2019年02月28日

贖罪そして魂の浄化 「罪と罰」


crimeandpunishment.jpgイギリスの演出家 フィリップ・ブリーンさんが「地獄のオルフェウス」(2015)以来、4年ぶりに三浦春馬くんとタッグを組む舞台。

挑むのは19世紀ロシアの作家 ドストエフスキーの代表作。
「地獄の・・」の春馬くん、とても好きでしたので楽しみにしていました。


Bunkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2019 
「罪と罰」
原作: フョードル・ドストエフスキー
上演台本・演出: フィリップ・ブリーン
翻訳: 木内宏昌
美術・衣裳: マックス・ジョーンズ
出演: 三浦春馬  大島優子  南沢奈央  松田慎也  
真那胡敬二  山路和弘  立石涼子  勝村政信  麻実れい ほか

2019年2月13日(水) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール F列センター
(上演時間: 3時間30分/休憩 20分)



物語の舞台は帝政ロシアの首都 サントペテルブルク。
貧乏ながら頭脳明晰な青年ラスコリニコフ(三浦春馬)は自分を「特別な人間」とし、「人類が救われ、その行為が必要ならば特別な人間は殺人を犯す権利がある」という独自の論理を持っており、その理論に従って強欲な質屋と居合わせた義妹リザヴェータを殺害します。しかし、罪の意識から激しく動揺し、幻覚に悩まされる中、国家捜査官 ポルフィーリ(勝村政信)はラスコリニコフを殺人犯と疑い、追い詰めていきます。ラスコリニコフは貧しい家族のため自己犠牲で娼婦となったソーニャ(大島優子)の揺るぎない信仰心に触れ、ついに自らの罪を告白します・・・。


野田秀樹さんの「贋作 罪と罰」は観たことありますが、オリジナルの「罪と罰」を舞台で観るのは実は初めて。
休憩はさんで3時間30分の舞台にほぼ出ずっぱりで膨大な量の台詞をこなす三浦春馬くんはじめ役者さんたちも大変だと思いますが、観る方も心身ともに消耗する作品・・というのがまずは第一印象。
ずい分昔に読んだことがある原作をほぼそのまま戯曲化されていますので物語の流れはわかっているものの、登場人物を把握して、膨大で難解な台詞を聴くのにとても集中したせいか終演した時には疲労困憊でした。


階段状の舞台に人々が蠢き、ベッド、ドアなど様々なものが散乱していて猥雑な雰囲気。
場面展開や暗転はなく、階段や舞台のあちこちがラスコリニコフの部屋だったり、質屋や往来になったり、ソーニャ一家の貧しい家になったり、ポルフィーリの捜査室になったりします。ドアを横にしてテーブルに見立てたりというおもしろい手法も。
クラリネット、アコーディオン、チェロから成る楽隊の生演奏とコロスがラスコリニコフの心の動きを音楽とダンスで表現するのも効果的で、いかにも外国の方の演出だなぁと感じました。

ラスコリニコフが罪を告白したラスト。
それまで階段に散乱していた様々なものがすっかりなくなり、ホリゾントの壁が開いて真っ白な光の中に十字架が浮かび上がり、その光の中でソーニャがラスコリニコフにパンを手渡すシーンは神々しく、ラスコリニコフの魂の浄化と彼の中でソーニャの存在の大切さが感じられて、とても印象的でした。

このラスコリニコフの贖罪と魂の浄化がテーマですが、夫が馬車に轢かれて死に、やけっぱちになるソーニャの母カテリーナ(麻実れい)、兄の学資のために横柄な弁護士との結婚を承諾するラスコリニコフの妹ドゥーニャ(南沢奈央)、そのドゥーニャに思いを寄せる元雇い主で資産家のスヴィドリガイロフ(山路和弘)など、周りの人々にもそれぞれ物語があって重層的に展開するストーリー。


一段とシャープになった印象の三浦春馬くん。
すごい集中力と精神力、体力で舞台を牽引。
殺人に至る論理には全く共感できませんが、その後の苦悩や悔恨、罪への畏れは観ていて痛々しいほど。
ポルフィーリとの丁々発止の台詞の応酬、気を失うに至るイッちゃった演技もとてもよかったです。

大島優子さんは、初舞台の「No.9 -不滅の旋律-」(2015)でもすばらしかった記憶があるのですが、今回もよかったです。
台詞はいささか一本調子かな~と感じる部分もありましたが、声はよく通るし、ラスコリニコフが自首するきっかけとなったヨハネ福音書の「ラザロの復活」を読み聞かせる場面の透明感はこの上ないものでした。

他の役者さんも皆よかったですが、中でも勝村政信さんの上手さが際立っていました。
ポルフィーリは刑事コロンボの原型と言われているキャラクターですが、笑いを誘うようなとぼけた雰囲気の中、「あ、最後にもう一つ・・」と核心に迫る質問をブッ込んでくるところ、コロンボそのもの。
その緩急とキレ味の鋭さに脱帽です。いろいろ動きながらでも後ろ向きでもきちんと台詞が届くのもすばらしい。


いっぱいいっぱいになりながらもおもしろく拝見したのですが、帝政ロシアの社会的背景やキリスト教、はたまた政治的、思想的に理解の及ばない面があって、自分自身へのもどかしさ、歯がゆさも感じるところとなりました。



tsumi.jpg

森ノ宮ピロティホールの懸垂幕
ポスターやフライヤーとは違うショットでした。




理解を補足する意味でももう1回観たい気はするがその体力気力はなかった の地獄度 (total 2021 vs 2025 )


posted by スキップ at 23:45| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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