2018年05月23日

楡の木は残った  ナイロン100℃ 「百年の秘密」


hyakunen.jpgナイロン100℃ 25周年記念公演の第一弾。
2012年に上演されて、ケラさんご自身が「ナイロンの代表作の一つ」に挙げていらっしゃる作品。

「どうしても、もう何が何でも再演したかったんです。2人(犬山イヌコ・峯村リエ)に、『もうできない』と言われる前に(笑)」ですって。


ナイロン100℃ 45th SESSION 「百年の秘密」
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ 
音楽: 朝比奈尚行  鈴木光介   映像: 上田大樹
出演: 犬山イヌコ  峯村リエ  みのすけ  大倉孝二  
松永玲子  村岡希美  長田奈麻  廣川三憲  萩原聖人  
泉澤祐希  伊藤梨沙子  山西惇 ほか

2018年5月4日(木) 12:30pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階C列下手
(上演時間: 3時間25分/休憩 15分)



狼に襲われた少年を助けたといういわれのある大きな楡の木を囲んで建つベイカー家の館。
この家の長女 ティルダ(犬山イヌコ)が12歳の時に出会った転校生のコナ(峯村リエ)との終生続く友情を主軸に、彼女たちの子ども、そしてその孫の代まで、100年にわたるクロニクル。

ベイカー家の女中 メアリーが語る回想の形で、ティルダとコナ、そして彼女たちを取り巻く人々の物語が綴られます。
時系列ではなく、過去と未来を行き来しながら。


12歳のティルダは高校生の兄 エース(大倉孝ニ)の友人 カレル(萩原聖人)から担任のアンナ先生に手紙を渡してほしいと頼まれますが、カレルに恋心を抱いていたティルダはコナとともにその手紙を読んでしまい・・・。

23歳のティルダは子供の頃からの夢であった小説を出版。隣人の弁護士ブラックウッド(山西惇)と結婚し、子どもも生まれて幸せいっぱい。カレルと結婚したコナの妊娠もわかり、2人とも希望に満ちあふれています。

38歳のティルダは息子のフリッツ(泉澤祐希)からコナの娘 ポニー(伊藤梨沙子)と結婚したいと告げられます。ティルダは賛成したものの、ティルダの夫ブラックウッドとコナは断固反対。2人にはどうしても結婚に賛成できない理由が・・・。

78歳のティルダは40年ぶりにコナと再会。紆余曲折を経て笑い合う2人。そこへ幼なじみのチャド(みのすけ)が放った銃弾でティルダは死亡。チャドは「保険金のためにティルダに頼まれた」と告白します。それを聞いたコナは、「私も殺して。早く、早く!ティルダが呼んでる」とチャドに懇願します。いたたまれず発砲するチャド。

さらに40年後。
それぞれ別の家庭を持ったフリッツとポニーは互いの孫とともにベイカー邸で暮らしています。どうにも立ちいかなくなったフリッツは家を売ることを決意しますが・・・。

とまぁ、ざっとこんなお話ですが、もちろん書ききれない枝葉もたくさんありますが。


「楡の木は残った」って、昔の大河ドラマ 「樅の木は残った」(山本周五郎原作)からもじったのですが、100年のクロニクルは本当に壮大なスケールの大河ドラマのよう。単に女性2人の友情物語に終始しない人間ドラマがそこにはあります。
世界を揺るがすような大事件が起こる訳でも特別な人物が出てくるでもなく、幼いやきもちとか親との軋轢とか家業が傾くといった、どこにでも、誰の人生にもあることでドラマが進行していく中に、いくつかの「秘密」が散りばめられています。その秘密が人々の心に影を落とし、それが様々な形で互いの人生にも影響し合うことになります。

時間軸がバラバラに構成されていることで、私たち観客は時にはこの「秘密」をもう知っていたり、この後彼らに起こることを知った上で、舞台上の「今」を切ない気持で見守ることになったりもします。行きつ戻りつする物語の中で、本人たちは知らない(観客は知っている)顛末を重ねて真実が見え、人の生きざまが浮き彫りになるという、何とも演劇的な快感。
78歳のティルダとコナが迎える最期は悲劇的なものですが、どこか幸福感も残していて胸がいっぱいになりました。そして、最後の最後に、またはじまりに戻るという・・・ヤラレました。

100年という長い歳月の中のある1日やある瞬間を切り取って見せながら、それだけがティルダとコナの、そして周りの人々の人生だった訳ではなく、語られない物語もたくさんたくさんあったはずと感じさせてくれる余韻も素敵で、普遍性すら感じます。


ケラさんのストーリーテリングの鮮やかさ。
物語のそれぞれのブロックが登場する順番まで計算しつくされた構成と演出。
伏線の配置と回収も絶妙。
3時間超の舞台ですが、少しも長さを感じさせません。

オープニングのスタイリッシュなキャスト紹介や舞台効果抜群のプロジェクションマッピングは相変わらず冴えわたっています。
中央に大きくそびえる楡の木を中心にして、ベイカー邸の中庭と屋敷の中を転換することなく描いたり、時には同時進行させるという画期的な舞台美術。


犬山イヌコさんと峯村リエさんはさすがに「この2人でないと」とケラさんがおっしゃるだけあって、本当にすばらしい。
4歳から78歳までを演じる振り幅の広さもさることながら、このティルダにはこのコナでないと、と思わせるところが凄い。
「アンナ先生にカレルの手紙を渡さなかった」という秘密を共有していた2人。
コナがただ一つ、ティルダに隠していた秘密を打ち明けた時、自分が犯した誤ちではなく、「秘密にしていたこと」を「ごめんなさい」と謝った言葉が2人の関係を象徴しているように感じました。

父親の期待を一身に受けていることがいたたまれず屈折している兄 エースの大倉孝二さん、善し悪しは別として、アンナ先生への純愛を生涯貫いたカレルの萩原聖人さん、あの小生意気な少女がそのまま感じ悪い大人になったリーザロッテの村岡希美さん、こちらもある意味純愛を貫いたチャドのみのすけさん、ティルダの母と老年のポニーで2人に負けない幅広い演技を見せた松永玲子さん、語り部として、年月を行き来するたびに声はもちろん、立ち姿までもくるくる変化したメアリーの長田奈麻さん・・・等々、周りを固める役者さんも盤石。


100年の時を、その下で繰り広げられる人々の営みを、ずっと見守っていた楡の木。
初演は38th SESSIONとナイロンの歴史の中では比較的新しい作品ですが、ケラさんがこの作品を25周年イヤーの第1弾に持って来た訳がわかる気がする舞台でした。



兵庫公演千穐楽(2日間だけど)だったのでカーテンコールにはケラさんも登場 のごくらく度 (total 1914 vs 1919 )



posted by スキップ at 23:48| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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