
これが最後の主演作となりました。
2001年に朝海ひかるさんのヴィロンスキーで初演された作品で、2008年のワークショップでは美弥さんはアンナの夫 カレーニンを演じたそうですが、どちらも観ておらず今回初見。
さらには、トルストイの作品は「戦争と平和」をはじめ、「復活」「イワンのばか」など主だったものは読んでいるのにこの「アンナ・カレーニナ」だけは読んだことがなくて、ストーリーも全く知らずに臨みました。
宝塚歌劇月組公演
Musical 「Anna Karenina (アンナ・カレーニナ)」
原作: レフ・トルストイ
脚本・演出: 植田 景子
出演: 美弥るりか 海乃美月 月城かなと 光月るう 楓ゆき
夢奈瑠音 英かおと 蘭世惠翔 きよら羽龍/五峰亜季 美穂圭子 ほか
2019年1月17日(木) 11:00am 宝塚バウホール 11列上手
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)
物語の舞台は19世紀後半のロシア。
家柄も良く、成績も優秀で輝かしい未来を約束された青年貴族将校 アレクセイ・ヴィロンスキー伯爵(美弥るりか)は、社交界の華と謳われるアンナ・カレーニナ(海乃美月)に出会い心を奪われます。政府高官アレクセイ・カレーニン(月城かなと)の貞淑な妻として、何不自由ない暮らしをしていたアンナもまた、ヴィロンスキーの激しく真剣な求愛を受け、内に秘めていたもう一人の自分が目覚めて行くのを感じていました。二人の恋の噂は瞬く間に社交界に広がり、世間体を重んじる厳粛なカレーニンは妻の不貞を咎めましたが、ヴィロンスキーとアンナにとって、もはやこの恋を失って生きていくことはできませんでした・・・。
王道の三角関係悲恋もの。
不倫だから、というばかりではなく、アンナにあまり共感も感情移入もできないのですが、美しく哀しい物語でした。
ヴィロンスキーとアンナがひと目で恋に落ちたことはよくわかります。
そして、ひとたび燃え上がった思いは、どんなに押さえようとしても人から非難されたとしても苦しくても、もうどうすることもできないのだということも理解できます。
それでもこの二人が自分勝手だと感じたのは、アンナの夫 カレーニンがあまりにも正しい人間だったから。
厳格でプライドが高く体面を気にして「嫉妬というようなみっともない感情で自分の品位を落としたくない」と言い放ち、アンナに「君は私の名を名乗る者、カレーニン夫人」であることを求めていたカレーニンが、アンナの不貞に怒り、一度は家を出て行きながら、彼女が生死の境にいると知っていたたまれず駆け付けます。
死の床で泣いて赦しを乞うアンナに、「君が苦しまずに済むなら、私は君を赦すよ」とつぶやくカレーニン。
そしてまた裏切られて、どれほど心も誇りも傷つけられたであろうに、「私はアンナの帰る場所になってやりたい」とアンナが産んだヴィロンスキーとの子どもも引きとって育てるカレーニン。
こんな人を一度はともかく二度も深く傷つけて自分の感情に走るアンナっていったい・・・。
カレーニンの月城かなとさんがとてもよかったのも、私の“カレーニン派”に拍車をかけました。
彼はきっと不器用で言葉に出せないだけでアンナを深く愛していたし、心に孤独を抱えた人だったと思います。
「あなたは寂しい人ね」とアンナに言われた時のカレーニンの哀しみを湛えた瞳が忘れられません。
美弥るりかさんのヴィロンスキーは登場の時からひと際目を惹く美青年。
白い軍服がとてもよく似合って、スマートで凛々しく知的で情熱的。しかも妖艶で色っぽい。
あんな男性に「私はあなたに平穏は与えられない。愛ならいくらでも差し上げられる」なんて言われたら、そりゃそれが茨の道だとわかっていても突き進んでしまうでしょうよ。
同僚もうらやむほど将来を嘱望されたエリート軍人だったヴィロンスキー。
どうしても、「出逢わなければ」と思わずにはいられない。
一度は別れを決意し、「私たちは別れるべきだ」とアンナへ手紙を書いたヴィロンスキー。
別れのためとはいえ、「あの時もう一度アンナに逢いに行かなければ」と思わずにはいられない。
それでも、出逢ってしまう、逢いに行く気持ちが勝ってしまうのが運命の恋というものなのでしょう。
海乃美月さんのアンナもハマリ役でした。
クラシカルな衣装もよくお似合いで、気品ある貴族の夫人で社交界の花らしい華やかな美しさ。
アンナについても、カレーニンにあんなに泣いて謝ったのに、またヴィロンスキーと出奔するってどういうこと?という思いが残ります。
それと、カレーニンとの子ども セリョージャのことはいつも気にかけているのに、ヴィロンスキーとの間にできた女の子については何も言及しないってどういうこと?という、どゆこと二連発。
アンナとヴィロンスキーの対照として置かれたのはキティとコスチャのカップル。
キティはヴィロンスキーを思い、そのキティを思い続けているコスチャ。
ヴィロンスキーが舞踏会の最後のマズルカの相手にアンナを選んだことで深く傷つき引きこもるキティのドア越しに彼女への変わらぬ愛の気持ちを誠実に告げるコスチャ。
田舎の青年にしては些かアカ抜け過ぎかなぁという気もしますが、夢奈瑠音さんの一途にキティを思う生真面目な青年ぶりがとても好感。
キティは研1のきよら羽龍さん。可憐な雰囲気でお芝居も歌もよくて大抜擢に応えました。舞台化粧がちょっとメイクダウンなのが残念ですが、そのあたりはこれからに期待しましょう。
この二人が結ばれるのは、この悲劇的な物語の中の救いのよう。
ヴィロンスキーの親友でありライバルでもあるセルブホスコイの英かおとさんも抜擢ですね。爽やか系イケメンで長身に軍服が似合ってステキでした。
ヴィロンスキーとアンナが初めて出逢ったモスクワ駅で、あの時二人の前で起こったことが繰り返されるように、迫り来る汽車の前に身を投じるアンナ。
あの時、「それほどまでに人を愛するなんて」と言っていたアンナが、まるであの日から決まっていたように。
アンナを失い、危険な戦場へ志願して旅立つヴィロンスキー。
そんなヴィロンスキーに「これは君に持っていてもらいたい」とアンナの日記を渡すカレーニン。
出逢って、愛し合って、愛しすぎたために起こる悲劇。それぞれの結末が切なすぎる幕切れでした。
それにつけてもこの公演 チケ難凄まじかったよね の地獄度


