
・・・という情報しか知らず、原作も読んだことがなければ、オグ・マンディーノがどんな作家かも知りませんでした。
一幕終わった幕間に少し調べてみたら、「世界中で最も多くの読者をもつ自己啓発書作家」とあって、「あー、自己啓発ね」となりました。
「十二番目の天使」
原案・原作:オグ・マンディーノ
翻訳: 坂本貢一
劇作・脚本: 笹部博司
演出: 鵜山仁
出演: 井上芳雄 栗山千明 六角精児
木野花 辻萬長 大西統眞 城野立樹
2019年4月29日(月) 12:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
1階K列下手 (上演時間: 2時間20分/休憩 20分)
物語: 若くしてビジネスで大きな成功をおさめたジョン・ハーディング(井上)は故郷の英雄として迎えられ、幸せの絶頂の中、突然、妻のサリー(栗山千明)と息子のリック(大西統眞)を交通事故で亡くしてしまいます。
最愛の家族を失い、生きる意味を見い出せなくなって絶望のあまり命を絶とうとするジョンのもとへ、幼馴染のビル(六角精児)が訪ねてきます。ビルは地元のリトルリーグのチーム監督を引き受けてくれるよう、ジョンに頼みに来たのでした。そのチーム“エンジェルス”の監督を引き受けたジョンは、ティモシー(大西統眞二役)という少年と出会います。ティモシーは体が小さく、バッティングも守備も下手でしたが、決してあきらめることなくいつも前向きに練習に励んでいました。そんなティモシーにリックの姿を重ねたジョンは、チームの練習とは別に個人練習をつけることを提案し・・・。
「絶望の淵に立った男に、秘密を抱えた少年が示す生きるための勇気を描いた、愛と再生の物語」
ティモシーの
「僕は、絶対、絶対、絶対、絶対、あきらめない!」
「毎日、毎日、あらゆる面で、僕はどんどん良くなっているんです」
という言葉が繰り返し出てきて、何て説教臭い台詞なんだと思って聴いていましたので、「自己啓発」という言葉にとても合点がいった次第です。
冒頭のジョンのモノローグでティモシーがすでにこの世にいないことが示唆されますので、悲しい物語なんだろうなということは想像がつきます。
野球チームの名前がAngels (天使)で、ティモシーが12番目にやっと入れた選手で、なるほど「十二番目の天使」か、とか、ジョンの亡くした息子のグローブや自転車がまさにティモシーに必要なものだったりとか、ずーっとヒットを打てなかったティモシーが決勝の大事な場面、まさにone and only の場面でヒットを飛ばす、とか、あまりにも綺麗に出来過ぎていて、寓話感が強いなぁと思って観ていたのに・・・二幕に入ってメッセンジャー医師の口から真実が語られる場面でまんまと落涙。
もともと子どもが死ぬ話にヨワイというのもあり、メッセンジャー先生役の辻萬長さんがすばらしかったのもありますが、私ってばなんて容易い・・・。
それにしても、フィクションとはいえ、ティモシー少年のメンタルの強さはどこからくるのでしょう。
常にポジティブで一所懸命で健気。まさに天使のような少年です。
ティモシーばかりでなく、トッド少年もエースで4番、ドラフト(?)1位で入るような実力の持ち主なのに奢るどころかティモシーをばかにするチームメイトをにらむとか、何てできた子なんだ。
そんなところも綺麗な大人のファンタジー感が強い一因だったかもしれません。
そんな寓話感に拍車をかけたのが脚本と演出で、全体の70%くらいが語りなのではないかと思えるくらい、モノローグと解説(ト書き?)の部分が多く、しかも録音されたものが流れる場面も多々。舞台を観ていながら小説を読んでいるような感覚でした。
ティモシーが最後にヒットを打つ場面なんてほぼお母さんのペギー(栗山千明)の“実況中継”だったもんね。
あまりにもナレーションが多いので、原作側から何らかの制限がかかっているのかと勘ぐってしまいました。
舞台装置は球場がメインで舞台中央に少し高くなった円筒状の回転舞台。
「あれ、回るし高くなってるから裏ではいろいろ大変なんです」とカーテンコールで木野花さんおっしゃっていました。
球場奥にはスコアボードと青空が描かれていました。
青空といえば、ラストの歌・・・「白いボール、青い空へ」というらしい。
いや、いい曲なのですが、そして芳雄くんの歌を聴けるのもうれしいのですが、どうしてもとってつけた感が。
しかも最後はキャストみんなで合唱とか・・・。
とまぁ、脚本や演出には疑問点はありつつ(私が未熟でこういう演出にした深い意図に理解が及ばないのはさておき)、役者さんは皆よかったです。
井上芳雄くん主演とだけしか把握していなくて、木野花さんが出てきて驚き、客席から出てきたジョンのお父さんがやたらいい声で、辻萬長なことにさらにびっくり。豪華キャストじゃん。
エスタブリッシュメントではあるけれどよき夫、よき父であるジョンは、普通のアメリカの一市民。
そんな普通の男性像を自然体で演じていた井上芳雄くんに拍手。わが子リックやティモシーへの温かな父性も感じさせて。
モノローグが大半とはいえ、ほぼ一人であの膨大な量の台詞を説得力を持って聴かせる力量もさすがでした。
ジョンの母と家政婦ローズの二役を演じた木野花さん
ジョンの父とメッセンジャー医師の二役の辻萬長さん
ジョンをやさしく見守る母と父を演じる同じ役者に、ジョンにとって辛い真実を言わせるーローズはジョンがまだ亡くなった妻子のお墓に行っていないことを、メッセンジャー医師はティモシーの真実を-配役の妙に感じ入りました。
それにしても辻萬長さんいいお声です(二度目)。
子役くんたちも口跡よく自然な演技で好感。
ロビーに城野立樹くんへ前田晴翔くんからの祝花が飾られていて、「リッキー出てるの?」となって、ティモシー?と思ったらトッド役で、「ビリー エリオット」のマイケルの時はあんなに小さかったのにと、おばちゃん胸いっぱいでした。
この日は大千穐楽でキャスト一人ひとりのご挨拶がありました。
井上芳雄くんが仕切る形で、六角さん、城野くん、大西くん、栗山さん、木野さん、辻さん、井上くんの順だったのですが、子役くんたちはじめ全員のご挨拶にいちいちツッコミ入れる井上くんが相変わらずツボでした。
城野くんが地元出身だからと両手を挙げて「ただいま~」とやった後、「ほんとは大阪?西宮じゃないんだね。何でも関西で一緒にするなって、兵庫と大阪 仲悪いんでしょ?」と井上くん。別に仲悪くありませんから~(笑)。
栗山さん、木野さん、辻さんの大人グループが口をそろえて「とにかくほっとした」とおっしゃっていたのが印象的でした。
辻萬長さんは2005年10月 この劇場(兵庫県立芸術文化センター)のこけら落とし公演で第一声を放った思い出に残る劇場だそうです、そして井上くんに促されて城野くん同様、「ただいま〜」とあのよいお声で。
そんな井上くんですが、タクシーの運転手さんに「あの劇場は震災復興のシンボルなんですよ」と聞いたことに触れつつ、「劇場は元々祈りを寄せて集まる場所ですが、この作品に込められた祈りが少しでも皆さまの心に残りますように」なんて素敵な言葉と笑顔を遺してくれました。

ロビーにはこんな野球用語解説。
近ごろはあまり観なくなっちゃいましたが、昔は球場にもしばしば足を運んだくらい野球好きだったのでほとんど知っていましたが読むの楽しかったです。
舞台より映像向きの作品だったかも の地獄度


