
その前年11月から7ヵ月続いた平成中村座の掉尾を飾る月で、病から復帰された中村勘三郎さんの「完全復活」を印象づけたロングラン公演でした。
その最後の月に初役で演じため組の辰五郎が、どうして今までやらなかったんだろうと思うくらいハマり役で、きっとこれから何回も演じていくんだろう、「夏祭」の団七のように、勘三郎さんの持ち役として何度も観ることになるんだろうなと思っていました。
まさかあれがただ一度きり、私が観た最初で最後の辰五郎になるなんて。
シネマ歌舞伎 「め組の喧嘩」
出演: 中村勘三郎 中村扇雀 中村橋之助 中村勘九郎 中村錦之助
中村萬太郎 坂東新悟 市川男女蔵 片岡亀蔵 市村萬次郎 中村梅玉 ほか
2017年12月2日(土) 1:40pm なんばパークスシネマ スクリーン1
(上映時間 1時間43分)
演目の感想や鳶たちの迫力、勘三郎さんの辰五郎が(勘九郎くんの藤松も)どれほどカッコよかったかは舞台を観た時の感想(こちら)に書きましたので重複は避けます。
舞台を観た時に思った、「面子を汚された江戸の火消しの意地」っていうのはそれほどまでに?というのは今回も変わらず。
劇中の台詞にもありましたが、大小の刀を佩刀して武士と同じ待遇であった力士から一段下に見られたという町火消しの自負と男気は、妻も子供も、自分の命さえ投げ打っても代えることのできないものなのだなぁと。
そこまで意地を張らなくても、とも思いますが、それでも、いざ殴り込み、という時、口に含んだ水をプーッと勢いよく足に吹きかけ、水杯を交わし、鳶たちの頭にパッパーッと塩をまいて、「てめぇら、いいなっ」「いいんだなっ!」と言い放って、かわらけをバーァンと地面に投げつけて叩き割る辰五郎のカッコよさには惚れ惚れ

映像的には、鳶たちが舞台に勢ぞろいする場面や花道を勢いよく駆け抜けていくところ、客席通路を使った喧嘩や纏いを持った勘九郎くん藤松が手を使わず梯子を昇るところ(舞台観た時と同様、映画館でもどよめきが起きてた)など、ナマの舞台の迫力をうまく伝えられていたと思いますが、場面場面の繋ぎがプチプチ切れている感じだったのが少し残念でした。
エンディングロールに千穐楽の御神輿の映像が挿入されていました。
スカイツリーが見える舞台奥が開け放たれて御神輿が舞台に入って来たとき、「ほら、見てみなよ」とばかりにまわりに笑顔を向ける勘三郎さん。
御神輿の担ぎ手に入った彌十郎さんに代わって勘九郎くんが入り、さらに交代して御神輿を担勘三郎さん。
まだ小さかった七緒八くんを抱き上げる勘三郎さん。
あの笑顔をもう二度と見ることはできないんだと思うと涙がポロポロあふれてきてスクリーンが涙で霞むほど。
終映後、隣の席のおじいさんに、「あなたが今泣いてらしたのは勘三郎を想って?」と聞かれてしまいました。

役者さんたちの手ぬぐい撒きが始まって、皆さん後ろの方へ投げる中、一列目で観ていた私は無理かなぁと思いながら控えめに手を挙げていたら勘三郎さんが気づいてくださって、私に向かってひょいと投げてくださったのをダイレクトキャッチしたもの。
あの時のこと、今でも忘れられません。
本当に本当にうれしかったな。
5年ぶりに観た「め組の喧嘩」でこんなに泣くなんて の地獄度


