
あの頃、一番好きだったデパートは阪急百貨店。
京都に行くのも神戸へ行くのも、阪急電車。
もちろん宝塚に通うのも。
ファミリーランドも動物園も大好き。
ブレーブスファンではなかったけれど、西宮球場にはよく行ったなぁ。
小林一三さんが遺してくれたたくさんのものたち、とても身近に過ごしてきました。
兵庫県立ピッコロ劇団第60回公演
ピッコロシアタープロデュース
「マルーンの長いみち ~小林一三物語~」
作: 古川貴義
演出: マキノノゾミ
出演: 瀬川亮 若杉宏二 平みち/平井久美子 今井佐知子 岡田力 木全晶子 菅原ゆうき 孫高宏 橘義 野秋裕香 浜崎大介 三坂賢二郎 森万紀 森好文 吉村祐樹 ほか
2018年2月24日(土) 11:00am 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
1階A列センター (上演時間: 2時間30分/休憩 15分)
物語は明治半ば。三井銀行大阪支店に勤めていた頃の若き日の一三さんの家を新旧2人の支店長が訪ねる場面から始まります。
無断欠勤した理由が馴染みの芸妓さんと有馬温泉に行っていたことが発覚し、結婚したばかりの奥様は実家に帰ってしまったのでした。その芸妓さん コウさんと結婚し、周囲の反対や数々の困難を乗り越えて34歳で阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道を設立、第1号電車を走らせます。その後も沿線の宅地開発や宝塚歌劇団の前身・宝塚唱歌隊の結成など独創的なアイデアで次々と事業を拡大していくのでした・・・。
小林一三さんの知っている逸話も初めて知るエピソードも含めてとてもおもしろく、笑いを散りばめながらも人間臭い、熱い思いが伝わってくる舞台でした。
一三さんの恩師でもある北浜銀行頭取の岩下清周、親友で電力の鬼と言われた松永安左エ門、はたまた与謝野晶子など、教科書の中で知っていた人物が登場するのもリアリティがあって、一三さんの業績以外にも生駒トンネル工事の折の落盤事故といった史実もまじえられ、脚色が加えられているとはいえ「真実」が訴える力の凄味を感じました。
一幕終わりで艱難辛苦の末に初めてあのマルーン色の電車(たからづか行でした)が出てきた時には不覚にも落涙。
ラストは、長年仕えてくれた所女中のかよさんを見送る車中で、「梅田から難波に行ってお土産を買おう、食事もしよう」と話しながら「そうだ!梅田で電車を降りたらすぐ行ける百貨店があればいいじゃないか!」「上の階には食堂をつくろう」「屋上には観覧車を」「それから、それから・・・」とアイデアが迸り出る一三さん。夢と希望が輝くような幕切れでした。
それにつけても、池田や箕面に電車を開通するにあたり、沿線の土地に宅地を造成して売る、しかもローンで、という発想、今では当たり前かもしれませんが、それを最初に考え出すのって、本当に頭の中どうなっていたんだろうと思います。池田や豊中、宝塚、箕面の今を知っている私たちだから。やはり稀代の経営者としか言いようがありません。


物語は小西酒造(白雪) 十二代目蔵元 小西新右衛門業精さん(吉村祐樹さん とてもよかった)が語り部となって進みます。
ロビーでは、一三さんが箕面有馬電気軌道の創立にあたり沿線の用地買収が難航した際に小西さんが土地所有者に売ってくれるよう頼んで回ったこと(お芝居の中にもその話は出てくる)、この恩義をもって一三さんは阪急百貨店や宝塚ホテルで扱う清酒を「白雪」一本と決めて、阪急電車各駅のベンチの背もたれにも「白雪」の広告を入れた、というエピソードが紹介されていました。

そういえば宝塚歌劇団の元旦の鏡開きもいつも「白雪」だなぁと思い出しました。
こちらは2015年 柚希礼音さん、夢咲ねねさんの時のもの。すでになつかしい。
お名前を存じ上げているのは演出のマキノノゾミさんと特別出演の平みちさんだけでしたが、役者さんは皆さんよかったです。
特に印象的だったのは一三さんの妻 コウさん(平井久美子)と女中のかよさん(今井佐知子)の女性2人。

ギャラリーにあった一三さん・コウさんご夫妻のポスター
夫を明るく支え続けたコウさん。
一三さんがどんなに苦しい時でも「私と結婚する人は必ず出世すると見知らぬお坊さんに言われたから」とにこにこ笑って鷹揚に構えているコウさんに一三さんはどれほど救われたことでしょう。
(「いつか女王になる」と言った占い師の言葉を信じているジョセフィーヌを思い出しちゃった。)
明るい笑顔の影で、心ならずも一三さんの前妻を追い出す形になったという負い目をずっと心に秘めていたコウさんの涙が切ない。
名古屋弁で言いたいことをズバズバ言うかよさんは物事の本質を見極めることができる人で、一三さんに「この人と結婚しなさい」とコウさんを妻にするよう促した人です。
肝の据わった女中さんですが、それを受け容れる度量が一三さんにも小林家にもあったということだと思います。
平みちさんは与謝野晶子役の前に、男役時代を彷彿とさせる黒燕尾にシルクハット、ケーンを手に「モン・パリ」を歌って登場(口パクだったけど)。
カーテンコールでも与謝野晶子さんのまま「すみれの花咲くころ」を歌い(今度は本当に歌ってた)、出演者全員の合唱となりました。

開演前や幕間にはこんなふうに緞帳が下りていました。
この頃、最初から幕は開いたままという舞台が多いので何だか新鮮・・・というか兵芸でこの緞帳見たの初めてな気がします。
開演のベルは阪急電車発着時のものだったり、宝塚駅到着時に流れる聞き慣れた「すみれの花咲くころ」のチャイムだったりと細かいところにも凝った作品。
これ観たらみんな阪急電鉄が好きになるよね~。
一三さんは元より、登場人物一人ひとりに愛着が湧くような温かい物語。
普段私が観る舞台とは違った客層で、劇場に足を運ぶのも初めて、という方もたくさんいらした印象でしたが、幕間にも終演後も「おもしろいね~」「おもしろかったねぇ」という声がたくさん聞えてきました。
雅俗山荘こと「小林一三記念館」にもまた行きたくなりました のごくらく度


