2018年02月15日

本物の宝石 「黒蜥蜴」


kurotokage.jpg昔、美輪明宏さんに凝っていた時期があって舞台やコンサート、ディナーショーなどにも行っていたのですが、その頃観た舞台の一つが「黒蜥蜴」。
ですが心身ともに幼すぎて、江戸川乱歩や三島由紀夫の耽美な世界観を理解するにはほど遠く・・・。
昨年末、花組芝居の「黒蜥蜴」を観て、ストーリーすらきれいさっぱり忘れ去っていることに愕然としましたが、二幕になって「あ!血を抜いて生きたまま剥製にするやつ!!」と記憶が甦りました。
そこだけ覚えてるって、どんな記憶回路ぢゃ。


「黒蜥蜴」
原作: 江戸川乱歩
脚本: 三島由紀夫
演出: デヴィッド・ルヴォー
出演: 中谷美紀  井上芳雄  相楽樹  朝海ひかる  たかお鷹  成河 ほか

2018年2月3日(土) 12:00pm 梅田芸術劇場メインホール 1階9列上手
(上演時間: 3時間20分/休憩 25分)


物語: 宝石商 岩瀬庄兵衛(たかお鷹)は、愛娘・早苗(相楽樹)の誘拐と秘宝「エジプトの星」強奪を予告する女盗賊・黒蜥蜴からの脅迫状に怯え、私立探偵の明智小五郎(井上芳雄)に警護を依頼しました。岩瀬父娘が宿泊した大阪のホテルには岩瀬の店の顧客で早苗とも親しい緑川夫人も泊っていましたが、実は彼女こそ黒蜥蜴(中谷美紀)でした。黒蜥蜴は部下の雨宮(成河)を使ってまんまと早苗を誘拐したものの、明智に奪い返されます。それから半月後、家政婦ひな(朝海ひかる)の手引きで岩瀬邸から再び早苗を誘拐した黒蜥蜴を明智が追い詰めていきます・・・。


幕のない舞台上にあるのは天井だけ。
開演するとホリゾントからドアが現れます。
そのドアから登場する緑川夫人こと黒蜥蜴。
シンプルながら研ぎ澄まされたような舞台装置、生演奏、映像。
いかにもデヴィッド・ルヴォーらしい美意識に満ちた舞台。
そしてそれがそのまま黒蜥蜴の美学を表現しているようにも感じられ。


黒蜥蜴と明智小五郎は突き詰めれば似たもの同士。
どちらも頭脳明晰で冷酷で、犯罪に魅入られています。
そこには2人にしかわからなない美学があって、だからこそ惹かれ合う2人。
犯罪を仕掛ける側とそれを暴く側、罠にかけたり出し抜かれたりというスリリングなゲームをまるで楽しんでいるかのようです。

いつも自信に満ちていて感情の動きなど顔にも出さない黒蜥蜴が唯一言葉でも態度でもそれを表わす船上のシーンが印象的。
椅子に閉じ込め、程なく海の底へ沈められる明智にその思いを告げる黒蜥蜴。

「私の唇が口から出るのは冷たい言葉ばかりでもこんなに熱いのがわかって?あなたの体が海の底で冷やされても、あなたの体のそこかしこに赤い海藻のように私の接吻がまとわっている筈だわ」

実は椅子の中にいるのは別人で、この黒蜥蜴の告白を明智は扉の影で聞いていて、その姿がシルエットで映し出されるのが何とも官能的。


三島由紀夫の甘美かつ耽美な台詞を強く、時には弱く、完璧に伝えてくれた中谷美紀さんの黒蜥蜴がすばらしい。
美しさはもちろん、背筋をのばした立ち姿や指先まで神経の行き届いた所作もとても綺麗。
時に妖艶に大胆に、自分の生き方や美学を貫いて生きてきた黒蜥蜴を体現していました。

衣装(前田文子)もとても美しかったです。
黒のドレスでも質感が違っていたり、繊細な模様やレースの装飾が施されていたり。
黒蜥蜴の美学がその身にまとうものの細部にまで込められているよう。
もちろんそれを着こなす中谷美紀さんも素敵。

登場時の目を強調したメイクも独特だなぁと思って後で調べたらUDAさんでした。
同じくルヴォーさん演出の「ETERNAL CHIKAMATSU」で、七之助くんのあのメイクをされた方ですね。


対する井上芳雄さんは、私のイメージ的に「明智には若い」と思っていましたが(そして確かに若かったけれども)、スラリとした長身にスーツが映え、完璧主義で自信に満ちていて少し皮肉屋で、色気もあって心身ともにタフ。黒蜥蜴が思いを寄せるに足る明智でした。
ルヴォーさんが「もう王子様役は十分でしょう(笑)」と配役されたそうですが、さすが目のつけどころが・・なキャスティングです。

黒蜥蜴に狂信的かつ倒錯した愛を見せる雨宮の成河くん、いかにもデキる手下 ひなの朝海ひかるさんもよかったですが、今回の演出ではこの2人の描かれ方はいささか少な目。
それにつけても花組芝居の「黒蜥蜴」よくできてたな~と改めて感心。
ちゃーんと小林少年が早苗さんの身代りスカウトする場面もあったし(とは言え身代りということは本人が告白するまで私も気づかなかったのだけれど)。


ラスト。
自ら命を絶った黒蜥蜴を抱きかかえ、「本物の宝石は、もう死んでしまったからです」と岩瀬庄兵衛につぶやく明智。
明智にとって黒蜥蜴は自分の分身であるどんなに光輝く宝石にも優る存在。
その彼の黒蜥蜴を失った彼の喪失感が痛いくらいに伝わってきました。



井上芳雄くんの悪役も観てみたい のごくらく地獄度 (total 1875 vs 1880 )



 
posted by スキップ at 23:24| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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