
フェデリコ・フェリーニ監督の「道」もそんなころに観た映画のひとう。
この映画に描かれる世界観には到底理解が及ばず、ニーノ・ロータ作曲の美しくも哀切なメロディと、ジェルソミーナ役の女優さんの無垢だけどどこか哀しげな瞳だけが印象に残っていました。
あの映画を舞台で?それも音楽劇ってどういう感じになるのかしらと興味シンシン。
しかも演出はデヴィッド・ルヴォーってめちゃ気になるやん!ということで。
音楽劇 道 La Strada
原作: フェデリコ・フェリーニ『道』より
脚本: ゲイブ・マッキンリー
演出: デヴィッド・ルヴォー
音楽:江草啓太
出演: 草彅 剛 蒔田彩珠 海宝直人 佐藤流司
春海四方 フィリップ・エマール ほか
2018年12月22日(土) 1:00pm 日生劇場 オンステージシート 1列
(上演時間: 1時間40分)
物語: 旅芸人のザンパノ(草彅 剛)は貧しい家のジェルソミーナ(蒔田彩珠)を買い、助手にして一緒に旅に出ます。サーカス一座に参加した二人はそこで自由奔放な綱渡り芸人イル・マット(海宝直人)と出会います。イル・マットは希望を失ったジェルソミーナに、芸を教え、助言をくれる特別な存在でしたがザンパノとは犬猿の仲。ついにはナイフを向けての喧嘩となりザンパノは刑務所へ、イル・マットは一座を追放されます。一座の仲間やイル・マットから引きとめられたジエルソミーナでしたが、結局ザンパノを待ち、再び共に旅を続けることを選びます。
道中偶然再会したイル・マットをザンパノは殴り殺してしまい、その場にいたジェルソミーナはショックのあまり「道化がけがをした」と繰り返し助手として使い物にならなって、ザンパノはジェルソミーナを置き去りにしてしまいます。
数年後、ザンパノは海辺の町でジェルソミーナが死んだと聞かされ、一人海岸の砂浜に伏して号泣するのでした。
舞台の真中に大きなサークルがあって、帽子や小道具などがいくつか置いてあります。
すべてのドラマがこのサークルの中で繰り広げられます。時には登場人物がそこに座ったりもして。
舞台奥に階段状の客席(オンステージシート)があり、客席側から見たら多分サーカスの観客のように映ったのではないかしら・・・そう、舞台全体がサーカスのテント小屋のような雰囲気。出演者の衣装やメイクも含めて、どこか寓話的で幻想的な空気が漂う舞台でした。
ザンパノ、ジェルソミーナ、イル・マット、そして狂言回し的なモリール(佐藤流司)以外はサーカス団員を演じる役者さんたちが何役も兼ねていてコロス的な役割も担い、歌も歌います。舞台上手下手でバンドの生演奏。
物語の最初と最後にも登場するクラウン(ピエロ)はジェルソミーナにだけ見える存在なのだとか。
抽象的な表現もあるのですが、全体として映画「道」のストーリーをかなり忠実に舞台化した印象。
その日暮らしで転々と旅を続けるサーカスの一座。
いつも孤独で愛を知らず、ジェルソミーナにも辛くあたるザンパノ。
そんなザンパノに懸命に尽くすジェルソミーナ。
ジェルソミーナに生きる意味を教えるイル・マット。
粗野で乱暴者で大酒飲みで女にもだらしないザンパノには共感できるところは何もないと思って観ていました。
が、刑務所から出てきた時、「逃げることもできたのに」とぽつりとジェルソミーナに告げるあたり、彼がこれまでの人生でずっと味わってきた孤独の深さと、自分では気づいていないであろうジェルソミーナへの思いを感じました。
ジェルソミーナを連れて海に行くシーン、ステキだったな。
薄いブルーの布で海を表現していて、その上で笑顔を浮かべて泳ぐザンパノ。
のびやかなダンスみたいで、ザンパノの心が水の中でやさしくほどけていくようでした。
粗暴さは弱さの裏返しのようなザンパノ。
だから、最後の慟哭が心に痛いです。
生きるのが下手で、自分が思う通りには生きていけない人生は厳しく残酷で、孤独は絶望的に深い。何とも余韻の残る幕切れでした。
ザンパノの草彅剛さん。
胸の筋肉で鎖を引きちぎる芸がウリのザンパノ。
筋肉隆々の体をつくり上げたと聞いていましたが、それもさることながら、野太い声にオドロキ。
発声もかなり研究しているのでしょうが、あんな声が出せるのね。それがまた、本当は弱く小さい人間なのにいつも自分を大きく見せようとしているザンパノにぴったり。
穏やかで温厚という草彅くんのイメージとは真逆の、挑戦の役だったのではないかと思いますが、こんなにハマるとは意外でした。
ま、元より演技力には定評あるし、過去には「任侠ヘルパー」とかコワモテの役もやっていましたしね。
ザンパノの対照として置かれるイル・マットは海宝直人さん。
飄々とした雰囲気でいつも明るく軽やかで、ジェルソミーナにもやさしく芸を教えて。
どこにも非がないこんな青年が非業の死を遂げなければならないところに人生の理不尽とザンパノの罪を感じます。
歌わない海宝直人さんもとてもよかったです。
あの高い位置での綱渡りはワイヤーアクションとわかっていてもちょっとドキドキ。
ジェルソミーナはオーディションで選ばれた蒔田彩珠さん。16歳でこれが初舞台。
純粋で無垢な感じはよく出ていましたが、ぎこちない動きや固い台詞まわしが、この役のための演技か経験不足によるものか今イチわからず(笑)。
コロスの中にひと際背筋が伸びて立ち姿が綺麗な人がいるなぁと思ったら、妃海風さんでした。
風ちゃん、こんなところに出てたなんて全然知らなかったよ(←)。
今回の席はオンステージシート。
これまでにも舞台上の席は何度か経験したことありますが、これまでのどれより「オンステージシート」でした(笑)。
着席する時も出る時も、舞台下手に設置された役者さんたちが通る短い花道を通って、舞台の上を歩きました。
座席は舞台奥 ホリゾントの部分に階段状に4列×18席 計72席。
上手下手に9席ずつ分かれていて、真ん中に階段があり、そこから役者さんが出入りもします。
基本的に後ろから観る形になるので、芝居そのものや役者さんの表情を楽しむにはハンディのある席でしたが、コロスの人たちが出入りの時にちゃんとこちらの方を向いて笑顔ふりまいてくれたりもして、なかなか楽しかったです。
座席券は当日引き換え方式で、事前に「引き換えには身分証明書の提示が必要」とメールが来たり、座席へ行くのも開演10分前に「扉1」の前に集合して、種々注意をアナウンスされてから皆一緒に入場と、なかなか厳重だったのもおもしろい初体験でした。
プログラム完売で郵送の予約受付に長蛇の列って・・・(いや、買うつもりはなかったけれど)の地獄度


