2018年02月16日

加納幸和版 「黒蜥蜴」


hanagumikurotokage.jpg「黒蜥蜴」といえばやはり昨年末に観たこちらも書いておかないと。
中谷美紀さん主演の「黒蜥蜴」がデヴィッド・ルヴォーさんの美意識に満ちた作品だとすれば、こちらは加納幸和さんのこだわりと芝居を愛する心、そして博識ぶりが随所に感じられる舞台。
戯曲も三島由紀夫ではなくご自身の脚本。
さながら加納幸和版「黒蜥蜴」です。


花組芝居 劇団創立三十周年記念公演 第五弾
浪漫歌舞伎劇 「黒蜥蜴」
原作: 江戸川乱歩
脚本・演出: 加納幸和
作曲: 鶴澤津賀寿  杵屋邦寿
キャスト           【黒天使組】        【黒夫人組】
黒蜥蜴:           谷山知宏          加納幸和
明智小五郎:        桂憲一           小林大介
雨宮潤一:          丸川敬之          押田健史
岩瀬庄兵衛:        原川浩明          山下禎啓
岩瀬早苗&桜川葉子:  二瓶拓也          堀越涼
女中マリ子(秦万里):   秋葉陽司          松原綾央
岩瀬富子夫人:       植本純米          横道毅
小林芳雄:          大井靖彦          美斉津恵友
浪越速太警部:       北沢洋           北沢洋
奥村文代:          磯村智彦         嶋倉雷象   ほか

【黒天使組】 2017年12月16日(土) 1:00pm 近鉄アート館 A2列下手/
【黒夫人組】 2017年12月17日(日) 1:00pm 近鉄アート館 B0列上手
(上演時間: 2時間40分/休憩 15分)


物語はデヴォー版「黒蜥蜴」ご参照(こちら)。


花組芝居 劇団創立30周年記念イヤーの掉尾を飾る公演。
浪漫歌舞伎劇と銘打たれている通り、出演者が全員男性というばかりでなく、三味線の下座音楽、義太夫の語りが要所要所にはさまれて、役者さんも時には歌舞伎の型や見得をしたりもします。
歌舞伎に造詣が深い加納幸和さんの脚本と演出が冴え渡っています。

「黒天使組」「黒夫人組」というダブルキャストですが、キャストの違い以上に2つはテイストの異なった「黒蜥蜴」になっていて、そのあたりも加納さんの狙いだったのでしょう。
加納さんが緑川夫人を演じた「黒夫人組」の方がより義太夫狂言色が濃く、「黒天使組」は現代劇の中にうまく義太夫を採り入れたという感じでしょうか。

衣装も違っていて、「黒天使組」が洋、「黒夫人組」が和装。和服の緑川夫人というのがとても新鮮でした。
それぞれの役者さんの特性を活かした演出をつけて、同じ作品で2つの違った舞台をつくり上げる・・・ほんとに何て人なんだ加納幸和。
そういえば宝石商の岩瀬さんにかけて義太夫と役者さんのかけ合いで「宝石づくし」みたいなことやっていましたが、あれ、歌舞伎「渡海屋」の魚づくしのパロディかしら。
「少しお知恵がタンザナイト」とか、思わず吹き出してしまいました。


笑いをたくさん散りばめながら、でもストーリーはきちんと押さえてあって、デヴォー版の感想にも書きましたが、あちらで省略されていた早苗さんの身代り(桜川葉子)をスカウトする場面もきっちり。
30周年BOYが裸で柱に貼りついて、恐怖美術館のリアル剥製だったし。
あまりお金がかかっているとは思えない(笑)舞台装置も、扉を入れ替えるだけで帝国ホテルの回転ドアや通天閣のエレベーター、岩瀬邸や船室の扉にも。
他の装置がシンプルなのに対して、物語上でも重要なポイントとなる寝椅子はとてもゴージャスにつくり込まれていたのも印象的でした。


オープニングは三味線のクリスマスソングメドレー。
音楽に合わせてダンサー(これも劇団員の皆さん)が踊って、大きなクリスマスツリー(人間です)が出てきたりして華やかな大夜会のワクワクするような楽しさの中に緑川夫人が登場して、というお見事な物語への導入です。

ダブルキャストの谷山知宏さんは若くて華やかで明るさのある黒蜥蜴。
加納幸和さんは耽美で濃厚、女賊という言葉がぴったりのいかにもひとくせありそうな黒蜥蜴。
どちらも素敵でした。

これに対する明智小五郎が花組芝居の誇るに二枚目2人・・・これがまたそれぞれの黒蜥蜴によくお似合いで、何てうまいキャスティングと演出なんだと感心することしきり。
若くて陽性の黒蜥蜴に、とぼけたおじさん味、だけど少し翳もあって色っぽくてセクシーな桂憲一さん明智。
熟練の黒蜥蜴には硬派で逞しいのに不思議な色気を醸し出す小林大介さん明智。
大介さんといえば、明智が松吉の変装を解いていく場面の松吉の声から明智への声の変化、聞いていてゾクゾクしました。

早苗/葉子は花組芝居の誇るべっぴんさん枠。
二瓶拓也さんも堀越涼さんもそのまま女優としてお芝居に出られるでしょうレベル。
もう一人、女形で忘れちゃならない植本純米さんの岩瀬富子夫人。もう独壇場でしょう。
植本さんの黒蜥蜴も観てみたかったです。

「黒夫人組」の日には植本純米さんと大井靖彦さんが物販に出ていらして、ついプログラム買って(後で上演台本入りと気づいて超お買い得だった)サインいただきました。
植本さんにサインいただく時「今日は出演されないのですよね?」とお聞きしたら「しょっぱなから踊ってます。探してください」とおっしゃってましたが、探さなくてもわーかーるーからー。ダンスもキレッキレ ノリノリだったから

image1 (2).jpg

2人とも舞台上とは別人だわね。


その大井さんの小林少年は奇跡的な可愛さとクールな才気。
美斉津恵友さんの明るく弾けるような小林少年。
「黒蜥蜴」原作には登場しない小林少年をうまく戯曲に入りこませて、こんなナイスなキャスティングができちゃうなんて。

加納さん脚本では雨宮潤一は、一方的な片思いではなくて、緑川夫人からも雨宮への思いのようなものが感じられる関係に見えました。
そんな中、丸川敬之さんの方がより激しく感情的な雨宮、押田健史さんにはどこかエロティックな匂いが。


image1.jpgいや~、書き始めたらキリがなくなってきました。
2日間3公演という大阪公演でしたが、花組芝居はこのところほとんど関西公演がないので、両バージョン観られて本当によかった。

1日目のカーテンコールで加納さんが「近鉄アート館で公演するのは19年ぶり」とおっしゃっていました。
またこの場所で花組芝居が観られるなんてね。




この公演教えてくれたの八代進一さんなのに八代さん出ていなかった。
八代さんの緑川夫人も明智小五郎も観たかったよ のごくらく地獄度 (total 1876 vs 1881 )



posted by スキップ at 23:02| Comment(2) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
さすが両方ご覧になったんですね‼ 私もチケットあったのに、黒夫人組しか見られなかった、あの悔しさがよみがえってきましたよぉ。
ほんと義太夫も楽しかった。スピーディーだけど物語はきっちり、という花組芝居ならではの安心感?信頼?もありますよね。
ところで、私は昨日、カトケン事務所のドレッサーを見てきました。加納さん、カーテンコールの挨拶で「年末まで他のをやってたので」と。妖艶な黒蜥蜴が頭に浮かんじゃった。今回のお役では一転、かいがいしく働いてらっしゃいましたよー。
Posted by きびだんご at 2018年02月24日 15:49
♪きびだんごさま

はい!
もう最初から迷いなく両方観よう、と(^^ゞ

どちらか一方だけなら多分「黒夫人組」が正解かなという気がしますが、
両方観るとテイストの違いを味わうという醍醐味もありますね~。
個人的には桂憲一さんの明智の造形がとても好みでしたので、
加納 vs 桂の組み合わせも観てみたかったと思いました。

そうそう、「ドレッサー」 加納さんはノーマン役でしたね。
観たかったなぁ。
加藤さん事務所は地方公演も結構やってくださる(次の「煙が目に
しみる」は兵芸公演あったり)のにこの作品はないのですよねぇ。
こんな時、地方のツラさが身にしみますワ。
Posted by スキップ at 2018年02月24日 23:52
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