
タカラヅカでスタートできるのは華やかでハッピー感満載。
宝塚歌劇星組公演
Once upon a time in Takarazuka
「霧深きエルベのほとり」
作: 菊田一夫
潤色・演出: 上田久美子
出演: 紅ゆずる 綺咲愛里 礼真琴 万里柚美
美稀千種 七海ひろき 如月蓮 天寿光希
音波みのり 麻央侑希 瀬央ゆりあ 紫藤りゅう
有沙瞳 天華えま 極美慎 水乃ゆり/
一樹千尋 英真なおき ほか
2019年1月3日(木) 3:00pm 宝塚大劇場 1階6列上手
(上演時間: 1時間35分)
「Once upon a time in Takarazuka」と冠がついた作品。
「霧深きエルベのほとり」は菊田一夫さんが宝塚歌劇のために書き下ろして1963年(昭和38年)に初演された作品。
その後も何度か再演されているということですが、いずれも観ておらず今回初見。
ビア祭りに浮き立つドイツの港町 ハンブルグを舞台に、情に厚く人間的魅力に溢れながらもどこか哀しみを湛えた船乗りカール(紅ゆずる)と父親との確執から家出した名家の令嬢マルギット(綺咲愛里)という"身分違い“の二人の悲恋を、マルギットの婚約者フロリアン(礼真琴)やカールの船乗り仲間たちをまじえて描く物語。
私たち観客の涙をしぼる劇作でクリーンヒット連発の上田久美子先生が、この古典的な物語をどんなふうに潤色・演出されるのか、とても楽しみにしていました。
この作品について上田先生はプログラムで、「誰にでもすんなりわかる完璧な物語構造と、素朴な言葉の中に本物の男らしさを宿す台詞を兼ね備えた、自分には逆立ちしても一生到達できなさそうな戯曲である」と述べられていますが、その言葉どおり、オリジナルの戯曲と台詞を尊重して、改訂はあまり加えられなかったのではないかと拝察します。
率直に言って、身分違いの恋という設定も、悪ぶって見せて実はいいヤツというキャラクターも、その男が恋人の幸せを思って身を引くために自分が悪者になって相手から愛想尽かしするように仕向けるというパターンも、使い古したメロドラマのよう。
演劇的にも、登場人物がやたら自分の感情を台詞で言うとか、「職業の低さ」という言葉とか、いろいろ古くさい。
それでも、マルギットと別れたカールがヴェロニカに泣いて自分の心情を吐露し、船へと向かった後、フロリアンとマルギットがカールを探しにやってきたところで思わず泣きそうになりました・・・まんまとハマってるやん。
ただ、個人的な好みからするこの場面は蛇足かなぁ。
ヴェロニカをマルギットに見立ててカールにあんなこと言わせなくても、観ている私たちにはカールがマルギットの幸せを思ってわざとあんなことを言ったこと、痛いほどわかります。
紅さんの演技力も、観客のイマジネーションも、もっと信じてもらっていいと思います。
船乗りにしては少々線が細いというか、野性味が足りないかなと思った紅ゆずるさん。
悪ぶっていながら実は温かい心根の持ち主で細やかな心遣いができるカールを丁寧に演じていました。
「ひどい目にあわせる」と最初にオオカミ宣言しておいて実は限りなくやさしいとか、マルギットでなくても惚れてまうやろ~というカンジです。
口八丁手八丁で抜け目なさそうだけど実は繊細な紅さんの個性とも重なります。
「照れて冗談の下には繊細さを隠しているような」紅ゆずるさんに「おっちょこちょいの悪党だと他人には思われていたがる実は心優しい男の役」をやってほしいとすっと思っていたという上田先生の意図がぴしゃりとハマった感じです。
オープニングで♪鴎よ~ 翼にのせてゆけ~ と歌い始めた時、「あ、知ってる曲だー」と思いましたが(舞台観たことないけど100周年記念のTAKARAZUKA BEST SELECTION 100のCDに入っていたから)、歌唱もとても安定していました。
マルギットの綺咲愛里さんはとにかく可愛らしい。ビジュアル満点。
無邪気で物おじせず、いかにも何不自由なく育った世間知らずのお嬢様という雰囲気。
父親への不信感から家出したけれど、フロリアンが言っていたようにその不信がクリアになった時点でカールへの思いが色あせたように見えてしまうのも、それをカールが感じ取ってしまうことを感じることができないのも、いかにもお嬢様です。
フロリアンは礼真琴さん。
こんな完璧な人間がいるだろうか。
育ちがよく思慮深く冷静で、婚約者であるマルギットに家出され、そのマルギットが素性も知れない船乗りと結婚したいといえば応援し、マルギットの揺れる心を言い当ててアドバイスする・・・こんな完璧な人間がいるだろうか(大切なことだから2回言いました)。
礼さん、ここまで優等生の役は初めてではないかしら。
ともすれば嫌味になるかもしれない男性を無理しているふうでもなくまっすぐに演じていてよかったです。
七海ひろきさんはカールの船乗り仲間のトビアス。
後で調べたところ、この役は今回上田久美子先生が加えた役なのだそうです。
仲間たちのリーダー格で男気もあるカッコいい役で、ラストはカールの妹ベティと結婚して船乗りをやめ、「あばよ」と去っていきます。この公演で退団する七海さんのためのはなむけの役ですね。
ベティは水乃ゆりさん 102期生。
田舎なまりで純朴なベティ。「デビュタント」に続いての大役。今作の新人公演ヒロインも決まっていて、抜擢が続いています。
有沙瞳さん演じるマルギットの妹シュザンヌは、もう出てきた時から「はは~ん、シュザンヌはひそかにフロリアンを愛しているという訳ね」と思わせて、そのあたりが戯曲の古さかなぁ。
わりとキツ目の役が印象的な有沙瞳さんの控え目な役よかったです。歌もお芝居も上手いし小柄で礼真琴くんと並びのバランスもいいし、お嫁さんになるのかな~?
音波みのりさんのアンゼリカが短い出ながらとても印象的。
湖上のレストランでカールと出会った時の驚きながらも憂いをたたえた大きな瞳・・・2人の過去に何があったかその表情だけで表わしていてすばらしかったです。音波みのりさん、本当に大人の女を演じられる娘役さんになったなぁ。綺麗だし。
マルギットの厳格な父親 ヨゼフの一樹千尋さん、酒場の女 ヴェロニカで珍しい女役を見せてくれた英真なおきさん、専科から特出のお二人はさすがの存在感。
まるでショーの一場面のように華やかなビール祭りの群舞、客席通路を役者さんが行き交うカールとマルギット捜索お場面、回り舞台や大セリを使った舞台装置・・・平面的になりがちな台詞劇を立体的でスピーディに見せたのはさすが上田久美子先生のご手腕です。
とはいうものの、上田久美子先生はやはりオリジナルのお芝居が観たいというのが正直なところ。

お正月の大劇場は華やか。
年始観劇プレゼントのポストカードもいただきました。
ショーの感想につづく・・・