2019年06月29日

分かる/分からないで語れない物語 「獣の柱」


kemononohashira2019.jpgこれは世界に「なんで?」と問いかけるところから始まる話で、「なぜこんなことが起こるのか」という不条理になんとか解釈や物語で受け止めようとする話で、なので「分かる」ということは無いですよ。問いを受け取り、どう解釈するかだけで。そもそも物語は、分かる/分からない、で語れないです。


公演全日程終了後に前川知大さんがTwitterでこんなふうにつぶやいていらっしゃいました。
私ももちろん観終わった後だったのですが、いや~、そうだよなぁと思いました。

それはある日突然地上に降り注ぎ、人々にとてつもない幸福感を与え、そして支配する、巨大な柱の物語。


イキウメ 「獣の柱」
作・演出: 前川知大
美術: 土岐研一  音楽: かみむら周平
出演: 浜田信也  安井順平  盛隆二  森下創  大窪人衛 /
村川絵梨  松岡依都美  薬丸翔  東野絢香  市川しんぺー

2019年6月16日(日) 2:00pm サンケイホールブリーゼ 1階C列センター
(上演時間: 2時間15分)



2013年に上演された「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」(感想はこちら)の再演。
2008年の短編「瞬きさせない宇宙の幸福」がオリジナルということですが、そちらは未見です。


四国の山村で暮らす天文マニアの二階堂望(浜田信也)が拾った隕石は、見る者にとてつもない幸福感を与え、思考能力を奪い、やがて死へと導く不思議な力を持っていました。渋谷のスクランブル交差点で起こった事故の原因が同じものにあると感じ、天文マニア仲間で農業を営む山田輝夫(安井順平)、望の妹で小説家の桜(村川絵梨)ととともに桜の元夫 新聞記者の有馬(盛隆二)に話をしに行きますが、望は忽然と姿を消します。1年後、世界の人口密集地に巨大な柱が次々と降り注ぎ・・・。


前川さんご自身が「柱の設定は変わりません。ただ、今回は、柱に関する解釈をより明確な形で提示したいと考えています」とおっしゃっていた通り、物語や登場人物はほぼ2013年版と同じ。
二つの時代が時空を超えて交錯し、柱の謎解きと、柱の力に屈したり抗って立ち向かおうとする人々が描かれているのも同様です(時代設定が前回は2008年・2096年、今回は2001年・2051年という違いはあったけれど)。


「黙示録」の七人のらっぱ吹きの天使や「受肉の存在」に代表される聖書の世界観が、前川知大さんのSF的な筆致とシンクロして、何とも想像力や好奇心を刺激される作品です。
イキウメの作品を観る時、客席も舞台で繰り広げられることにとても集中して、静まりかえって固唾をのんで観ているという雰囲気がすごくあって、この客席の空気感も好きです。


柱が象徴するものは、天災だったり、核の脅威だったり、インターネット中毒のようでもあったり、あるいは私たちの知らない宇宙からの侵略のようにも思えます。
提示されているいくつかの「柱」の解釈について、これが正解と劇中では明らかにされず、答えは観客に委ねられるというところも前作同様ですが、柱は何者かが降り注がせているのではなく、成層圏内(地球の内側)から降りているのではないか、つまり、気象現象ではないか、という桜の解釈は今回新たに加わったものですね。
善とか悪とか倫理とか、そういったものを超越した自然現象だと捉えると未来の世界に柱を克服した世代が出現するのもより自然な流れのように感じました。


神なき世界と言われる現代へ警鐘を鳴らすかのような聖書をメタファーした終末観と、兄妹、恋人といったエモーショナルな部分の描き方のバランスが絶妙なのは相変わらずですが、物語自体としては確かに今回の方がよく整理されてわかりやすくなっていると思います。
が、どちらが、と問われれば、私は2013年版の方が好き。

最初に観たインパクトというのもありつつ、わからない部分も含めて、余白や余韻が大きかった印象です。
あと、池田成志さん演じたらっぱ屋の存在が大きかったかな。
いかにも胡散臭そうな雰囲気プンプンのらっぱ屋が、病に冒され、死ぬために柱を見ようとした妻を制して後ろから抱き抱え、その目を覆う姿が今でも目に浮かびます。

対して今回のらっぱ屋は市川しんぺーさん。
圧倒的な俗物っぷりとふてぶてしい小悪党感(ほめています)。
極限状況の中、したたかに生き抜くラッパ屋 佐久間と堀田蘭(松岡依都美)カップルに対して、自給自足の生活を整えて人々を守ろうとする最強の農家・山田と望の妹の桜という二組の男女の対比が鮮やか。

安井順平さんの山田が、軽妙な感じはありつつ、極限状態の中で本質的な正義感が現れてくるところもよかったな。
それだけに、50年後、山田の孫の和夫(大窪人衛)が語る祖父母の最期はとても切なかったです。

浜田信也さんの、ごくごく普通の天文好きのサラリーマンが、がらりと変貌する「人外のもの」感も相変わらず凄まじい。
「僕は喋っていません。貴方がたの脳に直接語りかけています」とニコリともせず彼に言われたら、「そうなのか」という気にさえなりそうです。

村川絵梨さんは「たとえば野に咲く花のように」のあかね役が印象に残っていますが、今回もとてもよかったです。
女優さんがいないイキウメは、女優さんはすべて客演ですが、今回の村川さんや「散歩する侵略者」の内田慈さんなど、「これまで舞台で観たことがあるいい役者さんだけどそこまでメジャーじゃない」女優さんがキャスティングされていて、どこで発見してどういう基準でキャスティングされているのか、一度前川さんに伺ってみたいところです(笑)。



image1 (2).jpg

ブリーゼのロビーにはこの文字の部分だけのボードがありました。
この文字、ドライフラワーでつくってあるのだそうです。
デザイナーさんの並々ならぬ意欲を感じます。



2013年版がまた観たくなっちゃったなぁ のごくらく地獄度 (total 2070 vs 2073 )


posted by スキップ at 23:10| Comment(2) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
イキウメの不可思議な世界観はクセになりますよね~(*^^*)そうそう、客席も集中しますね。次のお芝居も観ようと思わせる面々なんです♪
Posted by あいらぶけろちゃん at 2019年07月02日 20:22
♪あいらぶけろちゃんさま

自分の中で咀嚼しきれない部分も含めて、前川さんが描かれる
イキウメワールド、好きです。
役者さんも皆さんピタリと役にハマっていますよね。
前川さんの次回作「終わりのない」にもイキウメの役者さんたち
揃ってご出演のようで楽しみです。
Posted by スキップ at 2019年07月03日 00:05
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