2019年03月17日

あの子も恋し この子も恋し~ 「唐版 風の又三郎」


matasaburo.jpg matasaburo2.jpg

私が初めて観た唐十郎さんの作品は「ビニールの城」だと記憶しています。
石橋 蓮司さん、緑魔子さんの劇団第七病棟の舞台。若かりし青春時代、思えばずいぶん背伸びをしていたものです。

このブログで感想を書いている唐十郎作品は、
「下谷万年町物語」 (2012)
「盲導犬」 (2013)
「唐版 滝の白糸」 (2013)
の3作。演出はいずれも蜷川幸雄さんです。

好きか嫌いかに分けると嫌いではない。
でもとにかく難解で苦手感アリアリというのが唐作品に対する私のイメージ。
ですから、柚希礼音さんの次の舞台としてこの作品が発表された時、「なんでまたこれに?」という思いが強く、当初は1回でおなかいっぱいと千穐楽のチケットしか取っていませんでした。が、大阪公演開幕直前になって思い直してチケットを追加。
結果的に私の想像を超えておもしろく感動も涙もする舞台で、演出変更前後の2バージョン観られたことも幸いでした。

1974(昭和49)年 唐十郎さんが状況劇場のために書き下ろした作品。
私はもちろん今回初見です。
1回目は事前情報はできるだけ入れず白紙の状態で観て、2回目は私には珍しくプログラムを熟読してからの参戦です。


Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019 
「唐版 風の又三郎」
作: 唐十郎
演出: 金守珍
美術・衣装: 宇野亞喜良
出演: 窪田正孝  柚希礼音  北村有起哉  丸山智己  江口のりこ  
石井愃一  山崎銀之丞  金守珍  六平直政  風間杜夫 ほか

2019年3月10日(日) 6:00pm  森ノ宮ピロティホール C列(3列目)上手/
3月13日(水) 7:00pm  C列(2列目)センター
(上演時間: 2時間55分/休憩 10分・15分)


大千穐楽のレポはこちら


儚く美しく切ないピュアラブストーリー。
私にはそう映りました。

二人が出逢ったのは強い北風吹く、代々木月光町の帝国探偵社(テイタン)前。
精神病院から抜け出してきた織部(窪田正孝)は、少年の格好をしたエリカ(柚希礼音)に「君はもしかしたら、風の又三郎さんじゃありませんか?」と声をかけます。
「君はだあれ?」
「僕は・・・読者です!」

実はエリカは自衛隊機を乗り逃げして消息を絶った恋人 高田三郎三曹(丸山智己)を捜してテイタンにやって来た盛り場の女でした。
テイタンには、乗り逃げの責任を取って辞職した元宇都宮少年自衛隊航空分校長の教授(風間杜夫)や三腐人(石井愃一・金守珍・六平直政)がいて、エリカに横恋慕する夜の男(北村有起哉)もエリカを追って現れます。
エリカと織部が踏み入ったテイタン内部には死んだ高田三曹の肉1ポンドが隠されていて・・・。


壱幕 ガラスのマント
弐幕 紅のマント
参幕 蝋のマント

と名づけられた三幕構成。

宮沢賢治の「風の又三郎」をモチーフにして、ギリシャ神話のオルフェウスエウリディケ、シェイクスピアのヴェニスの商人、1973年に実際に起こった自衛隊機乗り逃げ事件、片翼帰還の英雄 樫村寛一、さらには江戸時代の人肉嗜好譚まで、時空を超え、現世と死の世界が交錯して、幻想と現実が綯い交ぜになったまるで迷宮のような重層的な唐ワールドが展開します。

精神障害を患う織部の幻想なのか
消えてしまった恋人を想うエリカ夢想なのか


美しいリズムを刻む台詞。
猥雑で混沌とした負のエネルギーが内包したような舞台。

空に輝く冷たい月
クレーンで浮かび上がる風の又三郎
白い帽子の女に先導されてゆったりと舞台を横切る巨大なかたつむり
整然と並ぶ古びた電話ボックス
宇野亞喜良さんの洗練された幻想的な美術が印象的です。
それと対照的な、教授や三腐人がつくり出す猥雑な世界。
アドリブを連発したり客席を巻き込んだり・・・なかなかのおなかいっぱい感です。

事象の一つひとつや台詞に込められた意味は理解しきれたとは言い難い。
随所に散りばめられたメタファーをちゃんと検証したい・・・という気持ちがあると同時に、わからないままでいいんじゃないか、むしろわからないままにしておきたいという気分にもなりました。自分でも不思議な感覚。
“Don’t think. Feel.” (by ブルース・リー@燃えよドラゴン) を久しぶりに思い出したよね←

この物語の中心にはいつも織部とエリカがいて、この二人がたまらなく愛おしい。
最初にピュアラブストーリーと書きましたが、厳密には恋人同士ですらない二人。
ガラスのように傷つきやすく繊細な心を抱えて、時にはエリカに幻滅しながらもひたむきに彼女を守ろうとする織部。
過去の記憶に翻弄され、織部を利用しようとしつつも彼を大切に思うようになるエリカ。
姉と弟のようであり、母と子のようでもあり、もっと形のない、孤独な魂同士の結びつきのようにも感じられました。

最後の最後に、過去の恋人より織部を守ることを選んだエリカ。
刺されて瀕死の織部にエリカが「君はだあれ?」と聞いた時、織部が物語の始まりと同じように明るい声で、「僕は・・・読者です!」と言った時には胸をなでおろす思いだったのですが、その次の瞬間ガクッと息絶えてしまった織部に大泣き(1回目)・・・2回目はもうそれを知っているので、エリカが尋ねるあたりから涙が止まりませんでした。

だから、
片翼のゼロ戦に乗ったエリカが「織部~っ」と叫び、織部が階段を駆け上がってエリカとともに飛翔するラストはとてもリリカルで、二人の輝く笑顔に本当に救われた思いでした。たとえそれが二人の見果てぬ夢だったとしても。


演出変更について
今回思わぬアクシデントでラスト4公演を織部は車椅子という設定に変更されました。
皆さんおっしゃっていることですが、これがとても自然で、最初からこういう設定とも思えるほど。窪田くんの車椅子への適応力がすごいのは元より、金さんの脚本、演出力、共演者スタッフ一丸となったフォローに改めて敬意を表したいです。
私が気づかないところでも細かな演出変更やフォローがあったことと思いますが、特に印象に残った点をいくつか。

・出会いのシーン 「肩を抱いてあげましょうか?」:
大阪公演から「肩抱いたろか?」と不慣れな(?)大阪弁になっていましたが、車椅子の織部くん 手が届かないので「ほら、もっとこっちおいで」って言っててかわいさ100倍増し

・一幕ラストの二人手をつないで客席を駆け抜けて行く場面:
風見鶏の風向計を持って座る織部くんの車椅子をエリカが押して上手へ捌ける演出に変更。
これがエリカが初めて織部の車椅子を押す場面となって、エリカさんオトコマエ度100倍増し。

・二幕ラスト 刺されたエリカ:
車椅子の織部にお姫様抱っこのような形で倒れ込むスタイルに変更。
織部の肩に手をまわしたままのエリカとそんなエリカを抱きしめて薔薇の刺青に唇をあてて血を吸う織部。
より深く、密着度が高まった印象。ラブ度100倍増し。
窪田くんの痛めた右脚の負担にならないようわずかに体を浮かせていたエリカな柚希さんに惚れ直し。日頃から腹筋背筋鍛えている柚希さんなればこそ。

・三幕ラスト 織部がゼロ戦への階段を上がる場面:
車椅子から降りた織部を支えて共に階段を上がるのは風のコロスの人たち。
これって文字通り、織部は北風に運ばれている訳で作品の世界観がリアル。
偶然の産物とはいえ、神演出なのでは?


織部とエリカ
彩りに富んだ役者さんたち。
唐さんの舞台に常連の役者さんも初めての方も、皆さん「この舞台のためにここにいる」感があって、個性は違っていてもベクトルが同じ方向を向いていて、結びつきの強さや雰囲気のよさがとても感じられる座組でした。
「1月7日の稽古始めから、本日大千穐楽を迎えました」とカーテンコールで金守珍さん。すばらしいキャスティングに感謝でいっぱいです。

窪田正孝くん
少年の純粋さをその身に宿したままに青年になった織部。
ひと呼吸ごとに揺れ動くような不安定さがあって、純粋ではかなくて繊細で透明感があって研ぎ澄まされていて・・・いくらでも修辞が浮かびそう。
窪田くん自身がこんな人なんじゃないの?と思えるくらい織部としてこの世界に存在していました。
台詞も声も表情豊かですばらしかったな。

6年前、彼の舞台デビューとなった「唐版 滝の白糸」を観た時、「声のトーンやテンションがずっと同じように感じられるのがこれからの課題かな」と感想を残していた(どんな上から目線?)のですが、この6年間の彼の精進や成長を心から感じ入りました。

少年のようなあどけなさの中に時折見せるオトコの顔とのギャップがまたね~。特に指の表情がたまらなくセクシーでした。
病院のシーンで「男の僕でも惚れちゃUNO」と言われてつい本気で笑っちゃった笑顔もとてもチャーミング。
柚希さんへの「ちえねぇ」呼びも、私たち柚希ファンの萌えポイント押さえてくれました。
窪田くんは菅田将暉くんとごっちゃにしてしまうことが多かった不肖スキップ(双方のファンの皆さまごめんなさい)、今回ではっきり「窪田正孝」認識いたしましたっ。

柚希礼音さん
エリカ役を誰が最初に柚希さんとキャスティングしたのでしょう。金さんかな。一度ゆっくりその経緯を聞いてみたい(笑)。
エリカは野性的な部分と艶めかしい女の部分、そして母性も兼ね備えた女性。そこに「又三郎」少年の部分も加わって、それらを自在に行き来する柚希さんお見事。
さすがに場末のホステスには見えませんし、まだ宝塚時代そのままの台詞回しが出る部分もありますが、芝居はもちろん、歌もダンスもたっぷりあって力量を発揮。
♪あの子も恋し この子も恋し~ というテーマ曲 柚希さんの声で完全に刷り込まれました。

このどっどど どどうど どどうど どどう のダンスシーン、二度目の登場の時、コロスたちが先に踊っているまだ照明も薄暗い中、上手袖から登場する柚希さんが宝塚の男役群舞のトップみたいにラスボス感たっぷりで見惚れました。

カーテンコールで舞台に並ぶたびに、窪田くんの右手と柚希礼音さんの左手、自然に手を繋ぎ合う二人。
窪田くんファンの若いお嬢さんたちが今回初めて柚希さんを観て驚いたり誉めてくれたこともとてもうれしかったです。
また、この作品を通じて、窪田くんはもちろん、演出の金さん、風間杜夫さん、六平直政さん、北村有起哉さん、丸山智己さんなどナド、柚希さんの世界がまた広がったこと、とても喜ばしいと思っています。


柚希さんが出演されなかったら観ていなかったかもしれない舞台。
舞台そのものがすばらしかったことはもちろん、窪田くんの怪我のこともあって忘れられない作品となると同時に、これまで観た唐作品の中でダントツに好きな舞台となりました。


image1.jpg

劇場ロビーの窪田くんへのお花の上にいたかたつむり。
カワイイ



舞台は自分の目で観てみなければわからない のごくらく度 (total 2028 vs 2029 )


posted by スキップ at 22:29| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください