
七回忌って、もうそんなになるのかと愕然としますが。
歌舞伎座百三十年
芸術祭十月大歌舞伎 昼の部
十八世 中村勘三郎七回忌追善
2018年10月24日(水) 11:00am歌舞伎座
3階2列下手
一、三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場
作: 河竹黙阿弥
出演: 中村七之助 坂東巳之助 中村鶴松 中村獅童
(上演時間: 27分)
七之助さんでお嬢吉三といえば2014年のコクーン歌舞伎が記憶に新しいところですが、純粋歌舞伎版はその前に浅草歌舞伎でやっていらして以来かな。
怜悧な美しさ際立つ七之助さんは、お嬢とか弁天とか、こういう役が本当によくハマります。
声もいいのですが、今回は「月も朧に白魚の・・・」という黙阿弥独特の七五調の流麗な台詞が思ったほど響いてきませんでした・・・三階席だったから?
巳之助さんのお坊、獅童さんの和尚ともに、何となくおとなしい感じ。
浅草やコクーンとは舞台の大きさが全く違っていることも要因かもしれません。
中村屋兄弟ってうまく棲み分けができていて、「三人吉三」でいえばコクーンでもそうだったように、お嬢=七之助さん、和尚=勘九郎さんなイメージですが、思えば勘三郎さんはその両方ができる役者さんだったなぁ、と改めて。
どちらかといえば勘九郎さんが受け継いで両方やる感じですが、このごろあんまり女形やらなくなっちゃったしなぁ。
二、大江山酒呑童子
作: 原雪夫
振付: 二世藤間勘祖
作曲: 十四世 杵屋六左衛門
出演: 中村勘九郎 中村錦之助 中村歌昇 中村隼人
中村児太郎 中村種之助 市川高麗蔵 中村扇雀 ほか
(上演時間: 57分)
昨年の顔見世 ロームシアター京都で観て以来の「酒呑童子」。
とても楽しかったです。
十七世中村勘三郎のために書き下された舞踊劇。
改めて上演記録を確認すると、去年勘九郎さんがやるまでは、勘三郎さんと十七世勘三郎さんしかされていないのですね。中村屋親子三代に受け継がれたお役。
愛嬌たっぷりで表情豊かな酒呑童子。
ピンとのばした手やいかにも“童子”といったあどけない表情、キュッと上がった口角。
ひとたび「酒」と聞くとに~んまりとなるのもカワイイ。
・・・のに、どこか妖しげな、人外のもの感を纏っていて、童子の姿でニコニコしながら踊りながら扇で顔を隠した向こう側で覗かせる鬼の表情に思わずゾクッとなりました。
まばたき全然しないとか、踊りながら動きをとめずに腕を抜くとか、軽々と高い跳躍とか、もちろん最後の仏倒れだとか超凄ワザの連投でどれも見惚れてしまいますが、くるくる回りながら舞台を上手から下手へ移動して直角に曲がって花道に行くって、勘九郎さん どんな三半規管お持ちなのでしょうか。
平井保昌の錦之助さんはじめ、鬼退治側にはいてうさん、歌昇くん、隼人くん、鶴松くん、濯ぎ女には高麗蔵さん、児太郎くん、種之助くんと周りも若々しく華やかで、とても見応えある楽しい一幕でした。
勘九郎さんの酒呑童子、また観たい!
三、東山桜荘子 佐倉義民伝
印旛沼渡し小屋の場
木内宗吾内の場
同裏手の場
東叡山直訴の場
作: 三世瀬川如皐作
出演: 松本白鸚 中村七之助 中村勘九郎 片岡亀蔵 嵐橘三郎
澤村宗之助 松本錦吾 市川高麗蔵 坂東彌十郎 中村歌六 ほか
(上演時間: 1時間34分)
「佐倉義民伝」は2010年6月 勘三郎さん主演のコクーン歌舞伎を観ていますが、純粋歌舞伎版を観るのは初めてでした。
江戸時代。領主の圧政に苦しむ農民を救うため、下総佐倉公津村の名主・木内宗吾が自らの死もかえりみず、将軍に直訴した(当時は大罪とされていた)という実話を元にした作品。
かなり切なく辛い話だということは刷り込み済みなので覚悟して観たのですが、思ったほど暗い気持ちにならなかったのは、最後の「東叡山直訴の場」で救われた思いがしたからでしょうか。
それまでの雪で閉ざされたような色彩のない重苦しい場面から一転、鮮やかな紅葉が一面に広がる東叡山寛永寺。
そこに松平伊豆守(高麗蔵)を伴って姿を現す徳川家綱(勘九郎)。
宗吾決死の覚悟の直訴状を伊豆守が懐に納めたのを見た宗吾(白鸚)が捕えられながらも笑顔を見せていて、「あぁ、直訴は叶ったんだ。そのことが宗吾にもわかったんだ」と思えて、後味のよい幕切れでした。
幕開きは「印旛沼渡し小屋の場」
コクーンの時は笹野高史さんが演じていらした渡し守甚兵衛を歌六さん。
禁を破って舟を出すと言う甚兵衛、それではお前に難儀がかかると固辞する宗吾。
それでもと、舟を出す甚兵衛、甚兵衛のその思いに感謝しつつ舟に乗る宗吾。
この宗吾と甚兵衛の二人の台詞のやりとり、さり気ない仕草の一つひとつが滋味染みわたるようでした。
続く「木内宗吾内の場」の七之助さんのおさんもよかったです。
華やかさを封印した地味な女房役。
百姓衆に着物を譲り渡したり、宗吾に淡々と窮状を告げたりと、いかにもしっかり者の村の総代の女房といった風情ですが、「ともに罪科を受ける覚悟」と宗吾の去り状を拒むところにも宗吾への深い敬愛を感じました。
宗吾の帰りを喜んだのも束の間、江戸へ直訴に向かう宗吾を子どもたちとともに裏窓から見送る姿が切ない。
それまでがまんしていたのに、走り出て宗吾にすがりつく長兄の彦七・・・その必死の叫びに涙ぼろぼろ。
その彦七を断腸の思いで振り切り、涙を笠で隠して雪の中を進んでいく宗吾にまた涙。
昼の部終演後、もう一度勘三郎さんのお写真の前に伺ったら、串田一美さんがいらして、勘三郎さんのお写真を見つめながらしばらくじっと佇んでいらっしゃいました。何かお話されていたのでしょうか。
走れ!宗吾 ひた走れ! また観たかったよ のごくらく地獄度



