2019年05月19日

俺はジュリアン 星組 「アルジェの男」


arje2019.jpg星組次期トップスター 礼真琴さん。
令和最初のトップスター。
お披露目は宝塚初演のフレンチミュージカルで新劇場のこけら落としシリーズ。
そして、宝塚歌劇令和初の全国ツアー公演主演。

劇団の期待の大きさ 、チカラの入れようもさることながら、ご本人の強運も際立ちます。


宝塚歌劇星組 全国ツアー公演
ミュージカル・ロマン  「アルジェの男」
作: 柴田侑宏
演出: 大野拓史
出演: 礼真琴  音波みのり  万里柚美  白妙なつ  
大輝真琴  漣レイラ  紫藤りゅう  朝水りょう  
小桜ほのか  桜庭舞  極美慎/愛月ひかる ほか

2019年5月6日(月) 4:30pm 梅田芸術劇場 2階1列センター
(上演時間: 1時間30分)



柴田侑宏先生のオリジナル名作のひとつ。
スタンダールの「赤と黒」をベースにして、第2次世界大戦前のフランス領アルジェリアの首都アルジェとパリを舞台に、野望に満ち、自分に心を寄せる女性を利用して成功への道を駈け上がろうとする青年ジュリアンと、その彼に心惹かれ、悲しい運命を辿ることになる三人の女性たちを描いた作品。
1974年に鳳蘭主演、1983年に峰さを理主演、2011年には霧矢大夢主演で上演された作品で、私は2011年月組版だけ観ています(こちら)が、今回は演出を初演の星組版に戻しての上演だそうです。


不良仲間のジャック(愛月ひかる)と賭けをして、総督(朝水りょう)の財布をすろうとしたジュリアン(礼真琴)が、総督に見込まれて運転手として雇われ、やがてパリに同行して秘書官となります。反発しつつもジュリアンに惹かれる総督の娘エリザベート(桜庭舞)、社交界の実力者 ・シャルドンヌ公爵夫人(万里柚美)のめいで盲目のアナ・ベル(小桜ほのか)などがジュリアンの周りを取り巻きますが、彼を追ってサビーヌ(音波みのり)もアルジェからパリへ出て踊り子となっていました。出世の階段を上るジュリアンの前にジャックが現れ・・・。


いや~、やっぱり名作。
暗いアルジェの街と華やかなパリ・・・そこにジュリアンの人生を重ねて対比させていく構成。言葉が練られた台詞が耳に心地よくて、楽曲も素敵だし、サビーヌやエリザベートのクラシカルな衣装もかわいい。
結末を知っているので観ていても切なさが募るのですが、ずっと惹き込まれて観ました。
礼真琴さんのジュリアンがすばらしいのはもちろん、ジャックの愛月ひかるさんのクズ男ぶりがとてもよくて、初めて観る2人の組合せが新鮮でした。


「俺はジュリアン」と語り始める礼真琴さんのジュリアン。いい声だ~。
オープニングのダンスのカッコよさ。
暗く鬱屈した表情の青年が人生の目標を見出し、どんどん洗練されていく姿を描出。
アルジェから5年後、シャルドンヌ公爵夫人のガーデンパーティに現れたジュリアンは水もしたたるいい男っぷりです。

アナ・ベルの首筋に後ろからキスして、「あなたはもっとあなたの価値を知るべきだ」とまるで感情のない冷たい目をして言うジュリアン。
エリザベートについに愛を告白され、「僕も君を愛してるよ」」と抱きしめながら、まるで「ついに屈服させてやったぜ」とでもいうような笑みを浮かべるジュリアン。
自分の出世のためには女性を踏み台にすることなど何とも思わないジュリアンが、「自分は大切なものを見失っていた」と、ただ一人心から愛していることに気づいたサビーヌ。
その気持ちに気づくのがサビーヌがジャックを殺した後だという運命が何とも哀しい。
そこに重なる悲劇。
一発、二発とジュリアンの体を貫く銃弾。
礼真琴さん、撃たれる演技も上手い。身体能力の高さに加えて、耳もいいのでしょう。
芝居、歌、ダンス どれをとってもハイレベルなクオリティ、ほんとすごい。

ジャックの愛月ひかるさんがあっぱれなクズ男っぷり。
悪役フェチとしては、めちゃ好物です。
宙組から専科に異動して初の他組出演ですが、オープニングの不良たちのダンスシーンで後から登場する愛月さんのオーラは、やはり他の人たちとは一線を画していて、カッコイイ~と目が釘付けになりました。

この演目が発表された時、サビーヌ誰やるんだろ?あのまりもちゃん(蒼乃夕妃)がやったおへそ出しダンス、あるよね」と興味シンシンだったのですが音波みのりさんでした。
場末の踊り子には清純そうすぎるかな~とも思いましたが、一途にジュリアンを想って彼の出世の邪魔はしたくないと陰から見守るいじらしさがよく伝わって、こんなサビーヌならそりゃジュリアンも心を改めるでしょうよと納得。

ボランジュ総督がイケオジで誰?と思ったら朝水りょうさんでした。
クールビューティの朝水くん、月組では組長の越乃リュウさんがやった重厚な総督をを迫力たっぷりに演じていていてよかった。
そしてボランジュ夫人は白妙なつさん。いかにもお育ちがよさそうな上品さと鷹揚な雰囲気で、ジュリアンを「スリさん、スリさん」と屈託なく呼んだり、とても明るくてチャーミング。
「あんたのかみさん、少し頭がおかしいんじゃないのか?」と言うジュリアンに、「お前にはあれの良さはわからんよ」と受け流す総督。
「あの子、変わってるでしょう?」とエリザベートのことを言う夫人に、「みんな変わってるよ」と呆れるジュリアン(笑)。

ボランジュ夫人がジュリアンに夜食を出す場面は全国ツアー各地の名物を入れるアドリブコーナーにもなっているようで、私が観た日は「くいだおれ太郎のお菓子を出してさしあげて」でした。
ちゃんとくいだおれ太郎のパッケージが出てきて、それを手にとって怪訝そうに見つめるジュリアンがツボでした。

アナ・ベルの小桜ほのかさんとアンドレの極美慎さんがこれまたとてもよくて、二人の切なさに涙。
ジュリアンとエリザベートやりとりを見てしまったアナ・ベル。
ショックでふらつくアナ・ベルをさっとお姫様抱っこするアンドレ。すごく軽々抱っこしている感じがめちゃオトコマエ。片膝ついてそっとおろす所作も美しい。
「私を湖のある屋敷へ連れて行って。おばさまには、以前あった胸の病気だったということにしましょう」と言うアナ・ベル。
多分そこで死ぬつもりなんだ・・・それを客席に背を向け、膝をついて聴くアンドレ。だんだんと俯いて・・・この顔を見せない背中の演技が切なくてウルウル。
ピアノで奏でたドビュッシーの「月の光」の美しい旋律を歌うアナ・ベルがとても透明感があって、哀しい。


ジュリアンのためにジャックを殺してしまったサビーヌ。
ジュリアンを思うアナ・ベルが絶望して自殺し、アナ・ベルを思うアンドレの銃弾に倒れるジュリアン。
サビーヌと二人、新しい道を歩もうとしていた矢先に突然終焉を迎える人生が切なすぎる幕切れでした。




ショー「ESTRELLAS」につづく

posted by スキップ at 14:43| Comment(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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