2018年03月01日

誰のためでもない 私のため 「アンチゴーヌ」


antigone.jpgフランスの劇作家ジャン・アヌイの代表的悲劇作品ということですが未読。
タイトルロールのアンチゴーヌは古代ギリシャ・テーバイの王オイディプス王の娘・・・と知って、「!!」
そうか、あの時(一番直近に観た「オイディプス王」が宝塚歌劇だったので)目が見えなくなった轟さんの手を引いていた2人の娘のうちの1人がアンチゴーヌで、みつるくん(華形ひかる)がやってたのが生瀬さんの役ね!となりました。
(ジェンヌさんの名前で言うのやめなさい。)


パルコプロデュース2018  「アンチゴーヌ」
作: ジャン・アヌイ
翻訳: 岩切正一郎
演出: 栗山民也
出演: 蒼井優  生瀬勝久  梅沢昌代  伊勢佳世  佐藤誓  
渋谷謙人  富岡晃一郎  高橋紀恵  塚瀬香名子

2018年2月10日(土) 1:00pm ロームシアター京都 
サウスホール舞台上特設ステージ Dブロック1列
(上演時間: 2時間10分)



物語: オイディプス王亡き後、2人の息子が王位争いの末、刺し違えてこの世を去りますが、兄のエテオークルが手厚く弔われる一方、弟のポリニスは反逆者としてその遺体は野ざらしのまま放置され、埋葬することを禁じられていました。オイディプス王の弟である現王クレオン(生瀬勝久)はこれに背く者があれば死刑にするよう命じていました。ところが、オイディプスの末娘アンチゴーヌ(蒼井優)は夜中に城を抜け出し、兄 ポリニスの遺体に弔いの土をかけます。捕えられ、クレオンの前に引き出されるアンチゴーヌ。彼女はクレオンにとって姪であり、息子エモン(渋谷謙人)の婚約者でもありました・・・。


十字状の通路のような舞台を客席が取り囲むよう配置された特設舞台。
左右に延びた長辺の両端に椅子が一脚ずつあるだけの空間。
私の席から向かって左側の椅子が右側の椅子に比べて豪華で玉座を表わしているのかな?と思っていたら、果たして、登場したクレオンがそこに座ったのでした。

冒頭、序詞(高橋紀恵)が登場して、登場人物やそれぞれの立場を説明し、この物語が悲劇であることを観客周知の中で舞台は始まります。

咳をするのも憚られるような緊密な空間で展開される激しく濃密な台詞劇。


アンチゴーヌの独白、乳母(梅沢昌代)や姉イスメーヌ(伊勢佳代)、エモンなどとのシーンはぞれぞれありますが、この物語の大半を占め、そして肝となっているがアンチゴーヌとクレオンの議論・・・というか対決。

兄を弔うという信念をひたすら貫こうとするアンチゴーヌ。
為政者として法と秩序を重んじるクレオン。

2人の対話は
情と理
理想と現実
子個人と国家
どもと大人
倫理と法律
あるいは、神と人
・・・永遠に交わることなく「相対する」もののように感じます。

ただ、クレオンには心の底に「何とかアンチゴーヌを助けたい」という思いがあって、議論の中でアンチゴーヌを説得しようとしたり、譲歩する姿勢も見せます。
弔おうとする兄 ポリニスの真実を聞かされ、一瞬ひるんだように見えたアンチゴーヌは、それでも自分の信念を曲げることをよしとしません。
このあたりのアンチゴーヌの頑なさが、人間の尊厳を重んじる信念からというより、個人的な感情の発露のようにも見えて、心から共感することができにくかったというのが正直なところ。
それは、「いやなものは絶対いや」では世の中通れない道ばかりということをこれまで散々知らしめられてきた「大人」の側に私がいるからかもしれません。

「誰のためでもない。私のため」と兄を弔うことをやめないアンチゴーヌと、
「損な役回りだが、私の役だ」とアンチゴーヌを断罪することを決めるクレオンなら、
よりクレオンに共感してしまうのです。


蒼井優さんのアンチゴーヌはすばらしい・・というか凄まじかったです。
自分の信念を貫き通し、一歩たりとも後ろに引かない凛とした強さと、時に死を恐れ、迷いも見せる多感。
表情豊かな台詞でアンチゴーヌの感情の起伏や強い心、少女のような透明感まで、変幻自在。
あの可憐で細い体のどこに?と思うくらいパワフルでエネルギッシュな舞台を見せてくれました。

生瀬勝久さん演じるクレオンは冷徹な権力者というより、国王という地位に就いたことをどこかやっかいなお荷物を背負い込んだと思っている、という風情。
実や懐の深い温情の持ち主でもあるのですが、それでも、執政者として感情を切り離して決断を下さなければならない苦悩と厭世感がよく伝わってきました。
笑わない生瀬さん、とてもカッコよかった!そして、やっぱりいい声だぁ~。

ラスト。
息子エモンがアンチゴーヌとともに死に、それを知った王妃も自害して玉座に一人座すクレオン。
小姓に「大人になりたいか?」と尋ね、彼が「早く大人になりたい」と応えると、
「ばかだなぁ。大人になんかなっちゃいけないんだ」という自嘲気味の泣き笑いのような表情が忘れられません。



antiseat.jpg

チケットを取る時、席は選び放題だったのですが、直感でDブロックのステージ前を選択。
冒頭 アンチゴーヌがスコップで土をかけるシーンが後ろ姿しか見えなくて「あちゃ~」と思ったのですが、ラストは穴に飛び込む寸前の表情まで間近で観られて、この席で正解!でした。



2時間10分休憩なし 集中力と緊張感も途切れることなし のごくらく度 (total 1881 vs 1888 )

 
 
posted by スキップ at 23:23| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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