2019年07月22日

カインとアベルではなかったけれど 「黒白珠」


kokubyakuju.jpg青木豪さんの書き下ろし、演出は河原雅彦さん。
モチーフは旧約聖書の「カインとアベル」と「エデンの東」。

キャスト二の次でチケット取りましたので、主演はともかく、村井國夫・ 高橋惠子・ 風間杜夫と揃った脇を固める豪華配役に当日ロビーでポスター見て驚く(←)。


「黒白珠」
脚本: 青木豪
演出: 河原正彦
美術: 松井るみ
出演: 松下優也  平間壮一   清水くるみ  平田敦子  
植本純米  青谷優衣  村井國夫   高橋惠子  風間杜夫

2019年6月30日(日) 12:00pm 兵庫県立芸術文化センター 
阪急中ホール 1階G列センター
(上演時間: 2時間20分/休憩 15分)



物語の舞台は1994年の長崎県 大村。
真珠の加工・販売会社を経営する信谷大地(風間杜夫)には双子の息子がいます。
兄の勇(松下優也) は高校卒業後、職を転々としながら今も実家暮らし、弟の光(平間壮一) は東京で早稲田大学に通っていました。
光が突然帰郷したのと時を同じくして、脳溢血の影響で記憶が曖昧となった女性(高橋惠子)が大地のはとこ 須崎英光(村井國夫)の娘が経営するグループホームに入所してきました。彼女こそ、勇と光の母 純子で、二人が幼い頃、叔父と不倫の末、駆け落ちして家を出たと噂されていた女性でした・・・・。


舞台中央の一段高いところに教会があって、それを中心に上下左右4つの場所(父と勇が暮らす家、フランス料理店、真珠の養殖場、グループホームなど)で物語が展開します。
長崎の海辺の町の、潮の香りがするような牧歌的な雰囲気のせいか、可愛らしい方言の影響か、物語全体にどこかゆるりとした温かい雰囲気が漂っていました。

率直な感触としては、「エデンの東」でも、まして「カインとアベル」ではないという印象。
肉親間の愛憎とか兄弟が憎しみ合っているということはなく、勇はできのよい弟の光にそれほどコンプレックスを持っている訳でもなさそうですし、光を可愛がる父への葛藤を抱えている風でもありません。
一つあるとすれば、「父親の実の子ではないかもしれない」という疑念を消化できずにいることでしょうか。


物語は、そういった兄と弟、父と息子という人間関係の心の機微より、「幼い頃出奔した母」の謎解きにウエイトが置かれているように感じました。

兄弟が小学生のときに子猫を助けようと畳を上げていたら父親に激しく叱られた、といった細かいピースを繋ぎ合わせて母親失踪の真相を導き出す展開はそれなりにおもしろかったですし、さらには、母の純子が記憶を取り戻したにもかかわらず、「叔父と駆け落ちした」という嘘をつき続けることを選ぶ結末はなかなか切ない・・・ですが、拭いきれない「こういうのが観たかったんじゃないのよ」感。
いや~、最初の期待が大きすぎましたかね。


松下優也くんの勇は、何かに夢中になるとか、そのために努力するような目的を見つけることができずにいる若者像がリアル。粗野でこらえ性がないお馬鹿だけど、どこか憎めない可愛らしさもあって、彼を見ていると、女の子は優等生タイプより勇のような男の子に惹かれてしまうのよね~というのがよくわかります。

清水くるみさん演じる恋人の松原花苗が肝の据わったとてもいい子で、それだけでも勇の魅力が知れようというものです。


風間杜夫さんと村井國夫さんの軽妙なやり取りなんて大ご馳走だし、透明感のある美しさに儚さと脆さ併せ持つ高橋惠子さんはとても素敵だし、平田敦子さん、植本純米さんのお笑い担当(?)は絶妙なクッションだし(ストーリー上必要かどうかは別として)、本当に贅沢なキャストでしたが、ストーリー的には直球すぎて、もうひとひねり欲しいというか、もっとドロドロ希望というか、何だかもったいない印象でした。



「衝撃の真実を解き明かすパンドラの箱」ってちょっとオーバーすぎない? の地獄度 (total 2079 vs 2081 )


posted by スキップ at 23:32| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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