
2019年3月27日(水) 4:30pm 歌舞伎座
1階4列センター
一、近江源氏先陣館 盛綱陣屋
出演: 片岡仁左衛門 中村雀右衛門
中村錦之助 片岡孝太郎 大谷廣太郎
中村種之助 中村米吉 片岡千之助
中村勘太郎 寺嶋眞秀 市川猿弥
中村歌六 片岡秀太郎 市川左團次 ほか
(上演時間: 1時間43分)
大坂の陣で徳川方と豊臣方に分かれて戦った真田信幸・幸村兄弟をモデルにした物語。
佐々木高綱は一子小四郎(勘太郎)を兄の佐々木盛綱(仁左衛門)に生け捕りにされ、無謀な攻撃を仕掛けて討ち死にします。盛綱が主君 北条時政(歌六)の前で首実検すると偽首とわかりますが、小四郎が「とと様」と叫んで自害するのを見て、高綱が子に自害を言い含めて仕組んだ作戦だと見抜きます。盛綱は命を捨てる覚悟を決め、本首だと時政に告げるのでした・・・。
家のため、忠義のためとはいえ、年端のいかない子どもが犠牲になる話は甚だ苦手・・・という訳であまり好んで観る演目ではありません。小四郎を金太郎(現 染五郎)くんがやった時も、それが理由で思い腰があがらなかった記憶。
が、今回。
理性ある誠実な武将でありながら情にも厚い佐々木盛綱・・・仁左衛門さん すばらしかったです。
姿形の美しさもさることながら、表情豊かな細やかな演技に目を奪われっ放しです。
首実検で、それが弟のものでないとわかった時、まず、目だけが喜びに輝き、次に思わず、といった感じで口元がほころび、笑顔になりそうなところで、時政一行に気取られまいとハッと真顔に戻る・・・言葉がなくても、あの表情と所作だけで、盛綱の心の動きが手に取るようにわかります。
緊迫感漲るこの場面、仁左衛門さんの演技に引き込まれ、客席も水を打ったように静まり返ってことの成り行きを息をのんで見守っていました。
「相違ない、相違ござらん」で客席全体がほっと胸をなでおろしたように感じられました。
老獪な歌六さんの北條時政、母の情愛を感じさせる雀右衛門さんの篝火、そして武家の奥方として、凛とした威厳の中に孫への思いが滲み出る秀太郎さんの微妙と、達者な役者さんたちの中にあって、勘太郎くんの小四郎です。
一つひとつの台詞がとても丁寧でしっかり。伯父の陣屋とはいえ敵陣の中にたった一人で捕らわれている小四郎が、勘九郎さんも七之助さんもいないこの座組にひとり入っている勘太郎くんと重なって、それだけでも胸熱なのに、小四郎の健気さ、小さいながらも武士としての矜持を示す姿にウルウル。
時政の四天王に米吉くんがいて、「おー、やっぱり米吉くんは立役やっても美しいなぁ」と思って見ていたら、隣に見知らぬ若い綺麗な武将がもう一人いて、「誰?」となったのですが、千之助くんでした(だよねー)。
二、雷船頭
出演: 市川猿之助 市川弘太郎 ほか
(上演時間: 18分)
常磐津の舞踊。
この日は奇数日で猿之助さんの女船頭と弘太郎さんの雷という組合せ。
猿之助さんの艶っぽくて粋でちょっと勝気な姉御といった風情、ぴったりで大好きです。
弘太郎さんのちょっととぼけて気が弱そうな雷といいコンビ。
最後には若い衆との絡みがあって、ぽんぽんととんぼを切ったり「おもだかや」と書かれた傘を一斉に広げてくるくる回したり、華やかで楽しい。
女船頭さんは若い者たちをばったばったと転がし、きりりときまった後、花道ではまたちょっと酔っぱらいの風情に戻って色っぽく機嫌よく帰っていかれました。
偶数日は幸四郎さんの船頭で鷹之資の雷、こちらも観てみたかったな。

浜松屋見世先より
稲瀬川勢揃いまで
作: 河竹黙阿弥
出演: 松本幸四郎 市川猿之助 市川猿弥 中村亀鶴 市川笑也 中村鷹之資 嵐橘三郎 松本錦吾 大谷友右衛門 松本白鸚 ほか
(上演時間: 1時間9分)
こちらも奇数日偶数日役替りで
奇数日 偶数日
弁天小僧菊之助: 松本幸四郎/市川猿之助
南郷力丸: 市川猿弥/松本幸四郎
鳶頭清次: 市川猿之助/市川猿弥
幸四郎さんが弁天小僧を演じるのは平成6年6月の国立小劇場以来、何と25年ぶり。
「またこの役をやるとは思わなかった」とご本人もおっしゃっていて、「これが最後の弁天」と明言されていました。
この日が千穐楽でしたので、文字通り幸四郎さん最後の弁天を観たことになります。
幸四郎さんは初めて弁天小僧を演じた時、勘三郎さんに教わった中村屋型の弁天。
(猿之助さんは猿翁さんにそれは丁寧に教えていただいたのだとか。)
「弁天小僧」といえば音羽屋さんのお家芸で、私の周りにも「音羽屋型でないと」という方が何人もいらっしゃいました。
私ももちろん、菊五郎さんの弁天小僧大好きですが、そこまで回数観ていないこともあってか、それほど違和感なく観ることができました。
もとより美形なので武家娘姿はとても可愛いらしく楚々としていて、正体を現してからはいかにも若い不良少年といった風情で、これまた愛おしい(←完全に贔屓目)。
こんなふうに変わり身のある役は大好きなので、弁天をもうやらないにしてもまたこんな役やっていただきたいです。
その猿之助さんは鳶頭清次で登場。
いかにも江戸っ子の気風のいい鳶頭で、猿之助さんのこんな役、久しぶりに観たなぁと思いました。
浜松屋の伜宗之助が鷹之資くんで、お芝居も達者なところを見せてくれました。
番頭の橘三郎さんがいつもながらいい味。
白鸚さんの日本駄右衛門はさすがの貫禄と存在感。
「稲瀬川勢揃い」は亀鶴さんの忠信利平、笑也さんの赤星十三郎が加わって華やかに賑々しく幕となりました。


“五人男に想いを馳せた”数量限定のお弁当「白浪五膳」いただきました。
味の違う小さなおにぎり5個、デザートに桜餅も入っていておいしかったです。
幸四郎さんが南郷で猿之助さん弁天といちゃつく偶数日もやっぱり観たかったな のごくらく地獄度



