
ロシア革命を背景にした重厚な人間ドラマです。
宝塚歌劇星組公演
ミュージカル 「ドクトル・ジバゴ」
~ボリス・パステルナーク作「ドクトル・ジバゴ」より~
脚本・演出: 原田諒
出演: 轟悠 有沙瞳 白砂なつ 天寿光希
輝咲玲央 麻央侑希 紫りら 瀬央ゆりあ
天華えま 小桜ほのか ほか
2018年2月11日(日) 12:00pm
シアター・ドラマシティ 5列上手
(上演時間: 2時間35分/休憩25分)
1910年 ロシア 「血の日曜日事件」から物語は始まります。
デモで負傷した活動家のパーシャ(瀬央ゆりあ)は恋人ラーラ(有沙瞳)に匿われます。
ラーラは母のパトロンである弁護士 コマロフスキーにレイプされ、復讐のために彼の出席するパーティに向かいます。そこは貴族のグロメコ(輝咲玲央)の娘トーニャ(小桜ほのか)と甥ユーリ(轟悠)との婚約披露パーティでした。
やがて第一次世界大戦が勃発し軍医として出征したユーリは夫のパーシャの行方を捜すために従軍看護婦として従事していたラーラと野戦病院で運命的な再会を果たします・・・。
ロシアの作家ボリス・パステルナークが1957年に発表した小説で、1965年にはオマー・シャリフ主演で映画化もされていますが、どちらも未見。
宝塚の作品としてはいささか地味で華やかさにも欠けますが、物語そのものがおもしろくて、この先どうなるんだろうと引き込まれました。名作の力ってすごいなぁ。
演出が写実的で、グロメコの屋敷が革命政府に没収されて共同住宅となり、見知らぬ人たちがたくさん一緒に住むようになるなど、「社会主義ってこういうことか」と実感しました。
ウクライナ戦線の戦闘場面の群舞が振付もよく、少ない人数ながら戦闘の雰囲気がよく出ていて、「そうよそうよ、戦闘をダンスで表わすってこうでなくちゃ!」と思いました。他のミュージカルも見習ってほしい。
ガリューリン少尉の麻央侑希さん、長身に軍服が映えてカッコよかったです。
ラーラがコマロフスキーにレイプされるシーンや、ユーリとラーラがはじめて一夜をともにする場面の表現がかなりダイレクトで「すみれコード大丈夫なのか?」と思ったりも。
ロシア革命という大きな時代のうねりの中、離れ離れになってはまためぐり合うユーリとラーラの物語はまるで大河ドラマを観ているよう。
ユーリにとってラーラはまぎれもなく「運命の女」。
でも互いに結婚相手がいる以上「不倫」であることには変わりなく、しかも行方がわからないラーラの夫パーシャはともかく、ユーリの妻 トーニャは非の打ちどころがないくらい良い妻。
やさしくて理知的で人間的もリベラルで人から尊敬される医者であるユーリが、あんなに天使のような奥様がいても愛するという欲望には勝てないというあたり、人間の業の深さ、おそろしさを感じます。
パルチザンに拉致されて帰らぬユーリを待つ間に危機が迫り、フランスに亡命することになったトーニャがユーリに宛てた手紙が切ない。
ひと言もユーリを責める言葉はなく、子どもの出産はラーラに手伝ってもらってユーリと名づけた、ラーラはとても綺麗な人ね、とこの手紙をラーラに託すトーニャはすべて知っていて身を引いたのね。いい人すぎる。
トーニャを演じた小桜ほのかさん。
そのお顔立ちからコケティッシュで少しクセのある女性の役のイメージが強かったのですが、育ちがよくて慈愛に満ち、ユーリを心から愛し信じているトーニャ像がとてもよかったです。
夫の夢にもいつも理解と共感を示し、モスクワから遠く離れたワルイキノに移り住むという時にも真っ先に協力するトーニャ。こんないい妻がありながら、ほんとユーリってば・・・。
激動の人生を歩むユーリは轟悠さん。
有沙瞳(98期)、小桜ほのか(99期)といった27期以上下の娘役を相手にしてもさほど違和感ない若々しさは驚異的です。
それに加えて完成された男役としての所作やふとした時に見せる色っぽさもステキ。
ただ、どんな時にも医師としての信念を持ち、人間の尊厳を大切にするユーリの、ラーラとトーニャに対してとった行動には最後まで共感できませんでした。
ユーリにとってのファムファタールであるラーラは有沙瞳さん。
運命に翻弄されながら芯が強く、ずっとパーシャを待ち続けているのにそれでも孤独に耐えきれずやさしく差し出された手にすがってしまうラーラが嫌味に感じられないところがすばらしい。
歌も演技も定評のある有沙さん。今回はメイクも変えたのかな?よりやさしい表情に見えました。
パーシャは瀬央ゆりあさん。
冒頭のデモのシーンにスックと登場するところからパワフルでカッコいい。
ラーラの愛を信じられず、後半は赤軍派の将軍で粛清の鬼・ストレリニコフへと変貌しますが、このあたりの心情の変化が脚本的に描かれていないのは残念でしたが、ストレリニコフのクールっぷりは際立っていました。
歌はうまいしダンスはキレてるし、パーシャの繊細さもストレリニコフの冷酷さもピタリとハマって轟さんを向うにまわして堂々の二番手。せおっち すごい。これからどうなっていくの?
コマロフスキーの天寿光希さんはイヤな奴を実に嫌味に演じていて本当に上手い。
ユーリにとってもラーラにとっても天敵であるコマロフスキーが最後に改心してラーラ救出に手を貸すのは彼女への愛ゆえでしょうか。そのあたりもあまり描かれていませんでしたが。
激動の時代背景とともに登場人物も多彩で重厚なドラマ。
真摯に生き、自分が信じた道を進んでいても欲望に負けて誰かを傷つけてしまうこともある・・・人間って、愛すべき愚かな生き物だと改めて感じさせられました。
宝塚っぽくはなかったけれどとても見応えあっておもしろかったです。
難点は誰にも感情移入できないこと のごくらく地獄度



