2019年05月30日

1+1は2であると言えること 「良い子はみんなご褒美がもらえる」


yoiko.jpg反体制分子は精神的に狂っているのだから病院で治療するか抹殺するしかないという社会。

「自分自身に正直に生きるということは 1+1は2 であると言えることだ」というアレクサンドルの言葉が胸に響きます。


俳優とオーケストラのための戯曲
「良い子はみんなご褒美がもらえる」
作: トム・ストッパード
作曲: アンドレ・プレヴィン
翻訳: 常田景子
演出: ウィル・タケット
指揮: ヤニック・パジェ
出演: 堤真一  橋本良亮  小手伸也  シム・ウンギョン  外山誠二  斉藤由貴
川合ロン  鈴木奈菜  田中美甫  中西彩加  中林舞  松尾望  宮河愛一郎

2019年5月11日(土) 5:00pm フェスティバルホール 1階2列センター
(上演時間: 1時間15分)



舞台上手下手に二階建てのパイプセット。
中央に4段ほどの階段が設えられ、その向こうに指揮者と35人のオーケストラ。
6人のアンサンブルが民衆だったり体制側の軍人だったり、シーンによって変わる役割をダンスで表現する抽象的な舞台。

トム・ストッパードさんの作品は何作か観たことありますが、真っ先に浮かぶのは「アルカディア」
あの難解だけど繊細な世界観が好きだったのでこの作品も楽しみにしていたのですが、さらに難解だったなー。


舞台は1970年代のとある独裁国家(ソビエトと思われる)の精神病院の一室。
体制への誹謗罪で捕えられた政治犯 アレクサンドル・イワノフ(堤真一)と、自分はオーケストラを連れているという妄想に囚われた男 アレクサンドル・イワノフ(橋本良亮)が同室になります。
この2人に、バイオリン奏者でもある医師(小手伸也)、アレクサンドルの息子サーシャ(シム・ウンギョン)と教師(斉藤由貴)がからんで物語は進みます。信念を貫くためにハンストをして抵抗するアレクサンドルに手を焼いた大佐(外山誠二)は・・・。


「良い子はみんなご褒美がもらえる」という印象的なタイトルの原題は “Every Good Boy Deserves Favour”
五線譜を覚えるための英語の語呂合わせなのだそうです。
日本語の音階で五線譜上のミ・ソ・シ・レ・ファにあたるものが英語でE G B D F でこのセンテンスの頭文字という訳です。

この語呂合わせのように「社会はそういうものだから、従っていればいいのだ」と教え込まれ、何の疑問もなく生活している世界。
「良い子」は自分の意見や信念など持たず、体制(国家)に楯突かないで言われた通りに従う人々
「ご褒美」はそんな良い子にだけ与えられる自由(釈放とか退院とか)
のメタファーになっているのでしょうか。


命を賭してハンストを決行したアレクサンドル。
彼が求めていたのは「自由になること」でも、「嘘をついてでもいいから帰ってきて」と願った息子のサーシャのもとに戻ることでもなく、自分の真実を貫き通すこと。

有名人であるアレクサンドルがハンストで死んでしまっては困るので、何としても彼が自分の主張が間違いだったと認めた=正気に戻った から退院させたことにしたい体制(国家)。
アレクサンドル(堤)とイワノフ(橋本) 2人が同姓同名であることを利用して巧みな質問をして、2人を取り違えたふりをしてアレクサンドルを退院させます。

退院の日。
放心したように目に見えないオーケストラの前に立ち、指揮棒を掲げるアレクサンドル。
アレクサンドルの精神が破たんしてしまったことを象徴する、何ともやり切れない、そして怖いラストシーンでした。
国家が個人の自由を操るおそろしさは現代にも通じていて、1977年初演というこの作品の普遍性を感じます。

イワノフはこの物語にとってどんな存在だったのかなと考えます。
組織化され、統制のとれたオーケストラは現体制=国家のシンボルでしょうか。
とすれば、人には見えなくても、自分の頭の中にあるオーケストラを思うままに指揮し、演奏するイワノフは、国家に操られることなく、心の自由を持っているということ。
アレクサンドルに、「聞こえる?」「どんな楽器が弾ける?」と聞いていたのは、自分の中にある自由な世界を教えてあげたかったのかな。
そう考えると、ラスト 見えないオーケストラの前に立つアレクサンドルもイワノフ同様、心の自由を得たということになるのでしょうか。


堤真一さんは力強い台詞で舞台を牽引。
橋本良亮くんも声は届くし、一点を見つめる眼差しが病んだ心を表していて、Jの人、初めて観る人観る人実力あってほんとすばらし。
ユーモラスな雰囲気がほっとする小手伸也さん、客席から登場した時「何者?」と思ったくらい存在感たっぷりの外山誠二さん、透明感ある少年のシム・ウンギョンさん、舞台で観るの久しぶり~(「紫式部ダイアリー」以来かな)の斉藤由貴さん と共演者も彩り豊か。


たとえばイワノフが持つトライアングルなど、何かの象徴かもしれない事象や台詞がたくさん出てくるのですが、残念ながら私には理解が及ばないことしばしば。
「事前に予習しなければ伝わらないような作品」をよしとしない不肖スキップではありますが(そしてもちろんこの舞台も予習なんてしなかった)、せめて公式サイトくらいは見ておけばよかったかなと思いました。




終演後も「全然わからんかったわ~」と言ってる人続出 の地獄度 (total 2056 vs 2057 )



posted by スキップ at 21:15| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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