2018年09月30日

月も寿ぐ祝祭 「東大寺歌舞伎」


todaijikabuki.jpg月あかりの下、大仏様とともに浮かび上がった舞台
頬をなでる風と草の香り
鐘の音

荘厳な雰囲気の中、極上の時が流れました。


東大寺世界遺産登録20周年記念 「東大寺歌舞伎」

2018年9月23日(日) 7:00pm 
東大寺大仏殿前特設ステージ 11列センター



「中村屋ご兄弟が東大寺で歌舞伎」という情報を知った時、興味はあったものの積極的に行く、というところまでは気持ちが至っていませんでした。
が、七之助さんご贔屓の東京の友人から「スキップさん、これ、行っときましょか」と誘っていただいて、ありがたく参戦。


東大寺で歌舞伎を拝見するのは、松本白鸚さんが幸四郎さん時代、千回目の弁慶を東大寺奉納大歌舞伎として演じられて以来(感想はこちら)。10年ぶりです。
雨模様の予報に反して、この日は朝から秋晴れ。
開演前は雲に隠れていた月も、七之助さん藤娘を待っていたかのように、翌日が中秋の名月という美しい姿を見せてくれました。


image1 (7).jpg

南大門を通るころにはまだ空は藍色



image2 (3).jpg

大仏殿に到着するまでの少しの時間ですっかり夜です。



image2.jpg  image1 (2).jpg

この方たちも夜の闇の中に浮かび上がると迫力5割増し



「藤娘」
藤の精: 中村七之助
(上演時間: 20分)


松の木から藤の花が下がる舞台美術が小さく感じるほど広い舞台。
かなり高めに設えられています。

七之助さんの藤娘が舞台下手の角切銀杏の揚幕から登場すると、夕闇に包まれた東大寺大仏殿前がそこだけパァ~っと輝いて花が咲いたよう。
綺麗で可憐で、客席のそここからざわめきが起こっていました。
長唄にのせて、意のままにならない恋しい男の心を嘆き、ほんのりと酒に酔っていく様を踊りで見せていきます。まさに錦絵から抜け出したような、どの瞬間を切り取っても美しい藤娘。幻想的で妖しく艶っぽさもあって、こんな女性にハマった男は大やけどしてしまいそう・・・などとうっとり見とれながら20分があっという間でした。



「連獅子」
親獅子の精:中村勘九郎  仔獅子の精: 中村虎之介
浄土の僧遍念: 中村小三郎  法華の僧蓮念: 片岡亀蔵
(上演時間: 55分)


虎之介くんの 仔獅子、勘九郎さんの親獅子の順で揚幕とは別の、舞台奥に設けられた橋懸りのようなところから登場。
前を向いたままバックするあれも、二人一緒にでした。

勘九郎さんの連獅子はこれまでにも何度か拝見していますが、親獅子を観るのは初めてです(多分会場にいるほとんどみんながそう)。
親獅子だからという訳ではないかもしれませんが、ふとした表情や眼差しの鋭さ、時に仔獅子を見守る慈愛に満ちた顔が、勘三郎さんそっくりで驚くことしばしば。これまで、声や台詞の口調が似ていると思っても、見た目が似ていると思ったことはそれほどありませんでしたので。

もちろんそればかりではなく、勘九郎さんの踊りらしさが随所に出ていました。
凛とした表情、キレッキレの動き、ダンッと所作板を踏む力強い音、指の先々まで神経の行き届いた美しい手の表情・・・あぁ、勘九郎さんの踊りってこうだった、と改めて見惚れました。

木の影で休む仔獅子を親獅子が探すあたりで鐘の音が聞こえて、そういう演出なのかと思っていたら、東大寺で毎夜8時に撞かれている鐘なのだとか。何て素敵なタイミングだったことでしょう。

亀蔵さん蓮念・小三郎さん遍念の間狂言でほっこりした後、見守る大仏様が浮かび上がるほど照明が落とされ、月あかりと風の音、木々のざわめき、虫の声の中、静かに響く笛・・・それらをすべて呑み込んでしんとした空気の中、現れた親獅子と仔獅子。まるですべてがこの親獅子と仔獅子のために用意された空間のように思えました。

勘九郎さん、獅子の台の牡丹にぶつかったりして少しひやりとした場面もありましたが、気迫溢れる踊りで場を支配。
ラストの毛振りは前半こそ仔獅子と揃っていましたが、最後の方は「あれ?なんかリミッターはずれた?」と思うくらい超高速回転で振っていて、しかも、あれだけのスピードでガンガン振っているのに体幹ピクリとも動じなくて、ポジションも全く変わらないという鉄人ぶりでした・・いや、鉄獅子か。
さすがについていけない隣の虎之介くんの体がどんどん斜めに傾いていったのを見ても勘九郎さんの凄さがわかろうというものです。

カーテンコールでは、恐縮する虎之介くんを真中に呼び寄せたり、皆を率いて上手下手中央と大きく手を差し出してご挨拶して、最後に大仏様にも拍手を、というように客席に促したり、その大仏様にきちんと手を合わせたり、と堂々たる座頭ぶり。勘三郎さんが亡くなってからずっと、こうして自分のことばかりでなく中村屋も周りのすべても背負ってきたんだと、その覚悟に目頭が熱くなりました。



image2 (2).jpg

終演後、空を見上げると煌々と輝く月。
大仏様に見守られ、月までに祝福されて、まるで一夜の夢のような祝祭が終わっていきました。





この後、ミナミに出て観劇仲間で飲んだくれ→午前様 楽しかったけど余韻はどこへ? のごくらく地獄度 (total 1965 vs 1968 )


posted by スキップ at 20:18| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください