2019年06月02日

差し出す手の不気味さ 「クラッシャー女中」


crusher.jpg根本宗子さんが「皆、シンデレラがやりたい。」(2017)に続いてM&Oplaysとタッグを組んだ公演の第2弾。
前作を観ていませんので、これが私のねもしゅーデビューです。


M&Oplaysプロデュース 「クラッシャー女中」
作・演出: 根本宗子
美術: 原田愛
出演: 麻生久美子  中村倫也  趣里  
佐藤真弓  根本宗子  田村健太郎  西田尚美

2019年4月20日(土) 5:00pm 
シアター・ドラマシティ 4列センター (上演時間: 2時間20分)



ポップでカラフルな舞台装置。
開演時間になると、「あら?そろそろ始まるのかしら?」という声が聞こえ、根本宗子さん、趣里さん、田村健太郎さんが登場。
椅子を動かしたり、テーブルを運んだり、カーテンを取り付けたり、と働き始めます。

「あ、まだお芝居始まっていないんで」と根本さん。「皆さん携帯の電源とか音の出るもの、今の内に切って下さいねー」と開演前の諸注意を。
「この後、義則って役の人が現れたら、そこからお芝居開始なんです」
と言って、しばらくそのままセットに座って3人で雑談。
あー、こういう感じなんだ、と思っているところへ中村倫也くん登場して開演です。


物語: 世界的画家 小笠原義一の息子・義則(中村倫也)は父亡き後、人気デザイナーとして成功を手にし、息子を溺愛する母親 和紗(西田尚美)、2人の女中(佐藤真弓・根本宗子)、義則の幼なじみで小笠原家の養子となった華鹿男(カカオ/田村健太郎)とともに大きなお屋敷で暮らしていました。
そこへ、義則がひと目ぼれした女性 ノエル(趣里)が婚約者としてこの屋敷にやって来ます。彼女はゆみ子(麻生久美子)という女中を伴っていました。この2人が現れたことで、隠された真実が次々とあらわになり・・・。


物語の中で明かされる隠された真実というのはこうです。
・華鹿男の家に放火して華鹿男の両親を殺したのは義則の父 義一。
・孤児になった華鹿男を引き取って義則と一緒に育てたのは一人っ子の義則の性格改善のため。
・ノエルはその火事で死んだはずだった華鹿男の妹。両親の復讐のために義則に近づき、屋敷に乗り込んできた。
・ゆみ子は義則と華鹿男の小学生時代の同級生でずっと義則に片思いしていたが、印象が薄く2人とも彼女を覚えていない。
・義則のデザイナーの仕事を肩代わりしていたのは女中の花代・・の仕事をさらに肩代わりしていたのはゆみ子。
・精神的に不安定な母 和紗のカウンセリングしていたのもゆみ子。
・ノエルが義則に見初められるように仕掛けたのもゆみ子。


ポップな衣装や舞台装置、そして折々に挟み込まれる笑いのせいで明るく軽いタッチの作品と勘違いしそうになりますが、内容としては事象の一つひとつが暗く重く、どちらかといえばブラックで陰湿な感じ。
ゆみ子を筆頭に登場人物も誰ひとりまともな人はいなくて、みんなどこか歪んでいます。

とりわけ、ゆみ子の不気味なこと。
自分が仕組んだすべてを明らかにして、意気消沈する義則に右手を差し出すゆみ子。

「はい!私はずっとこうしたかったの」
「大好きな義則くんがみんなに見捨てられて孤独な時に、私だけは味方だよって、こうして手を差し伸べたかったの」
義則 怒る → ゆみ子 手を差し出す
義則 呆れる → ゆみ子 手を差し出す
が何度も繰り返されます。

ゆみ子は義則のことがずっと好きだったというけれど、その行動は義則を「自分のもの」にすることがすべてで、目の前の義則の言葉さえ聞く耳を持っていません。おそろしくもあり苛立たしくもあって、このあたり、観ているのが結構辛かったな。
これ、1回でバシッと終わった方がより印象的なのでは?とも思いましたが、舞台はさらに続いて、
「ほんと、義則くんって変わってるよね。AB型だもんね」とゆみ子。
「え?俺AB型じゃないけど?」と義則。

ここで、「ゆみ子がずっと片思いしていたと思っていた義則は実はこの義則とは別人だった」というシュールな結末なのか、と想像したのですが、さにあらず。
「じゃあB型?」「違う」「A型?」という会話が続き、義則はO型とわかって、「君もO型でしょ?」という義則に「違う」とゆみ子が答えて幕。

うーん。


役者さんたちは皆さん達者で楽しい舞台ではありました。
中村倫也くんは、王子様キャラだったり甘えん坊だったり恋する男子だったりオレ様だったり、Sっぷり炸裂させたり、いろんな顔を見せて私たちを楽しませてくれました。相変わらずいい声で台詞くっきり。

ゆみ子はゆみ子自体が受け入れられなくて、とても嫌悪感というか苦手感が漂うのですが、裏を返せばそれだけ麻生久美子さんが上手いということだと思います。

華鹿男の田村健太郎さんもよかったです。
両親を亡くして裕福な家に引き取られて、快適な生活に染まってヘラヘラしているような華鹿男が妹のノエルに復讐心の話をする場面、好きでした。

そのノエルの趣里さん。小さい体のどこに?と思うくらいエネルギッシュなお芝居。
「色白で背が小さくて目が離れている女の子」という義則の理想が、まんま趣里ちゃんで笑ってしまいました。
義則がノエルのためにつくったドレス、本当にかわいかったな。

ちなみに、趣理ちゃんの役名、当日配布されたキャスト表や公式サイトには「静香」と書かれていましたが、劇中はずっと「ノエル」。確かにカカオとノエルの方が兄妹っぽい(家はチョコレート屋さんだし)。
そういえば、公式サイトのあらすじも、後で読んだら実際のストーリーとは違った感じで、当初のプランとは別の方向になったということでしょうかね。



それなら公式サイトもアップデートすればいいのに の地獄度 (total 2057 vs 2060 )


posted by スキップ at 22:54| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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