の女性の姿を世に示した」として多くの共感を得た作品ですが、ノラのすぐ近くにいたこの3人の人たちは誰ひとり彼女の生き方に共感していません。当然のことながらかみ合わない会話が続く訳で、それが何とも切ないし虚しい。

ノラが「帰ってきた」と喜び、トルヴァルとの復縁を期待するアンネ・マリー。
ノラにその気はありません。
妻が出ていった事実が受け入れられず、人から聞かれても曖昧にしてきたトルヴァル。
ノラがどれほど訴えても離婚に応じようとはしません。
トルヴァルが離婚に応じるよう説得することを頼まれても雇い主への恩義を感じて断るアンネ・マリー。
「あなたのことは記憶になく、恨む気持ちは全くありません」と言いつつ、「今まで私に会いたがらなかったあなたが初めて今日、会いたがったのは、自分を助けてほしかったからだけ!」と言い放つ末娘エイミー。

エイミーとの会話ではノラとの結婚観の違いも印象的でした。
婚約者がいるエイミー「でもあなたは結婚には反対なんでしょ?」
「私のようになって後悔してほしくないのよ」とノラ。
「結婚は女にとって束縛。いつかきっと結婚しなくても生きていけるようになり、みんなが自由になれる日が来る」と言うノラに、
「私は誰かのものになりたいの」と応じるエイミー。
「あなたが言うように、今から何十年かたって、そうなったとして、それでどうなの?」
交わることのない2人の会話は、どちらの考え方も現代にも通じる普遍的なテーマだと思いました。

そしてラスト。
役場に行き、役人と揉めて怪我をしてまで離婚届を持ち帰ったトラヴァルに対して、それを受け取らず、自分の力で解決する道を選び、再びドアを開けて出て行くノラ。

彼女の著書を読んで共感した何人もの女性に離婚を選択させながら、自分自身はその関係に縛られ続けていることを公表することは、それまで築いてきた成功を失うことになるかもしれないけれど、「そうしなければならない」と勇気を持って一歩を踏み出すノラ。

そこまで自分を律しなくても、という思いもしつつ、それがノラにとって、真の意味での「自立」なのかもしれません。
正直なところ、ノラは頑なすぎるように思えてあまり共感できませんでしたが、ラストの彼女の選択には拍手を贈りたい気持ち・・・と同時に、もし自分だったら、多分こうはできないんじゃないかという思いも。


ほぼ出ずっぱりで大量の台詞をこなすノラの永作博美さん。
凛とした立ち姿で、透明感のある美しさの中にわざとそうしているのか表情の変化は少なめなのがノラの今の状況を物語っているようでした。
すごく声を張っているという訳ではないのに明瞭な台詞もさすがです。

山崎一さんのトルヴァルは、ノラが出て行った後、心身ともにかなり疲弊した感が漂い、いい感じに角が取れた中年おじさんになっていました。特に後半、血を流して再登場してからの感情の振り幅広い演技は見ものでした。

いかにも乳母然としている中にノラへの複雑な思いを見せる梅沢昌代さん、母がいなくてもきちんと育った利発な娘 エイミーを的確な演技で伝えた那須凛さん。
脇もそろってたっぷり会話劇が楽しめる舞台でした。



とはいうものの、静かに進む会話に記憶をなくしたことが二度三度 の地獄度 (total 2119 vs 2122 )


posted by スキップ at 22:51| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください