2019年03月15日

無垢なでくのぼう 「イーハトーボの劇列車」


gekiressha.jpg1980年に初演された井上ひさしさんの代表作ともいえる作品。
22歳(大正7年/1918)から35歳までの宮沢賢治の4回の上京を、花巻から上野へ向かう列車の中と東京での光景を切り取って見せる構成で、現世からあちらの世界へ行く列車を待つ人々(農民)が演じる劇中劇という設定です。

2013年に鵜山仁さん演出、井上芳雄さん主演で観ました(感想はこちら)。
長塚圭史さんの演出だとどうなるのかなと楽しみにしていました。
松田龍平くんの舞台を観るの「メカロックオペラ R2C2」(2009)以来、なんと10年ぶり。
あの時はサイボーグの役だったし、人間を演じる龍平くんもこれまた楽しみ。


こまつ座第126回公演 「イーハトーボの劇列車」
作: 井上ひさし
演出: 長塚圭史
音楽: 宇野誠一郎  阿部海太郎
出演: 松田龍平  山西惇  岡部たかし  村岡希美  土屋佑壱  松岡依都美  
天野はな  紅甘  小日向星一  福田転球  中村まこと  宇梶剛士

2019年3月9日(土) 5:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 
1階C列下手  (上演時間: 3時間30分/休憩 15分)



木造の学校の教室を思わせる舞台装置。
昔、小学校で使われたような木製の椅子が何客がランダムに置かれています。舞台奥一面が木の枠の窓になっていて、緑が生い茂り、明るい陽射しが射しこんでいます。少しトーンを落とした室内との対比が鮮やかです。
やがて、「わたくしたちはホテルのりっぱな料理店へ行かないでも、きれいにすきとおった風をたべることができます。コカコーラの自動販売機なぞなくても、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます」と「注文の多い料理店」の序文をモチーフにした言葉を役者さんたちが語り継ぎ始めて、一気に「イーハトーボ」の世界へ。

舞台上手と下手にそれぞれ一列に役者さんが並ぶ冒頭は、同じ長塚さん演出の「浮標」を思い出しました。
椅子を役者さんたちが動かして、それが汽車の座席になったり、賢治の妹とし子が入院している病院のベッドになったり、シュッシュッという汽車の走る音を役者さんの声で表現したり、リリカルでファンタジーな雰囲気のこの物語の世界をシャープな目線で切り取ったりと、長塚さんらしいと思える演出が随所に見られるものの、全体的な感触としてはオーソドックスな演出で物語の世界観そのままという印象。
それだけ戯曲のチカラが強いとも思えますし、長塚さんの井上さんへの尊敬も感じます。

ただ、主役の宮沢賢治の印象は二つの演出でかなり違っていて、
鵜山仁さん演出版の井上芳雄さん演じる賢治は、育ちもよく性格も頭もよくて人からも好かれる人物。
そんな彼が自分の理想と思い通りにならない現実との板挟みで苦悩する姿が切なかったという記憶があります。
対して今回、松田龍平さんの賢治は、純粋だけど頑固で思い込みが激しく人からもあまり理解されず、生活力もない人間として描かれています。


そのせいか、前回は刑事の伊藤儀一郎からすべては父の庇護の下だったことを思い知され、Mi estas infano (ミ・エスタス・インファーノ 僕はこども)とエスペラント語で言った時の打ちのめされたような絶望に満ちた表情が忘れられず、ブログの記事のタイトルにしたほどでしたが、今回は自分を弱い「でくのぼう」という力ないつぶやきが最も印象に残りました。
井上くん、松田くん、お二人の役者としての持ち味の違いもさることながら、ここに鵜山演出と長塚演出の一番の違いがあったのではないかと思います。


松田龍平さんはよくも悪くも映像のイメージ通り。
それでも、あまり抑揚のない台詞まわしや何を言われてさほどショックを受けていないように見える感情の起伏のなさが、「でくのぼう」の賢治によくハマっていました。客席に背中を向けた時、台詞が聞きとりにくかったのが残念だったな。

カーテンコールラスト、一人下手の袖に入る前、伸ばした両手をパシッと脚につけて気をつけの姿勢をしていたずらっ子みたいに笑ったのがすごくかわいくて、あれで全部持って行っちゃった感じ。不思議な存在感のある役者さんです。

終始ローテンションな感じの龍平くんに対して、常にハイテンションの山西惇さんと土屋佑壱さん(暑苦しい・・・ほめてます)。宇梶剛士さんの哀愁を帯びた温かさ、中村まことさんの胡散臭さ、村岡希美さんの下宿屋のおかみさんも大好きでした。


この日はアフタートークがありました。
宇梶剛士さん・中村まことさん・岡部たかしさん・福田転球さんのご登壇。
気心の知れたおじさんたちばかりで和気あいあいと楽しい雰囲気でした。
東京公演を終えて地方に出てスケジュールにも少しゆとりができて、「龍平くんが元気になってきた。疲れが取れたんだなーと思いました」と宇梶さんが言えば、次の岡部さんが「松田龍平です」と受けたり。
SNSにはあげないで、というお話もいくつかお聴きすることができて、興味深かったです。

中村まことさんは鉄ヲタで、汽車の擬音やるところを「もっとこう・・」とか力説していたら、「電車愛が強すぎる」と長塚圭史さんからダメ出し入ったそうです。山形公演でも新幹線の駅までみんなバスで移動したのに、一人ローカル線に乗ったのだとか。
そんな中村さんが最後に、「井上ひさし先生の願いが通じればいいと思います。通じるようこれからもがんばっていきます」とおっしゃったのが印象的でした。



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近ごろ劇場ロビーでよく見かけるバルーンスタンド花。
この日は龍平くんへの大きなこれがひとつがぽつんと。
ブルーの濃淡がこの作品の世界観に合っていて素敵でした。



3時間30分で1日2公演だと7時間 本当にお疲れさまです のごくらく地獄度 (total 2027 vs 2029 )


posted by スキップ at 22:50| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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