2019年02月08日

まだわからないの? 「スリル・ミー」


thrillme.jpg2011年に初演以来、キャストを変えて繰り返し上演されている人気作。
これまでご縁がなくて観ることができず今回初見。
自分で観ていないものは解説や劇評にも近づかない派ですので、登場人物が2人という以外はストーリーも全く知りませんでした。

今回のキャストは

成河×福士誠治
松下洸平×柿澤勇人

という2組の組合せ。
両方観るのがいいのは重々承知ですが、スケジュールの都合上そういう訳にもいかず、さてどちらを観ましょうとなった時に、ストーリーを知らないのでこの役にはこの人が合うんじゃないかといった先入観は全くなく、「この4人の中で誰が一番観たいか」と自分の心に問うたところ、答えは「カッキー」。
ということで、松下洸平×柿澤勇人ペアで観ることにしました。
後で知ったのですが、2011年初演時のペアの1組だったようです。


ミュージカル 「スリル・ミー」 Thrill me
原作・音楽・脚本: STEPHEN DOLGINOFF
演出:: 栗山民也
翻訳・訳詞: 松田直行
出演: 松下洸平  柿澤勇人
ピアノ演奏: 朴勝哲
2019年1月19日(土) 7:00pm サンケイホールブリーゼ 1階D列下手
(上演時間: 100分)



image1.jpg


開演数分前から咳ひとつも憚られるように静まり返る客席。
みんなこれから目の前で繰り広げられることを固唾をのんで見守る雰囲気です。


そこへ登場したのは「私」(松下洸平)
仮釈放請求審理委員会で54歳の「私」が、34年前、「彼」(柿澤勇人)とともに引き起こした残忍な事件について語り始めます。


1924年にアメリカで起きた少年の誘拐殺人事件をベースとした物語。
完全犯罪を遂行できる力があると証明するため、血の契約書をかわし、少年を誘拐して殺し、その罪が発覚して捕らわれるという過程に2人の心を重ねていく心理劇。
ミュージカルなので歌で紡がれるのですが、まるで台詞を聴いているような、ストレートプレイに近い感覚です。
色彩をほぼ排除した舞台装置に、ドラマチックなピアノ演奏、シンプルだけど美しく力強い照明。
張り詰めた空気を一度も緩ませることなく緊迫感のある舞台が展開されました。

親からの愛を得られず、孤独感と弟への屈折した思いからスリルに囚われる「彼」
その「彼」への愛に囚われて、言われるままにともに犯罪に手を染める「私」

彼>私という支配関係を一気に覆すことになる私の告白が、二人の立場を変える分水嶺でありこの物語のキモ
・・・なのですが、「私」が失くしたという眼鏡が高級品であまり一般の人が持っていないというあたりで、「あー、わざと落としたんだ」と気づいてしまう自分が我ながら残念。物語を辿る楽しみ半減というか・・・。

それでも、「私」がわざと2人の犯罪が発覚するようにしたのは、「気が狂いそうだ もう苦しめないで もう焦らさないで スリル・ミー」という訴えに応えてくれない「彼」に対して、自分を犠牲にしてでも、復讐がしたかった、自分の方が優位だと示したかったのだと思いましたが、それは違っていたようです。

99年 離れない 離さない
99年 勝ったのは僕だ 勝負の終わり
いつまでも 僕のものだ 99年

と歌う「私」
本当に、純粋に、「彼」のことが好きで、好きだから、「ずっと一緒にいたい」と願い、「彼」の時間を99年 手に入れたかったんだ。
護送車の場面で、「まだわからないの?」と「彼」に言う「私」は勝ったというより切なく悲しそうに見えました。
わかってほしかったのね。

2人とも裕福な家に育ち、頭のよい青年ながら、「彼」の方がエキセントリックで一見狂っていそうな雰囲気ですが、実は狂気をまとっているのは真面目で臆病に見えた「私」の方だったというところが、この物語の一番の「スリル」なのかもしれません。

スリルといえば、あの子どもを誘拐するシーンはスリルを通り越して、本当に怖かった・・というかおぞましかったな。

今帰るところかい 送ってあげよう
家はどこなの 送ってあげよう
ピカピカのスポーツカー 見てみたいだろ
ほら車のキーだ エンジンかけて

と、「彼」がひとりで歌うのですが、その視線やキーをちらつかせる手の動きがリアルで、まるでそこに子どもがいるよう。その先を思うといたたまれなかったです。この場面、スポーツカーを表現する照明もすごかったな。


柿澤勇人さん 相変わらずいい声でいいオトコ。
イケメンのSが好物なので(←)、この役好き。
他の人の「彼」を観たことがないので比較することはできませんが、「完璧な自分」を演じながらそれが幻想にすぎないことはわかっているようなどこか醒めた雰囲気。冷酷な中に時折ふっと見せる人間らしさが柿澤さんの「彼」なのかなと感じました。99年~のところで、真実を知った「彼」の、何とも頼りなげで、迷子の子どものような表情が忘れられません。

昨年観た「「TERROR テロ」のコッホ少佐が印象的だった松下洸平さんの180℃違う「私」。役者さんすばらしき&凄まじき。
「彼」への思いを真っ直ぐ迷いなく持つ「私」で、他は至極まともなのに、その強すぎる愛だけが異常で、そこに「私」の持つ底知れぬ恐ろしさが垣間見えました。

もう一方のペアの配役を知らなかったのですが、観ているうちに「これ、絶対成河くんが『私』だよね」と確信しました。
いや~、やっぱりもう一方のペアも観たかったな。



何ならこれまでの組み合わせ 全部観てみたい のごくらく地獄度 (total 2014 vs 2018 )


posted by スキップ at 23:36| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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