
原作通りに上演すれば9時間に及ぶということであまり上演される機会のない作品なのだとか。
「かもめ」をはじめチェーホフの作品は何本も観ていますが、この作品は初見でした。
森新太郎 チェーホフシリーズ 第1弾
「プラトーノフ」
作: アントン・チェーホフ
翻訳: 目黒条
脚色: デイヴィッド・ヘア
演出: 森新太郎
美術: 二村周作
出演: 藤原竜也 高岡早紀 比嘉愛未 前田亜季 中別府葵 近藤公園
尾関陸 小林正寛 佐藤誓 石田圭祐 浅利陽介 神保悟志 西岡德馬
2019年3月21日(木) 12:00pm シアター・ドラマシティ 1列上手
(上演時間: 2時間50分/休憩 15分)
物語の舞台は19世紀末のロシア。
将軍の未亡人アンナ(高岡早紀)の屋敷にはさまざまな人が集まってきます。その中にはアンナに恋心を抱くポルフィリ(神保悟志)などもいましたが、アンナが秘かに想いを寄せるのは妻子ある小学校教師プラトーノフ(藤原竜也)でした。プラトーノフの妻サーシャ(前田亜季)の弟で医者のニコライ(浅利陽介)が恋焦がれる大学生のマリヤ(中別府葵)もプラトーノフに惹かれていて、アンナの義理の息子セルゲイ(近藤公園)が結婚したばかりの新妻ソフィア(比嘉愛未)までもプラトーノフのかつての恋人でした。
喜劇色の強くアハハと笑わせながら、愛やお金といった欲望とままならない現実に翻弄される人間の悲哀がじわじわ心に染み入ってくる作品。
妻に安心感を求めながら周りの女たちにもなびくクズ男と自意識が強く身勝手な女たち。
愚かな人間の業が何とも愛おしい。
藤原竜也くんのまたひと皮むけたような破滅男っぷりが突き抜けていました。
舞台奥に浮かぶ木の枠のような大きな円。
照明によってそれが月に見えたり、天上から人間の日々の愚行を見下ろす存在のようであったり。
アンナ邸のパーティの花火や、サーシャが自殺しようと横たわる線路に近づいてくる機関車を照明と音だけで表現していたりと、舞台美術が鮮やか・・・誰?と終演後確認したら二村周作さん。
「CASANOVA」 「チャイメリカ」 「偽義経冥世歌」そしてこの「プラトーノフ」と、このところ観る舞台観る舞台ことごとく美術は二村周作さんなんだけど。
八百屋になった舞台の手前に籐のソファとテーブルがあって、そこにゆったりと優雅に座ってチェスをするアンナとニコライ。
そこに次々いろんな人が現れて・・・というのがいかもチェーホフだなぁと思いました。
一通り出揃ったところで、プラトーノフは客席から登場。
舞台に上がって客席を見下ろしたプラトーノフと目が合って(←)ずきゅん❤ 危うく5人目の女になるところでした(←←)。
自信たっぷりの笑顔とは裏腹にプラトーノフが着ているジャケットだかコートがすすけて汚れていて、何となく生活(なのか精神面なのか)の厳しさが透けて見えるようでした。
才能を開花できず小学校の教師に甘んじている自虐と屈折した思いを抱えるプラトーノフ。
このプラトーノフを演じる藤原竜也くんがさすがの台詞術で舞台を牽引。
終始テンション高く、感情を目いっぱい台詞に乗せているかと思えば、「行くべきか行かざるべきかそれが問題だ」とシェークスピア劇を思わせる独白も。時には何だか素っぽく観客に話しかけたりもして。
一幕の自信たっぷり感と二幕のうらぶれただめんずぶりの落差(笑)。
二幕はずーっとらくだのももひきのような下着姿で飲んだくれて床をはいずりまわったり、泣いたり喚いたり。ほんと情けないのだけど何とも愛おしくて、不思議に色っぽかったりも。
プライドが高く品があって情熱的なアンナの高岡早紀さん。
純真さの影に繊細さと激しさを併せ持つサーシャの前田亜季さん。
プラトーノフに翻弄され目まぐるしく感情を起伏させるサーシャの比嘉愛未さん。
ちょっと空気読めない生真面目な女学生マリヤの中別府葵さん。
プラトーノフを取り巻く女性たちもとても個性豊かです。
こんな男女の愛憎ばかりでなく、負債を抱えたアンナが土地を手放さざるを得ない状況などが織り込まれ、帝政末のロシアの光と影を描くところがいかにもチェーホフだなぁと再び。


小林正寛さん演じる馬泥棒のオシップが破ってパッと投げたロシア紙幣が私の膝の上にハラリと押落ちてきました。表も裏もちゃんと印刷してあって芸が細かい。
竜也くんのシェイクスピアがまた観たくなりました のごくらく地獄度



