

今年ではなく、昨年の納涼歌舞伎です(^^ゞ
本当は「贋作 桜の森の満開の下」を観劇する前にまだ感想書いてなかったこちらをまとめたかったのですが・・・。
「今年の納涼三部は野田さんの新作らしい」という情報を得たのは昨年春ごろだったでしょうか。
「それって、『桜の森』だよね?」と即答したのは、その年のはじめに「中村勘三郎さんへのオマージュ」と銘打たれて上演された「足跡姫」のオープニングが、あまりにも「桜の森」だったから。
勘三郎さんの耳男、玉三郎さんの夜長姫で歌舞伎座でやろうと野田さんと勘三郎さんが約束していた「桜の森の満開の下」。観られる日が来るなんて。
八月納涼歌舞伎 第三部
「野田版 桜の森の満開の下」
坂口安吾作品集より
作・演出: 野田秀樹
美術: 堀尾幸男 照明: 服部基 衣裳: ひびのこづえ
作調: 田中傳左衛門 附師: 杵屋巳太郎
出演: 中村勘九郎 市川染五郎 中村七之助 中村梅枝
坂東巳之助 中村児太郎 坂東新悟 中村芝のぶ 中村吉之丞
市川猿弥 片岡亀蔵 坂東彌十郎 中村扇雀 ほか
2017年8月20日(日) 6:30pm 歌舞伎座 3階2列下手/
8月27日(日) 1階4列センター
(上演時間: 2時間30分/幕間 25分)
物語全体の感想は、順番が逆になってしまいましたが、観たばかりの「贋作 桜の森の満開の下」の感想に書きましたので(こちら)
ここでは主に「歌舞伎版」としての印象と役者さんについて。
美しい舞台美術。
歌舞伎座特有の機構を駆使した演出。
夜長姫の最期、打ち掛けをかけた途端に桜の花びらだけを残して消えてしまう演出も初演そのまま。
作調が傳左衛門さんで邦楽の演奏やツケは入りますが、BGMもオリジナル版そのまま使われているようでした。
台詞が七五調になっている以外は戯曲に大きな変更はないように感じましたが、その分、同じ野田さんの「『研辰』や「鼠小僧」に比べると、現代劇寄り・・・というか、オリジナル版寄りという印象。
機関銃のように連射される言葉遊びや笑いもふんだんに盛り込まれた脚本、演出に果敢に挑む歌舞伎役者さんたち。その振り幅の広さ、適応力、そして演劇的地力に改めて感服することしきりでした。
中村勘九郎さんの耳男。
まっすぐさ、魂の純粋さと結び付く個性が耳男という役にピタリとハマっていました。
耳男はまくしたてる台詞が多いのですが、それがきちんと聴き取れる台詞術、舞台上を縦横無尽に駆け回り転げ回る身体能力も魅せてくれます。
耳男がバケモノを彫ることができたのは、耳男自身もまた鬼を背負い、その心の中に鬼を棲まわせているから。
野田秀樹さんが、「本気でものを創る者らの心に棲むと言われている鬼の話です」と筋書に書かれていて、勘九郎さんの耳男もまさしくそうだなあと思った次第です。
以前にも書いたことがあるのですが、勘九郎さんは歌舞伎のお役だとどうしても勘三郎さん写しになるというか、声も似ていて観る側もついそう思ってしまいがちですが、新作だと勘九郎さんらしさがズバリと出る気がします。「阿弖流為」の田村麻呂しかり、今回の耳男しかり。
水をかぶる場面でチョーサジャ ヨーサと小声で歌っていて、勘九郎さんの団七また観たいなぁと思いました。
七之助さんの夜長姫は、毬谷友子さんとも深津絵里さんとも違う、中村七之助さんの、歌舞伎役者の女形の夜長姫でした。
少女のようなかわいらしさとこの世の邪悪のすべてを呑み込んだような残忍さが共存する夜長姫。
同じ場面で姫にも鬼にも見えるように感じることがあって、女形ならではの造形だなと思いました。
「キリキリ舞いをはじめたわ。ほらあすこ!みーつけた!」の屈託のなさと闇の深さ。
「さよならのあいさつをして、それから殺してくださるものよ」の切なさ。
「ねえもしも、また新しくなにかを作ろうと思うのなら、いつも落ちてきそうな広くて青い空を吊るして、いま私を殺したように、耳男、立派な仕事をして」のいじらしさ。
鬼面となった時の声の変化はアラハバキが重なったりも。
染五郎(現 幸四郎)さんのオオアマ。
カリスマ性を持った人の上に立つ冷徹な権力者がこれほど似合う人が他にいるだろうか(いやいない)。
しかも超絶美しくて色っぽいときています。早寝姫でなくとも堕ちるのは必至。
オオアマは前半隠していた野心を後半一気に開花させますが、その二面性に顔つきや声まで変わる凄み。
「耳男、お前こそが鬼だな」と耳男に迫る場面の非情な冷酷さ、傲然さが好き過ぎてよだれ出そうでした(←ちょっとオカシイ)。
イルカ背負って出てくるとか(蘇我入鹿のパロディ?)、壁ドンしたりスカした顔でターン決めたり、お茶目に笑いどこも抜かりなく。
市川猿弥さんのマナコ。
古田さんと同体型つながり(笑)。
生きていくことに貪欲で機を見るに敏な俗物ながら男気があって、かわいらしさやおもしろさも存分に詰め込んでくれて、魅力的なマナコでした。
梅枝くんの早寝姫が高貴で少しのほほんとした佇まいでとても好きでした・・・梅枝くんは本当に何をやらせてもうまい。
あと女形ではエナコの芝のぶさんが印象的でした。この役を芝のぶさんって結構抜擢なのでは?と思いましたが、さすがの力量。同じ残酷さを持ちながら、高貴で無邪気な夜長姫の花のような笑顔と、、奴隷女の卑しさから毒を放つエナコの笑みとの対称が活きていました。
巳之助くんのハンニャもよかったなぁ、亀蔵さんの赤名人も、扇雀さんのヒダの王も・・・と書いていたらキリがありません。
ほんと、歌舞伎役者さんおそるべし。


上から見た花道にはこんな景色が
観ている間は夢中だったのに、幕間や終演後には勘三郎さん観ているだろうか、野田さんが約束を叶えてくれたこと、息子さんたちがきちんと受け継いでくれたこと、喜んでいるかな、いや、俺にやらせろよと悔しがってるかな、といろんな思いが心をよぎりました。
それでも、この作品を、この役者さんたちで、歌舞伎座で観られて幸せでした。
2018年版「贋作 桜の森・・」を観た今、モーレツに歌舞伎版を再見したくなっている(結構忘れている)ので、来年のシネマ歌舞伎楽しみ のごくらく地獄度



