2018年01月20日
カガミのアナタはホントのワタシ 「かがみのかなたはたなかのなかに」
子どもたちでにぎわうロビー。
ゆるりとコーヒー飲んでいたら、白い海軍士官の軍服を着た兵隊さんがロボットのような歩き方で一直線に近づいて来て、私の前にいたお子さんに向かって表情も変えずに敬礼。「え!?長塚さんじゃん!!」と横でコーヒーカップ落としそうになる私。
その後、他の3人の出演者の士官さんが次々と同じようにロビーに現れ、松たか子さんの透明感ある美しさに見とれて壁に張り付いていたら、あたりに子どもさんがいなかったからか、はたまた子どもと間違われたのか、私に向かって敬礼してくださって、ますますテンション上がった開演前でした。
「かがみのかなたはたなかのなかに」
作・演出: 長塚圭史
振付・音楽: 近藤良平
出演: 近藤良平 首藤康之 長塚圭史 松たか子
2018年1月13日(土) 11:00am 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
1階H列センター (上演時間 85分)
「未来のおとなと、かつての子どもたちへ」
とフライヤーのライナーに書かれているとおり、子どももおとなも一緒に楽しめる演劇シリーズとして、2015年に上演された舞台の再演です。
1階席前方5列目くらいまでは「子どもゾーン」でお子さまと保護者優先席となっていたり、開演前の諸注意も係員に扮した役者さん(?)2人がユニゾンで行ったりと、子どもさんの観客を意識した凝った趣向の舞台。
舞台中央に鏡のない鏡台がある部屋。窓の彼方には海原が広がります。
下手に冷蔵庫とダイニング、上手には整理ダンスやベンチのある部屋が、前後シンメントリーのように奥にも同じように存在しています。
部屋で一人トレーニングしたり、母に手紙を書いたりするたなか(首藤康之)。
彼は海軍士官で出発待機しているようです。
やがて、鏡のむこうに自分と同じ姿かたち、自分と同じ動きをする人物が現れ、かなたと名乗ります。
ある日、ピザの配達員 こいけ(長塚圭史)を部屋に招き入れたたなか。鏡のむこうのかなたのところにはけいこ(松たか子)が現れます。たなかもかなたもけいこの方を好きになってしまいます・・・。
ファンタジーのちビターな展開。
特にラストは、「これ、子ども向けなの?」と思わせる情け容赦なさ・・・さすが長塚さんですワ。
白いシャツに白いパンツもピタリと決まるダンサー2人のシンクロする動きに見惚れ、そのシンクロをあえて外すお茶目な楽しさに思わず笑い声があふれる客席。
たなかとかなたがそれほど見た目に大きな差がないのに対して、大きくてごっつい(長塚さんの女装だからね)こいけと華奢で美人(透明感ある美女の松たかちゃんだからなおさら)のけいこ。
当然のことながら2人ともけいこに恋をして、邪魔なこいけを海に突き落としてしまいます。
「邪魔だから消してしまおう」と言って。
これ、本当に怖い言葉で、聞いていて心臓がピクッとなりました。
いじめにも繋がる考え。子どもたち、感じ取ってくれたかな。
邪魔者がいなくなり、どちらがけいこをものにするか争い始めるたなかとかなた。
けれども結局相手を傷つけることはできず、勝敗も決められません。
それは、お互いが自分自身だから。2人で1つの存在なのだから。
一方のこいけとけいこ。
ずっと自信がなく自分には魅力なんてないと考えていたけいこが1人になって、たなかとかなたに取り合いされていくうちに大胆にも傲慢にもなって、その言動はまるでこいけのよう。
やっぱり2人は裏表。1つの存在なのです。
たなかとかなたは、2人でケイコを半分ずつにしてしまおうと考えます。
鏡の向こうにいたはずのかなたもこちらの世界にやって来て、たなかとともに刃物を手にけいこに迫ります。
姿は見えないけいこの悲鳴が響き、静寂に包まれる舞台。
スプラッタホラーじゃん
やがて、たどたどしい歩き方で登場するけいこ。
顔と身体の真ん中に線が入っています。
こちらの世界と鏡の向こうの世界の境界線に立って、必死に叫ぶ言葉は「たすけすた」。
こちらの世界と向こうの世界のどちらにも存在することになったけいこは、回文のような言葉しか話せなくなっていたのでした。
もう、ほんと、怖いし、切ない。
そこへ、海から這い上がってくるこいけのヒーロー感(笑)。
客席全体にほっと安堵した雰囲気が広がりました。
けいこの肩を抱いてともに歩いていくこいけ。
1本の電話が入り、身支度を整え、戦場へ向かうたなか。
静寂が訪れる幕切れでした。
子ども向けとしてはかなりシュールで厳しい内容で、どこまで理解できるのか(それは私自身も同様ですが)とも思いますが、今、感じ取れたことがすべて。幼い頃からこんな舞台に接することができる子どもたちがうらやましいです。
にしても、子どもでも子ども同伴でもない大人は前方席で観られないって、逆に不公平じゃない? の地獄度 (total 1864 vs 1867 )
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