
「眠らぬ月の下僕」
わかぎゑふさんの満州シリーズ第三弾。
15人で120役演じる壮大な戦後史で、戦争に翻弄された人々の悲劇で、愛してると言えない切ないラブストーリー。ラストのうえだひろしさんと八代進一さんのシーン 素敵だったな。 #ねむ月 posted at 16:51:51
↑ これ、観劇後の私のツイートです。
わかぎゑふさんの満州シリーズはどれも好きですが、この作品もとてもよかったです。
玉造小劇店配給芝居vol.23 「眠らぬ月の下僕」
脚本・演出: わかぎゑふ
出演: 野田晋市 うえだひろし 桂憲一 八代進一 小椋あずき
鈴木健介 浅野彰一 美津乃あわ 長橋遼也 松井千尋
東久保拓巳 吉實祥田太 影山僚太 コング桑田 わかぎゑふ
2018年7月1日(日) 1:00pm 近鉄アート館 Bブロック1列センター
(上演時間: 2時間)
枚方の農家の三男坊として生まれた喜久雄の天命に導かれた叙事詩的な物語。
昭和17年 14歳の時、人数合わせのため村の満蒙開拓団の一員として満州に渡り、終戦直後のソ連軍侵攻、シベリア抑留、モンゴル、ウズベキスタン、ドイツ・・・東にある日本に帰りたいのに逆に西へ西へと流され、時代に翻弄され運命に呑み込まれながら激動の時代を生き抜く喜久雄。最後にたどり着いたのは・・・。
「眠らぬ月の下僕」という素敵なタイトルは、東にあるはずの母国 日本に帰りたいのに西にしか行けない運命を象徴するために、月の出ている方に向かうという意味合いでつけたのだそうです。
物語は時にとても重く非情で、また時には明るく軽やか。
2時間の中で自分自身も長い歳月や距離を旅したような漂泊感がありました。
満州で終戦を迎えた人たちの苦難はこれまでにも数々観たり読んだりしてきましたが、この作品でもそこはかなりキツかったです。
集団自決へと追い詰められ、何に代えても守りたいはずのわが子を泣きながら手にかけて、自らも命を絶つ母親たち。
わが子同然にかわいがっていた子どもたちの命を奪わざるを得ない喜久雄。
瀕死のところを助けられ、ひとり生き残ったと知った喜久雄の絶望と悔恨には胸が締めつけられるようでした。
ゑふさんの満州シリーズにはいつも実在の人物が登場しますが、今回は岡田嘉子(あと、三波春夫も出てきた)。
喜久雄がタシュケントの劇場建設労働者として働いている時に出合います。
岡田嘉子のはからいでモンゴルへ派遣され、ウランバートルでかばん職人として働き、やがてたどり着いた東ベルリンで、シュタージ(秘密警察)の盗聴器や監視カメラの機械工として働くことになる喜久雄。
その喜久雄の動向を探る使命を受けて結婚したマルレーネ。
誰にも心を閉ざして感情を表に出すことがなかった喜久雄。
アメリカに単身赴任し、そこで死亡したかと思わせておいて、やっと念願の日本に帰国し枚方の溝口家の墓を訪ねた喜久雄が最後に選んだ行き先はマルレーネのもと。
冒頭のツイートでも書いた喜久雄(うえだひろし)とマルレーネ(八代進一)とのラストは、やっと本当の気持ちを打ち明けた喜久雄の心とともに「時代」の雪解けも連想させて、とても心に響きました。
シンプルな舞台装置に、人形や仮面やパネルを使ったり、笑いを散りばめたり、一歩間違えば崩れかねないドラマをブレずに見せるのは、わかぎゑふさんの大胆にして緻密な筆致、演出と15人の役者さんたちの隙のない力量によるもの。
他の役者さんたちが何役も演じる中で、一貫して喜久雄を演じたうえだひろしさん、すばらしかったです。
14歳の少年から初老まで、舞台の上で本当に年を重ねていくよう。
そしてもちろん八代進一さんのマルレーネ。
決して美人とは言えないものの、喜久雄を見つめる目や切なく胸元にあてる手や髪をさわる仕草やドレスの裾さばきや・・・またしても髪にふれる手や、私は八代さんの女形がとても好きなのですが、またしてもマルレーネにヤラレました。
野田晋市さんは張家口で喜久雄が出会う日本兵の伍長が印象的。
言葉一つひとつが強く優しく、生きる力が漲っていて。でも死と隣り合わせという焦燥感や厭世感も漂っていて、陽気さと切なさが混じり合った表情が何ともいえず魅力的でした。そして伍長は喜久雄と不思議なご縁で繋がっていたのね。
わかぎゑふさん満州シリーズ
「ひとり、独りの遊戯」
「天獄界~哀しき金糸鳥 」

こちらは開演前の物販コーナー
八代さんとうえださんにお写真お願いしたらコングさんも一緒にポーズしてくださいました。



そして終演後の写真撮影コーナーは
近鉄アート館の三面客席それぞれの方向に向かってポーズ
すごく好きな作品なのにすぐに感想書いておかないとやっぱり記憶は薄れるなぁ のごくらく地獄度



