2018年11月30日

「當る亥歳 吉例顔見世興行」 夜の部


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二か月連続興行となった今年の南座顔見世。
今年1月から始まった高麗屋襲名披露興行の掉尾を飾る興行でもありますが、そればかりではなく、昼夜ともに充実の演目が並んで、本当に贅沢な時間を過ごしました。


南座発祥四百年 南座新開場記念
京の年中行事 當る亥歳 吉例顔見世興行 東西合同歌舞伎 夜の部
二代目 松本白鸚    
十代目 松本幸四郎
八代目 市川染五郎  襲名披露
2018年11月7日(水) 4:30pm 南座 1階4列下手/
11月25日(日) 1階8列センター



第一、寿曽我対
出演: 片岡仁左衛門  片岡孝太郎  片岡愛之助  
上村吉弥  中村壱太郎  片岡秀太郎 ほか
(上演時間: 45分)


おめでたい興行の幕開きの定番の一つ「寿曽我対面」ですが、仁左衛門さんの工藤祐経、五郎十郎は愛之助さえんと孝太郎さん、秀太郎さんの舞鶴、吉弥さんの大磯の虎、壱太郎さんの化粧坂と、ここまで上方役者が揃った「曽我対面」も珍しいのではないかしら。終盤、友切丸持ってやってくる鬼王新左衛門は進之介さんだったし(←1年に1回くらいしかお見かけしないけれど他の時は何やってるんだろう)。

仁左衛門さんの工藤はさすがの貫禄で存在感たっぷり。
やっぱり工藤がどーんと構えていないとこの絵面は成立しませんので、華のある座頭の役だと思いました。
それにしても仁左衛門さん、十月歌舞伎座では五郎(助六)で、やんちゃ力発揮して「股くぐれ~」とかおっしゃっていましたよね(笑)。

愛之助さんは昼の「鈴ヶ森」に続いて「やればできる子」発動。
隈取もキマッて血気盛んな五郎を力演でした。
吉弥さんの大磯の虎がとても綺麗で、最初、壱太郎くん化粧坂少将と奥に並んで座っている時、「あのべっぴんさんは誰?」とオペラグラスでガン見してしまいました。吉弥さん、このごろは老け役されることも多いですが、冴えわたる美貌は衰えを知りません。



第二、二代目松本白鸚  十代目松本幸四郎  八代目市川染五郎  襲名披露  口上
出演: 松本白鸚  松本幸四郎  市川染五郎/坂田藤十郎  片岡仁左衛門   
(上演時間: 15分)


藤十郎さんの仕切りで、襲名披露の三代以外は仁左衛門のみ登壇というシンプルな口上。

37年前の高麗屋三大襲名の時は初代白鸚さんはご体調が悪く南座には出演されず、今回初めて「松本白鸚」のまねきが南座にあがったこと、幸四郎さんご自身も学業のため南座には出演されなかったけれど、「今月は倅が1ヵ月学校を休みましたので」三代揃ってのご出演となったと幸四郎さん。

染五郎くんは三代揃った夜の部の「勧進帳」を「人生最大の緊張感をもって演じています」とおっしゃっていました。千穐楽には「連獅子の日々がとても楽しく興奮しました」ともおっしゃっていて、本当に充実した日々だったのだなと感じました。

仁左衛門さんが、幸四郎さんの6年前の転落事故に触れられ、大けがを克服して精進を重ねて今日に至ったことを語られたのが印象的でした。

本当に、あれからまだ6年、もう6年なんだなぁ。
「これからも永遠に南座の灯を灯し続けるために、歌舞伎のために、力を尽くします」という幸四郎さんの力強い言葉が今も胸に響いています。



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第三、歌舞伎十八番の内 勧進帳
出演: 松本幸四郎  市川染五郎  大谷友右衛門  市川高麗蔵  
澤村宗之助  松本錦吾  松本白鸚 ほか
(上演時間: 1時間15分)


「勧進帳」を親子孫三代で演じるのは歌舞伎史上初めてのことだとか。
高麗屋さんの三代襲名は、いろんな歴史をつくっていきます。

一月は吉右衛門さん、七月には仁左衛門さんという、今の歌舞伎界で最強ともいえる二人の富樫を相手に毎日精進を重ねてきた幸四郎さん弁慶は、ますます磨きがかかり、洗練され、誰のまねでもない「十代目松本幸四郎の弁慶」をつくり上げて盤石。

大きく、力強く、剛胆にして繊細。
山伏問答は丁々発止で緊張感に溢れ、判官御手は切なく、酒宴と舞は楽しい。

決死の思いで主である義経を打擲した後、富樫が、「早まりたもうな」と関所を通すことを決意したところで、弁慶は顔をそむけて平静を装いながらとても沈痛な表情をしています。
安堵とか感謝とかではなく、富樫が引き受けてくれたものの重さを誰よりも弁慶が感じているがよくわかります。

ここの白鸚さん富樫がまたとてもよくて、「判官殿にもなき人を、疑えばこそ」と口では言いながら、この主従を義経一行と確信している富樫。それでも弁慶の必死の思いに打たれて通行を許す富樫には、弁慶が主を思う気持ちへの感動や哀感とともに、自分自身の覚悟が滲み出ていて、思わず落涙。これまで数多く「勧進帳」を観てきましたが、ここで泣いたのは初めてです。

染五郎くんの義経は、もちろんまだ未熟ではあるものの、一月と比して格段の進歩だと思います。
花道の出からとても落ち着いていて気品に満ちて、「判官御手」の神々しさは余人をもって代えがたいと思えるほど。
七月松竹座で観た時は、ちょうど花道で弁慶が控える真横で「まつ毛なっがーい」と見とれたものですが、今回は義経が真横で、またまた「まつ毛なっがー!」と目が釘づけになったのでした。


7月のディナーショーで幸四郎さんがおっしゃっていたように、今回の「勧進帳」は滝流しつきでした。

ディナーショーで素踊りを拝見しましが、衣装つけて生演奏で物語の中で観る滝流しは格別。「演奏も聴きどころ」と幸四郎さんがおっしゃっていた通り、響き渡る傳左衛門さんの鼓もカッコよかった~。
延年の舞からの滝流しで、幸四郎さんの踊りが本当に好きだということも再認識しました。
まるで指先から続いているような扇とか、身体は全く上下しないで脚だけでバンッと所作版踏み抜きそうな音とか、音もたてずにひらりと跳ぶ姿とか・・・好きだー


千穐楽は幸四郎さん100回目の弁慶でした。
一瞬一瞬が愛おしかった。
2014年11月1日  1回目の弁慶を歌舞伎座で観て以来、私が拝見したのは10回に満たないけれど、幸四郎さんが一期一会の覚悟で魂込めて回数を積み重ね、この弁慶をつくりあげたのだと思うと胸がいっぱいでした。


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竹馬見ると「南座の顔見世」が帰ってきた!と感じます。



第四、雁のたより
作: 金澤龍玉
出演: 中村鴈治郎  松本幸四郎  中村亀鶴  中村壱太郎  
中村寿治郎  片岡市蔵  坂東竹三郎  片岡秀太郎 ほか
(上演時間: 1時間5分)


いかにも上方和事といった狂言。
「え~っ?そんな都合のいいオチ?」といった展開もいかにも歌舞伎的でほっこりするハッピーエンドは打ち出しにぴったり。

髪結三二五郎七は藤十郎さんか鴈治郎さんでしか観たことないのですが、鴈治郎さんはもうすっかり手の内のお役。
秀太郎さんのお玉が、じゃらじゃらしつつもいかにも花街上がりの女房という雰囲気で風情たっぷり。亀鶴さんの若殿 前野左司馬がカリカチュアライズ気味なのだけど品は落とさず楽しかったです。
千穐楽には、「「司(壱太郎くん)はみどもが誘った来月の顔見世より歌舞伎座・中村壱太郎の『お染の七役』が観たいと言う」とプロモーションに一役買っていらっしゃいましたw

そしてご馳走は幸四郎さんの若旦那万屋金之助。
「疲れてまんねん」を連発していましたが、鴈治郎さんとのかわいいやり取りで毎回客席を笑いの渦に巻き込んでいました。

鴈:  若旦那相変わらずええ男でんな
幸:  昔は美少年 呼ばれてましてん

鴈:  (高麗屋襲名興行に) 1月からずーっと付いて回ってまんねん
幸:  いつも高い店連れてってもろて・・・今月はまだ連れてってもろてへん
鴈:  今月は三代襲名でお子さんもいてはるし、出にくそうやな思て

→ この後、連れて行っていただいたようで、舞台上でお礼おっしゃっていたとか。


千穐楽の若旦那、床机に腰掛けるなり「あ~、疲れた」

鴈: わてな、芝居行ってきましてん
幸: よろしな。どこ行ってきましてん?
鴈: 南座でんがな。高麗屋三代襲名。勧進帳の幸四郎の弁慶、良かったわぁ
幸: そりゃ自分のことのように嬉しいわぁ

鴈: わてな、一月二月の江戸、四月の尾張、六月の筑前、七月の浪花と全部追っかけてまして
幸: それはそれは、本人に代わって礼を言います」(と土下座)
鴈: こうなったらもう幸四郎の次の白鸚が見たいな
幸: まだなったばっかりでんがなw そしたら今の白鸚どないしまんねん。黒鸚にでもなりまんのか
幸: それ、よろしいな。松本国王(笑)


なごむ www


image2 (4).jpg昼夜ともいずれも楽しくすばらしく、高麗屋三代襲名を寿ぐともに南座の新開場を飾るにふさわしい興行。
先月のお練りもあって、この十一月の南座興行、忘れられないものになりそうです。





高麗屋三代襲名興行  私も鴈治郎さん同様コンプリート のごくらく度 (total 1985 vs 1986 )




posted by スキップ at 23:13| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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