2019年05月05日

知らない人でいこう 出会い直そう  「世界は一人」


sekai.jpg知らない人でいこう 出会い直そう
お互い ちょっとした嘘を背負って 出会い直そう
知らない人でいこう 出会い直そう
知っていたお互いの諸々 全て忘れて 出会い直そう

この切ない歌詞と旋律が今も耳に残ります。


そんなふうに出会い直すことができたら、どんなに幸せだろう。
でも、海の底に積み重なった汚泥が消え去ることはないし、汚染された水が澄むことは二度とないんだ。


パルコ・プロデュース  「世界は一人」
作・演出: 岩井秀人
音楽: 前野健太
出演: 松尾スズキ  松たか子  瑛太  
平田敦子  菅原永二  平原テツ  古川琴音
演奏: 前野健太と世界は一人
    (Vo,Gt. 前野健太  B. 種石幸也  Pf. 佐山こうた  Drs. 小宮山純平)

2019年3月30日(土) 6:00pm シアター・ドラマシティ 8列下手
(上演時間: 2時間15分)



ハイバイの岩井秀人さんが、シンガー・ソングライターの前野健太さんと組んで初めて手がけた音楽劇。
かつて製鉄業で栄え、今はうらぶれた北九州の海辺の町で育った3人の幼なじみの辛い人生を辿る物語です。
鉄パイプの枠組みだけの舞台装置を役者さんたちが回しながら、物語は過去と現在が交錯して進みます。


ガキ大将的存在だった良平(瑛太)は、宿泊教室でおねしょをした布団を気弱な吾郎(松尾スズキ)のしたことにして誤魔化しますが、「お前がおねしょしたこと知ってるぞ」という差出人不明の手紙を受け取って引きこもりとなってしまいます。

裕福な家庭ながら母親にネグレクトされて育った美子<みこ>(松たか子)は友人に誘われてやった盗みがバレて補導され、精神を病んで自宅マンションの5階から飛び降り自殺を図りますが死に切れず寝たきりとなります。数年後、奇跡的に意識が回復して退院した時には母はマンションを売り払い行方不明となっていました。

両親に愛されて育った吾郎ですが、祖母の介護をきっかけに家庭は崩壊し、東京へ出た吾郎はお人好しで気弱な性格が災いして、人を騙したり陥れたりして稼ぐような悪徳ブローカーの仕事に手を染めてしまいます。

ある日東京で偶然再会した吾郎と美子は互いに知らない人のふりをして会話し、一夜を共にします。
やがて結婚して地元に戻った二人に藍(平田敦子)という娘が生まれますが、美子が溺愛して過干渉となり、藍は外の世界を激しく怖がるようになります。
そんな折、引きこもり立ち直りつつあった良平が藍を誘拐して・・・。


こうして筋を追っていくと何とも救いのない悲惨な人生の話のように感じられますが、物語は淡々と進み、時には家族の幸福感が描かれ、笑いも挟み込まれますので、観ている方の心情としてはそこまで重く沈み込まない印象です。
ハイバイの作品でもそうですが、岩井さんは「不幸」や「悲劇」を情け容赦なく描いてはいるけれど、その悲惨さを特に強調するというのでも、特別なこととして捉えるのでもなく、この不幸は誰にでも起こりうること、という筆致で、観ている側の安易な感情移入をシャットダウンしているようにも感じられました。

冒頭に描かれたおねしょの一件は、良平に手紙を送ったのは俺、と吾郎が得意気に美子に告白してブラックぶりを垣間見せたりもするのですが、最後に、そもそも良平のおねしょ自体が美子が良平に押し付けたものだったことが明らかになるという、なかなかエッジの効いた幕切れでした。


美子と吾郎が再会した時、知らない人のふりをして会話する、というところがワタシ的に一番心に響いた場面。
ともに辛い過去を背負い、それが重すぎてそのことに触れたら壊れてしまう・・・お互いにそれを察知して咄嗟に知らない人のふりをする二人が切ない。
そこで歌われる ♪知らない人でいこう 出会い直そう・・・

ただ、感覚としては、部屋に引きこもる藍のもとにもう一人の藍((古川琴音)が現れて外に連れ出そうとする場面など、現実と幻想の曖昧さもあって、完全に理解できた、物語の世界に寄り添えたという自信はなくて、もう一度最初から観直したらいろんなピースが繋がって、自分の中でもっと物語が立ち上がってくるのかなぁという思いはあります。


松尾スズキ、松たか子、瑛太が同級生で、小学生から四十代までを演じるって、これだけでも観る価値あると思えるキャスティング。
皆さんよかったですが、一つ挙げるとすれば松たか子さんの歌かな。
歌が上手いのは周知のことですが、音楽劇やミュージカルの歌は台詞でありその人物の心の声でもある訳で、歌で役の心を表現できるすばらしさを改めて思い知りました。
美子が歌う ♪知らない人でいこう 出会い直そう がどれほど心に染み入ったことか。

体型の効果もあってか(?)平田敦子さん演じる藍の独特の存在感も際立っていました。
あの大きな藍を抱きかかえる美子という図式が何とも・・・。
平田さんは開演前の前説も担当されていて、トコトコと舞台に出てきて「間もなく始まりますが・・・飲物はもう仕方なにのでどんどん飲んじゃってください。飴の包みを気を遣ってじわじわむくとかえって・・・」とハイバイ公演でお約束の説明を。

前野健太さんの音楽もとても印象的でした。
時にはぐっと前に出たり、BGM的だったりして演奏され歌われる曲たち。
彩り豊かな曲調も、前野さんの特徴ある艶っぽい歌声も素敵でした。



image1.jpg

ロビーにはポスター全種類展示


image2 (4).jpg

これは見たことないデザイン
(この画像では何かよく見えませんが)



うーん、もう1回観たかったような もうおなかいっぱいのような のごくらく地獄度 (total 2047 vs 2046 )


posted by スキップ at 23:13| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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