
アイエヌジーエー INGA
原因の因に結果の果
歴史は因果のくり返し
因果で歴史は動いてく
大切なのは INGA
この歌詞とメロディが、今も頭の中でリフレイン。
シス・カンパニー公演 「日本の歴史」
作・演出: 三谷幸喜
音楽: 荻野清子
出演: 中井貴一 香取慎吾 新納慎也 川平慈英
シルビア・グラブ 宮澤エマ 秋元才加
演奏: 荻野清子 阿部寛 稲増優乙 萱谷亮一
2019年1月9日(水) 1:30pm シアター・ドラマシティ 10列下手
(上演時間: 2時間40分/ 休憩 15分)
「“卑弥呼の時代から太平洋戦争までの1,700年にわたる物語を、ミュージカルで描く!”という壮大かつ大胆な発想で生み出された作品」というフレコミでしたが、始まりは、20世紀初頭、シアトルからテキサスに土地を買って移住してきた一家の話。
何もない土地に、亡き夫の夢であった牧場をつくり一家の大黒柱となって働く母(シルビア・グラブ)と二人の子どもたち(新納慎也・宮澤エマ)。
このシュミット家の年月を経る一代記と、文字通り「日本の歴史」が並行に描かれます。
一見、何の関わりもなさそうな二つの世界・・・と思いきや、シュミット家に起こる様々なことが日本の歴史上の事件とシンクロしていることにある時気づいてハッとなりました。
全く別の時代、異なる世界で人々は似たような境遇に陥り、同じように悩みます。
♪あなたが悩んでいることは いつか誰かが悩んでいた悩み
と両方の場面でくり返し歌われるのです。
そんなふうに時空を隔てて行き来した二つの世界が交錯するラスト。
太平洋戦争の戦場で、日本兵と互いに銃を向けあって対峙するシュミット家のジュニア(シュミット家の長女パットと小作人の長男ノエルとの子ども)。
ああ、ここで、こんな形で、と思わずにはいられない。
三谷幸喜さん、やはりタダモノではないと改めて感じました。
「日本の歴史」の方は、卑弥呼に始まり、藤原仲麻呂 平清盛 源頼朝・義経 織田信長 明智光秀と弥助 くらいまでは歴史上の有名人物が並ぶこともあって、秋元才加さん演じる歴史の先生が、ひと言ふた言さわりを言うたびに「あ、清盛だ」「織田信長の登場ね」と出て来る前にわかって、なかなかの歴史ヲタクぶりじゃん、自分、と心の中で自画自賛して観ていたのですが、徳川家十五代将軍の中で採り上げるのが家重だったり、幕末の赤報隊・相楽総三あたりはかなりマニアックで、三谷幸喜さんの真骨頂でした。
源頼朝・義経の確執の場面は中井貴一さん・香取慎吾さんだったのですが、中井貴一さんの台詞が凄くて、まるで大河ドラマ観ているようでした。聴いていて、滝沢秀明くん主演の「義経」で中井貴一さんが演じた頼朝が脳裏に蘇ってきました。
それにつけても、中井貴一さんの硬軟、緩急自在ぶりはすばらしかったです。
歌も歌えば女装もするし着流しの渋い侠客も。軽妙も重厚も何でも来いと、上手さと存在感際立っていました。
シュミット家の小作人だった次男のジョセフが石油でひと山当てて大金持ちになり、慇懃無礼で嫌な奴になるあたりも絶妙でした。
ジョセフといえば、その弟でメキシコ人とのハーフのトーニョを演じた香取慎吾さんもよかったな。
ラスベガスで成功して、経歴を偽り、メキシコ人の血が流れていることに負い目を感じていたトーニョがスピーチですべてをぶちまけて舌を出す茶目っ気とこれ以上ないというくらいタキシード似合いっぷりのギャップ萌え。
当然ながらこの二人が中心にはなるのですが、アンサンブルやモブ的な扱いで出てくる場面も多く、そのあたりのバランスもよかったし、たった7人の出演者とは思えないくらい目が足りない(笑)。
オブライエン家父・息子・孫 三代にわたって演じ分けた川平慈英さんをはじめ周りの人たちは歌えて芝居も達者な役者さん揃い。
新納慎也さんの女装やオネエのスタイリスト(←信長の)観ていたら、「真田丸」の秀次役でブレイクした後、「ラ・ラ・カージュ・オ・フォール」の製作発表会見に女装で出て来て驚く記者さんたちに「これが通常運転です」と言い放ったことを思い出しました。
シルビア・グラブ、宮澤エマ、秋元才加の女優陣も万全。
♪人生で大事なことは 人生で大事じゃないこと〜 とか
♪なんとかなると思ってりゃ なんとかなるもんだ
なんとかならないことでも なんとかなるさなんとなく〜 とか
そしてもちろん
♪あなたが悩んでいることは いつか誰かが悩んでいた悩み とか
人生の応援歌的なメッセージ性のある歌詞がくり返し歌われるのですが、こんなことをダイレクトに言われると背中を押されるどころかかえって醒めるという厄介な性格の持ち主の不肖スキップ、このあたりは残念ながら胸に刺さりませんでした。
が、
大きな歴史の流れも人びとの日々の営みも、同じ時の流れの中で因果は巡っているもの。
ある時は幸せに満ち、時に厳しく辛い人生を、それでも私たちは生きていかなければならないのだということは感じ取れたかな。
「INGA」を全員で歌って踊るカーテンコール。
その後、どれほど拍手が続いても「重ねて申しあげます。本日はこれにて・・」とアナウンスが流れ、一切出て来ない潔さ(笑)もいかにも三谷さんらしかったです。
「歴史はまだまだ続きますが芝居は終わります」 のごくらく度


