2018年03月21日

憎しみがなくなる日 「プルートゥ PLUTO」


image1 (3).jpg「憎しみがなくなる日は来ますか」
すべてが終わった後、遺されたプルートゥの腕を見上げながらお茶の水博士に問うアトム。
「モンブランもノース2号もヘラクレスもブランドもエプシロンも・・・ゲジヒトも、プルートゥも。みんな祈ってます。そんな日が来ることを」


シアターコクーン・オンレパートリー2018
手塚治虫生誕90周年記念
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
「プルートゥ  PLUTO」
原作: 浦沢直樹 × 手塚治虫
演出・振付: シディ・ラルビ・シェルカウイ
プロデュース: 長崎尚志   監修: 手塚眞
上演台本: 谷賢一  映像・装置: 上田大樹   照明: ウィリー・セッサ
出演: 森山未來  土屋太鳳  大東駿介  吉見一豊  吹越満  柄本明
上月一臣  大植真太郎  池島優  大宮大奨  渋谷亘宏  
AYUMI  湯浅永麻  森井淳  笹本龍史

2018年3月13日(火)2:00pm 森ノ宮ピロティホール B列(1列目)センター
(上演時間: 3時間/休憩 20分)


人間とロボットが共存する時代。
世界最高水準のロボットが破壊される事件が次々と起こり、刑事ロボット・ゲジヒト(大東駿介)は、自分を含めた7体が標的になっていることを知ります。7体は5年前、泥沼化した第39次中央アジア戦争を収束させるため招集されたメンバーでした。ゲジヒトは日本へ向かい、7体の一人であり人間に限りなく近い存在であるロボット・アトム(森山未來)と共に事件の謎を追い、内戦で家族を失った世界最高峰の頭脳を持つ科学者アブラー(吹越満)と接触します。
一方、悲しみを察知する能力を持つアトムの妹・ウラン(土屋太鳳)は、廃墟の壁に花畑の絵を描く不思議な男と出会います・・。


2015年に上演された作品で、アトムの森山未來くん、 お茶の水博士の吉見一豊さん、天馬博士の柄本明さん以外のキャストを一新しての再演です(2015年版の感想はこちら)。
映像、舞台美術、芝居、ダンサーや役者さん自身の肉体を含めて様々な表現方法の融合が舞台をつくり上げる演出は3年経っても色あせることなく刺激的。
初見の時と違って今回は、演出に目を奪われたり、登場人物のキャラクターや人間関係に腐心しないですむ分、より深く物語に入り込んで観ることができました。


ストーリーで今回特に強く印象に残ったのは「憎しみ」の存在。

内戦で家族と自身の肉体の大部分を失い、憎しみだけを心に宿すアブラー(実はアブラーの憎悪を詰め込んだチップを埋め込まれたロボット)。
世界最高水準の7体のロボットを倒すためにアブラーによってつくられた憎しみのロボット プルートゥとその頭脳として入れ込まれたアブラーの息子サハド。
高度な人工知能を搭載し、人間の憎悪を学習して史上初めて人間を殺したロボットであり、今は人間によって牢獄で鎖に繋がれているブラウ1589。
息子を誘拐され殺されて心に憎悪が芽生え、その誘拐犯を殺してしまった記憶を削除されながら、毎晩悪夢にうなされるゲジヒト。

そして
そのゲジヒトの記憶チップをインストールして憎悪の感情を持って修復されたアトム。

みんな憎しみ、復讐心といった負の感情と、そこに重なる悲しみに満ちています。
そうした憎しみの連鎖が続く中、最後のアトムとプルートゥの戦いで、「憎しみは何も生み出さない」というゲジヒトの言葉が脳裏に甦り、攻撃の手を止めるアトム。
花を愛するサハドの心を取り戻すプルートゥ。
Dr. ルーズベルトがつくった反陽子爆弾ボラーを止めようと地下へ向かう2人。
「ウランによろしくと伝えて」と言い遺し、自分の腕ごとアトムを地上に放り出して、噴出するマグマを自らの体で氷柱に変え、世界を救ったプルートゥ=サハド。

ここからの冒頭に書いた場面。
静かに語るアトムの言葉に胸がいっぱいになって涙があふれました。
アトムが言った「憎しみがなくなる日」は、世界から争いがなくなる日であり、それによって生み出される悲しみがなくなる日でもあることを願わずにはいられません。


ダンサーでもあるシディ・ラルビ・シェルカウイさんの演出は冴え渡っています。
アトムやゲジヒト、ヘレナたちロボットの周りはいつも数人の黒衣ならぬ白い服を着た人たちが影のようにまとわりついて、動きもシンクロ。ロボットを操っているようにも見えます。
皆さんダンサーなので動きや身体のラインがとても綺麗。そして舞台セットの形の違う白いブロックを動かしたり積み重ねたり、滑るような動きで場面を変えていくのも彼らの役目。

このダンサーたちとの親和性がひと際高いのがやはりダンサーでもある森山未來くん。
身体能力の高さはこれまで数々の舞台で立証済みですが、まるで未來くんの肉体そのものが一つの表現体のよう。
あのアトムの空飛ぶ感しかり、アトムの心の昂りを表現する激しいダンスしかり。
演技もとても繊細に構築されていて、ナイーブな少年の心とアンバランスな能力を持つ体で、まるで両性具有のような、孤独なアトム。
あ~、やっぱり森山未來くんの演技好きだぁ、と再認識。
それと同時に、この役やれる人、他にいないよね、とも思ったのでした。

アトムの妹 ウランとゲジヒトの妻 ヘレナの二役は土屋太鳳さん。
「体育大学出身でダンスが得意な元気な女の子」というイメージからウランはぴったりと思っていましたが、静かにゲジヒトを愛し見守るヘレナもよくて、くっきり演じ分け。
ゲジヒトが亡くなって芽生えた「悲しみ」という感情に混乱して、天馬博士に「泣くまねをするといい」と言われ、「あー」「うー」と感情なく出していた声がやがて本物の慟哭に変わっていくシーンは初演の永作さんの演技が印象的でしたが、太鳳ちゃんもとてもよかったです。

ゲジヒトは大東駿介くんでは少し若すぎるのでは?と思っていましたが、杞憂でした。
静かな佇まいの中にも感じられる強い意志。自らの真実に苦悩しながらも正しく前へ進もうとするゲジヒトが切なくも力強い。
大東駿介くんを舞台で初めて観たのは「港町純情オセロ」(2011年)のゲイの役で、以来、好きで気になる役者さんの一人ですが、「いや~、駿介くん、大人になったよね」と思いました(どんな上から目線)。

吹越満さんのアブラーは何とも不気味な存在感を放ちつつ、憎悪を心に詰め込んだ悪にとどまらず、そうなってしまった、ならざるを得なかったアブラーの悲痛が伝わってくるようでした。いく分感情を持たないように感じられるところも、実はロボットだったというのに説得力を持たせていました。

天馬博士を演じる柄本明さんがブラウ1589の声もやっていることに前回気づいて「ほほぅ~」となったのですが、お茶の水博士と感心したものですが、今回、Dr. ルーズベルトの声をはお茶の水博士の吉見一豊さんだと知って驚きました。
このキャスティングにもシェルカウイさんのこだわりが透けて見えるようです。



そうそう、初演観た後、原作読みたーいと思ったのに忙しくてそのままになっていたことを今さら思い出しました のごくらく地獄度 (total 1889 vs 1893 )  


posted by スキップ at 22:25| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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