
西の方の会場へやってこない東コース(前回2016年は金沢まで観に行ったなぁ)ですが、唯一「びわ湖ホール」があって

正確にはその時点では演目と出演者のみの発表でしたが、「絶対この二人で『かさね』だよね」と確信。
果たしてそのとおりとなったのでした。
2019年度 全国公立文化施設協会主催 東コース
松竹大歌舞伎
2019年7月24日(水) 2:00pm 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
1階1C列センター
一、二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎 襲名披 口上
(上演時間: 10分)
下手から、松本錦吾・大谷廣太郎・松本幸四郎・松本白鸚・市川猿之助・市川高麗蔵 という並び。仕切りは中央コースの時と同様、白鸚さん自ら。
初日以来、各地ゆかりの話題を採り入れる猿之助さんのアカデミックな口上が話題となっていましたが、この日は、びわ湖の西岸 比叡山延暦寺の根本中堂にある1200年一度も灯りが絶えることのない“不滅の法灯”を紹介されて、高麗屋さんもこの法灯のように未来永劫 末永く続きますように、と三代の襲名を寿ぐ素敵なご挨拶でした。
高麗蔵さんは六月歌舞伎座で染五郎さんの相手役を勤めたことに触れられて(アグリッピーナね)、「舞台の上では私が染五郎さんの初恋の人です」とおっしゃって客席の笑いを誘っていました。
「この大津の皆さまに・・・」と穏やかな笑顔で何度もご当地に感謝を述べる白鸚さん
「益々芸道に精進致します」とキリリと語る幸四郎さん
万雷の拍手に包まれた口上でした。
二、双蝶々曲輪日記 引窓
出演: 松本幸四郎 市川高麗蔵 松本錦吾
大谷廣太郎 松本幸雀 松本白鸚 ほか
(上演時間: 1時間10分)
これまで何度も観ている「引窓」ですが、白鸚さんの濡髪、幸四郎さんの与兵衛 ともに拝見するのは初めてです。
幸四郎さんは染五郎時代に松竹座で濡髪を観たことがあって、このブログ検索してみたら2010年 七月大歌舞伎でした。もう9年も前なのね。
そうそう、あの時は仁左衛門さんが与兵衛で、「双蝶々曲輪日記」半通しだったのよねー。
町人から武士に取り立てられて、名前も南方十次兵衛と改める南与兵衛。
「両腰差せば南方十次兵衛」、「丸腰なれば今までの南与兵衛」という言葉通り、時代ものと世話ものが入り混じった役です。
とはいえ、仕官がかなった喜びも束の間、義母への孝行、その実の息子へのいたわりに満ちた与兵衛がより色濃く出た役づくり。後でプログラムを読むと、幸四郎さんが「与兵衛で居ることが大事です」とおっしゃっていて、「なるほどー」と思いました。
登場からの与兵衛は少し軽くてひょうきんな雰囲気も醸し出していましたが、柔和な笑顔が、水に映った濡髪の姿に気づくと一転険しい表情に。郷代官である南方十次兵衛の立場と息子を救いたい一心の母心を思いやる与兵衛との間で苦悩する姿が切なく印象的でした。
切なさは白鸚さんの濡髪も同様で、十次兵衛のお縄を受ける覚悟も母の願いを聞き入れて落ちることを承諾する時の表情が哀感に満ちて何とも切なかったです。
お幸がわが子濡髪を何としても生かそうとする母心に、与兵衛もお早も、当の濡髪までもが応えようとしているようでした。
お幸の幸雀さん、お早の高麗蔵さんもバランスよくて、こっくりとした一幕となりました。
三、色彩間苅豆 かさね
出演: 松本幸四郎 市川猿之助
(上演時間: 50分)
与右衛門(幸四郎)と腰元のかさね(猿之助)は、道ならぬ恋の果てに心中を約束した仲でしたが、与右衛門は土壇場で逃亡。追ってきたかさねと木下川の堤で再会します。
川面に流れてきた卒塔婆の髑髏に刺さった鎌を与右衛門が引き抜くと、美しいかさねの顔が恐ろしい形相に一変。これは、与右衛門が行った悪事の因果で、実は与右衛門はかさねの母と密通し、父を殺していたのです。与右衛門はその鎌でかさねを殺しますが・・・。
「連理引き」という言葉を私が初めて知った演目です。
連理引かれる染五郎さんが強く印象に残っていて、あの時のかさねは猿之助さんだと思いこんでいたのですが、幸四郎さんがインタビューで「猿之助さんと『かさね』をやるのは初めて」とおっしゃっていて、「???」となって調べてみたら、染五郎さんで観た時のかさねは時蔵さんで、猿之助さんは2006年の四国こんぴら歌舞伎で海老蔵さんとやったかさねを観ていた模様。
すっかり勘違いしていて、2017年の「俳優祭」の感想にも、「花道の引っ込みでは、猿之助さんかぐや姫に何度も連理引きで呼び戻され(2人でやった「かさね」思い出しました)と書いていましたよ(こちら→訂正済)。
白鸚さんが口上で「私の口から申すのも何ですが、今の歌舞伎界でも踊り巧者の二人が・・・」とおっしゃっていた通り、とても見応えのある「かさね」でした。
幸四郎さんの色悪大好物のワタクシといたしましては、この与右衛門は本当にドンピシャなのです。
ぬれた髪をなでつける仕草の色っぽさ、かさねの帯蹴り上げて橋の下に垂れ流す荒々しさ、醜い顔となったかさねに鏡をつきつける冷酷さ・・・たまらんね(←どんなM)。
一つひとつの型もぴたりとキマり、連理引きされる時のあのまさに操られている感じは本当にすごい。
猿之助さんのかさねがまたすばらしくて。
くどきの部分のいじらしさ、かわいらしさ、騙されて殺される哀れさ、そして怨霊となって与右衛門を引き戻す場面のおどろおどろしさ、凄み。
殺される場面の綺麗な海老反りと、死んでしまったかさねの左手だけがそっと動いて与右衛門を手招きするその指の表情の哀しいほどの美しさにも見とれました。
幕が取り払われ清元さんが登場した時、「そうだ!右近くん出てるんだった」と思い出しました。
清元の延寿太夫さん、栄寿太夫さん、美好太夫さん同行という豪華な巡業。
栄寿太夫こと尾上右近くんの舞台での清元は初めて聴きました。
清元としてはちょっと力入りすぎというか声量ありすぎかなぁとも感じましたが、相変わらずよいお声を響かせていました。
幕が下りた瞬間、「もう1回観た~い!!」となった演目。
歌舞伎座か松竹座の本興行でやっていただけないかしら。
ともあれ、6月30日から7月31日まで 暑い中 東は北海道から西は滋賀県まで、24ヵ所の巡業 本当にお疲れさまでした。

暑い日で、大津駅からテクテク歩いてびわ湖ホールの駐車場にこの巡業トラックを発見した時はすごくうれしかったよね~ のごくらく地獄度



