2018年08月19日
生涯かけてひとつの役を演じる尊さ 松竹座七月大歌舞伎 「勧進帳」
松竹座 七月大歌舞伎の演目が発表された時、「女殺油地獄」に目が集中して、「幸四郎さん、いつかやりたいとおっしゃっていた大阪でついに・・」と舞いあがり、しかもお吉さんは猿之助さんだなんて、ルテ銀(2011年2月のル テアトル銀座)以来じゃない!とテンション上がって、口上もあることだし「これは夜の部メインで」と考えていました。
ところが
昼の部で「勧進帳」を最初に観た時、幸四郎さんの弁慶があまりにも胸に響いて、山伏問答聴いているうちに涙があふれる事案発生。
再見予定の千穐楽昼の部は3階から観るつもりだったのに、どうしてももう一度花道間近で弁慶の引っ込みが観たい、とチケット取り直した次第です。
松本幸四郎改め 二代目 松本白鸚
市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎 襲名披露
七月大歌舞伎 昼の部
歌舞伎十八番の内 「勧進帳」
出演: 松本幸四郎 片岡孝太郎 市川高麗蔵
中村歌昇 中村種之助 松本錦吾 片岡仁左衛門 ほか
2018年7月12日(木) 2:00pm 松竹座 1階1列センター/7月27日(金) 1階5列下手
(上演時間: 1時間10分)
幸四郎さんが弁慶を演じるのは3回目。
2014年11月 歌舞伎座
2018年1月 歌舞伎座
幸せなことに3回とも拝見していますが、今回はこれまでのどの弁慶とも違っていました。
存在感、重量感とリアリティ。
もちろんこれまで観た弁慶もすばらしかったのですが、何というのでしょう、これまでは「全身全霊をかけて弁慶を演じている」という感じだったのに対して、今回は、「弁慶が肚に入っている」というか、「そこに弁慶がいる」と感じさせる弁慶でした。
先日のトークショーで幸四郎さんは、「父も叔父も教わる人は同じですが、松嶋屋さんは弁慶もされていますし、毎日いろいろおっしゃっていただいています」とおっしゃっていました。
すばらしい弁慶はもちろんご本人の努力、精進の賜物ですが、高麗屋、播磨屋の芸に加えて、「松嶋屋の勧進帳」が入ったことがとても奏功したのではないかと思います。
若々しくもありながら、花道の出から他を圧するような大きさ、重量感のある弁慶。
低く朗々とした声で読み上げる勧進帳。
口跡よく、一語一語はっきり発せられるので、自分史上最も完璧に聴き取れたと思います。
言葉だけではなく、そこに弁慶の「義経を守らなければならぬ」という決死の思いが伝わってくるようで、このあたりですでに胸がいっぱいに・・・。
そして「山伏問答」です。
仁左衛門さん、幸四郎さんともに口跡のよい役者さんですので、「山伏問答」も一語一句がずんずん胸に入ってきました。
いつもより少しテンポはゆっくりのように感じましたが、だからと言って丁々発止ぶりの迫力が損なわれることはなく、緊迫感、臨場感に満ちて、ただの台詞のやり取りではなく、弁慶と富樫の真実が、命を賭した戦いがそこにあるのがヒシヒシと感じ取れて、涙があふれたのでした。
仁左衛門さんの富樫がまたすばらしく。
凛とした佇まい。
舞台中央まで進み出ない富樫で、何としてでも関を守るという厳格さと、色には出さねど義経主従への情けを併せ持つ富樫。
「いかにそれなる強力」からの緊迫感ってば!
富樫も弁慶も、二人から発せられる空気感、圧力に胸が押しつぶされそうになりました。
幸四郎さんに台詞まわしや足の上げ方まで教えられたということですが、所作の美しい2人の動きが見事にシンクロしてキマッて、絵面の美しさとともに緊迫感漲る場面となりました。
弁慶の「延年の舞」の躍動感、キレッキレぶりにも一段と磨きがかかったようでした。
ディナーショーでおっしゃっていたように、11月の南座では「滝流し」つきが観られるでしょうか。
ラスト 幕外。
義経一行を先に行かせ、富樫へ、そして守ってくださった神仏へ感謝を込めて、静かに一礼する弁慶。
ひとつ息をした後、キッと前を見据える弁慶。気迫と迫力。
飛び六方に入る前の花道七三から万雷の拍手が鳴り止まず、弁慶が揚幕に飛び込んで行くまでずっと続いていました。
私は心臓バクバクで放心状態。
70分がこんなに短く感じた「勧進帳」も初めてで、すぐ「もう1回観たーい!」となったのでした。
もちろん私の感想には贔屓目も入っておりまして(^^ゞ、それでも今回の弁慶は、日頃Twitter等で交流していただいている、高麗屋贔屓以外の歌舞伎に目の肥えた皆さまかがこぞってほめてくださったのもとてもうれしかったです。
「回を重ねるごとに良くなる幸四郎の弁慶」
「次の世代の弁慶はこの人」
「幸四郎としての新境地を開いたともいえる弁慶」
などナド。
2014年 幸四郎さんが41歳で初めて弁慶を演じた時、「『弁慶を演じるために生まれてきた』と思われるように、豪快な弁慶を目指して」とおっしゃっていました。
あの初日に観た弁慶は私にとって特別なもので、私自身も客席のテンションもちょっと普通ではなかったと感じています。
だから、あの日の弁慶と比べることは難しいですが、今年1月からみても格段の変化を遂げた弁慶。
「弁慶」というひとつのお役を生涯かけて演じる尊さ、そして覚悟を感じた舞台でした。
戻りで入手した千穐楽のチケットは5列目花道横の席。
最初に義経、四天王、弁慶が花道に並ぶ時、真横に弁慶が来る位置でした。
立っている時はまだしも、真横で座られた時には、この視線の先、もしかしてワタシ?(違)とドキドキして目のやり場に困りました。
それにしても、まつ毛の長い弁慶様でございました。
私も生涯かけて幸四郎さんの弁慶を観ていきたい のごくらく度 (total 1952 vs 1956 )
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