
ラインアップは
第一弾 鈴木裕美
第二弾 生瀬勝久
第三弾 河原雅彦
第四弾 三浦直之
第五弾 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
一番手は鈴木裕美さんで「フローズン・ビーチ」。
1998年にナイロン100℃で初演され、第43回岸田國士戯曲賞受賞した作品です。
市子を犬山イヌコさん、千津を峯村リエさんというナイロンの看板女優が演じた初演は観ていなくて、今回初見でした。
KERA CROSS 第一弾
「フローズン・ビーチ」
作: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出: 鈴木裕美
美術: 二村周作
出演: 鈴木杏 ブルゾンちえみ 花乃まりあ シルビア・グラブ
2019年8月17日(土) 5:00pm サンケイホールブリーゼ A列センター
(上演時間: 2時間15分)
海に向かって出窓バルコニーが広がる白亜のリビングルーム。
大西洋とカリブ海の間に浮かぶ小さな島の別荘がこの物語の舞台です。
裕福な実業家の娘 愛(花乃まりあ)と双子の姉 萌(花乃まりあ二役)、愛の幼馴染の千津(鈴木杏)とその友人・市子(ブルゾンちえみ)、そして愛・萌姉妹の父の後妻で盲目の咲恵(シルビア・グラブ)・・・5人の女性たちが繰り広げる数奇な運命の16年間を、1987年から8年ごとに描いた物語です。
1987年
愛が住む別荘に遊びに来ている千津と市子。
愛が継母の咲恵を憎悪する一方、千津は少女時代の恨みから愛に殺意を抱いており、無邪気な中に狂気を秘める市子とともに愛をバルコニーから突き落として殺害します・・・が、 愛は生きていて、心臓マヒで急死した萌のふりをして、萌を殺してしまったと思い込む咲恵を仰天させます・・・。
1995年
愛と咲恵が誤解やわだかまりも解け仲良く暮らす別荘を千津と市子が再び訪れます。千津は自分をだました愛に復讐するため、お土産に毒を仕込んで殺そうとしますが、反対に愛に刺されてしまいます・・・。
2003年
水没しつつある島で荒れ果てた別荘に愛・咲恵・千津・市子の4人が揃い、この別荘にずっと住む怪虫 カニバビロンに説教され、別荘のバルコニーから海に飛び込んで楽しそうにはしゃぎます。
ブラックでスリリング。
重いのにどこか軽やか。
悲惨なのになぜか明るい。
殺意に満ち溢れているのに、萌の不幸な事故死以外、誰も殺されない。
(千津が心臓の弱い萌に強い薬を飲ませたから、と後で告白していたけれど)
恨み、嫉妬、復讐、DV、流産、離婚、会社倒産、夫の自殺・・・悲惨な人生を背負いながら人間のネガティブな感情むき出しで本音をぶつけ合うような女性たちの会話はリアリティに満ちているのだけれども、年々の間に挟まれるナレーション(イタリア語みたいに聞えましたが、ケラさんの造語かな?)と明るい音楽、ポップな動画のおかげでどこか寓話的な印象もあって、それがこの物語を軽やかにしているのかもしれません。
残酷で皮肉な展開ではあるけれど、救済と希望もあって、ラストの4人の笑い声が明るい気分で終わらせてくれます。
「ノルウェイの森」(1987)、オウム真理教(1995)、バブル崩壊(2003)など、世相を反映した時事ネタが折々に盛り込まれていて懐かしくなったりクスリと笑ったり、空恐ろしくもなったり。
「ノルウェイの森」のあの赤と緑の表紙の初版本、私も持ってるし(笑)。
もっとも、初演時には2003年は未来だった訳で、実際の2003年を知っている私たちは、当時ケラさんが描いた“未来”が現実とも重なっていることにケラさんの視点の鋭さを思い知ることになります。このあたり、演劇の普遍性というか、時を超えて戯曲を上演する醍醐味でもあるなぁと思いました。
1987年に登場したカニバビロンという虫が2003年のラストではポルトガル語を話したり、という奇想天外な展開もケラさんらしいです。
1987年の場面で最初に千津が実家にかけていた電話を切らないままに場面が進行するのがとても気になっていて(国際電話で電話代高いとかいう会話あったし)、物語が進行する間、「あれ、切ってないよね?」とずっと気になっていたのですが、この場面の最後の方になってやっと咲恵さんが電話の相手と話すに至って、「やっぱり繋がったままだったんだ」と思った次第です・・・と私の中では一件落着していたら、なーんと2003年に咲恵さんが結婚することになったずーっと年下の男性がその時の電話の相手(千津の甥っ子)らしきことに収束して、「うわっ、ヤラレタわ!」となりました。伏線は必ず回収するケラさんですが、お見事でした。
そして、ナレーションの
癒える傷と癒えない傷
世の中には二種類の傷がある
という言葉がとても印象的でした。
初演を観ていませんので、ケラさんと鈴木裕美さんの演出の違いはよくわからないというのが正直なところ。
感触としては、綿密に計算された「会話劇」の面を強く出していて、闇の深さやブラック度、そして笑いは薄めという感じ。
いつもナイロンでイヌコさんやリエさんのエキセントリックなお芝居観ているので、キャストから受ける印象の違いもあるのかもしれません。
千津の持つ闇と懸命に生きるがゆえの滑稽さを直球の演技で見せた鈴木杏さん。
屈託のないキャラクターの中に常人の言葉が通じない不穏さを感じさせる市子のブルゾンちえみさん。
お嬢様らしい華やかさと傲慢さ、一方でしたたかな強さを持つ愛と萌を演じ分け花乃まりあさん。
盲目の演技も緻密、その陽気な明るさに救われる思いがする咲恵のシルビア・グラブさん。
皆さん熱演で、演劇、お笑い、元宝塚、ミュージカルと4人ともベースが異なっているのにアンサンブルもよかったです。
かのちゃん、降板された方の代役で後から入ってしかも二役で大変だったと思いますが、宝塚時代からよく通る声でお芝居も上手い娘役さんでした。もう台詞に緩急がつくといいかなとは思いますが、綺麗だし、これからのご活躍を期待しています。
こうなるとナイロン版観ていないのが悔やまれるなぁ のごくらく地獄度



