
歌舞伎座の門松は「寸胴」と呼ばれる切り口が水平のタイプ。
「八海山しばらく飲んでないなぁ」と横目で眺めながら(←)、夜の部です。
壽初春大歌舞伎 夜の部
2019年1月13日(日) 4:30pm 歌舞伎座
3階2列上手
一、 絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場
出演: 中村吉右衛門 中村雀右衛門 松本幸四郎
中村米吉 中村又五郎 中村歌六 中村東蔵 ほか
(上演時間: 1時間18分)
主君 小田春永(織田信長)を本能寺で討ち果たした後の武智光秀(明智光秀)と、その母 皐月、妻 操、息子 十次郎とその許嫁初菊、そして真柴久吉(羽柴秀吉)の物語。
「悲劇」が前提にある物語で、ずーっと哀切な場面が続いて苦手な演目です。
その上、歌舞伎でも文楽で観ても必ずどこかで意識失うという(←)
ところが、今回寝なかった。多分初めて(←←)
吉右衛門さん渾身の光秀すばらしい。
重厚で大きさと迫力、圧倒的な存在感がありながら、完全無欠のスーパーヒーローではなくて、迷いも弱さもあって、家族を思いやる深い情愛も感じさせる、血の通った「人間」光秀を描出。
十次郎は幸四郎さん。
前髪の美少年(←美少年という言葉にやたら反応)。
討死覚悟で出陣しようとする十次郎と泣いてすがる初菊にウルウル。
戦拵えをして再び登場する十次郎が匂い立つような若武者でホレボレ。
瀕死の重傷を負った十次郎を抱きかかえた光秀の「ててじゃ、ててじゃ」にナミダ。
皐月をはじめ、雀右衛門さんの操、米吉さんの初菊、歌六さんの久吉、又五郎さんの佐藤正清(加藤清正)という最強の布陣で見応えある一幕でした。
二、 勢獅子
出演: 中村梅玉 中村芝翫 中村福之助 中村鷹之資
中村玉太郎 中村歌之助 中村雀右衛門 中村魁春 ほか
(上演時間: 34分)
日枝神社の山王祭を舞台に鳶頭や芸者たちが勢ぞろいして江戸っ子の風情をさまざまな踊りや獅子舞で魅せる、粋でいなせな常磐津舞踊。
お正月らしくにぎやかでおめでたい舞踊で楽しく拝見。
魁春さん、雀右衛門さん筆頭に芸者衆もたくさん出てきて華やか。
獅子舞が出て来て、「あの足の方の人、うまい~」と遠目でもわかる達者ぶりに感心していたら鷹之資くんでした・・・なるほどね。
最後はいなせな鳶頭の梅玉さんの音頭で客席も一緒に手締め。
三、 松竹梅湯島掛額
吉祥院お土砂の場/四ツ木戸火の見櫓の場/浄瑠璃「伊達娘恋緋鹿子
作: 福森久助
出演: 市川猿之助 中村七之助 市川門之助 中村松江
大谷廣太郎 中村福之助 中村梅花 松本幸四郎 ほか
(上演時間: 1時間28分)
八百屋お七を題材としていて、吉祥院を舞台とした前半は笑いも散りばめられたお芝居、後半はお七の人形振りが見ものとなっています。
火事から逃れて吉祥院にやってきた八百屋お七(七之助)一家。お七は小姓 吉三郎(幸四郎)に恋こがれていますが、吉三郎には許嫁がいることを知り悲しみに暮れます。紅屋の長兵衛、通称紅長(猿之助)はそんなお七の機嫌をとって慰めようとします・・・。
猿之助さんの軽妙な紅長。
周りの役者さんも客席も自在に操って笑いを取り、でも品を失わないところはさすが。
本当に絵から抜け出てきたように美しい七之助さんのお七とその並びも眼福な幸四郎さんの吉三郎。
3人のバランスもよくて楽しい場面になりました。
紅長さんにヤラレっぱなしの吉三郎さん。
紅: 息子さんに負けるよ。がんばって!お父さん
吉: (笑)
紅: やっぱり息子の方がいいね
吉: そ、そんなことない!(笑)
みたいなやり取り。お二人とも楽しそうでした。
長沼六郎の松江さんが「老眼で見えな~い」と某ハズキルーペのCMぶっ込んできたり、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」とチコちゃんネタや「マグロのセリで有名な」とすしざんまいネタ、果てはUSAダンスまで、なかなかフリーダムな演出でした。
後半はガラリと雰囲気が変わって、まずはお七の人形振りから。
七之助さんの冷やりとする美しさが人形にぴったり。
手の動き、足の運びもまさに人形で、まばたき一つせず踊る姿は本当に後見さんに操られているよう。
七之助さんの海老反りはいつ観ても本当に美しい。
そして花道で人間に返るお七。
吉三郎に会いたい一心のお七は、木戸を開けるため厳罰に処されると知りながら火の見櫓の太鼓を目指します。
降りしきる雪の中、櫓を一段、また一段と上って行くお七の姿は緊迫感の中にえも言われぬ美しさと哀しさを湛えていました。
こんなに見どころたっぷりなら夜の部も一階で観ればよかったワ のごくらく地獄度



