
それだけも「観ておかなきゃ」というところなのに、藤十郎、菊五郎、吉右衛門、仁左衛門、そして幸四郎と、五枚看板が揃う盛大な顔見世。
ちょっと無理して予定外の上京を1日組み込みました。
吉例 顔見世大歌舞伎 昼の部
2017年11月12日(日) 11:00am
歌舞伎座 1階2列センター
一、湧昇水鯉滝 鯉つかみ
市川染五郎本水にて立廻り相勤め申し候
補綴: 戸部和久
振付: 尾上菊之丞
美術: 前田剛
出演; 市川染五郎 中村児太郎 大谷廣太郎
中村吉之丞 市川高麗蔵 大谷友右衛門 ほか
(上演時間 1時間10分)
「鯉つかみ」を初めて観たのは2011年4月のこんぴら歌舞伎(感想はこちら)。
金丸座独特の機構を活かした染五郎さんの創意工夫あふれる演目で本当に楽しかったことを今でもよく覚えています。
以来、愛之助さんが何度か演じられていましたが、「『鯉つかみ』は染ちゃんのもの」と頑なに観ることをせず。
今回は金丸座では使えなかった本水使用で、大滝の中迫力の立ち回り。
ビニールシートは配布された「水かぶり席」だったのですが、思ったほどには水が飛んでこなくて、「あーよかった」とシートをはずしたところを狙ったかのように染五郎さん志賀之助がパシャッと水を蹴り上げて・・・ヤラレました。でも水に濡れてもうれしいのはなぜ?(笑) この演目を近くで観たくて一等席を取った甲斐もあったというものです。
プロジェクションマッピングを駆使し、本当に早い早替りも舞台上の宙乗りも、と盛りだくさんで楽しい一幕でした。
悪役フェチといたしましては、鯉の精が化けた志賀之助が大好きでして、あのいかにも悪そうな低音が色っぽくてだな。
悪い役をやる時、染五郎さんがよくする口を曲げた表情も大好物です。
児太郎くんの小桜姫も可憐で可愛いかったな。
二、奥州安達原 環宮明御殿の場
出演: 中村吉右衛門 中村雀右衛門 中村又五郎
中村錦之助 中村歌六 中村東蔵 ほか
(上演時間 1時間27分)
源義家 vs 奥州安倍氏にまつわるお話。
文楽で観たことがあるのですが歌舞伎で観るのは初めてでした。
吉右衛門さんの安倍貞任を中心に、雀右衛門さんの袖萩、歌六さんの直方、東蔵さんの浜夕、又五郎さんの宗任と播磨屋ファミリーオールスターキャストで盤石。
父 直方に切腹の命がくだされたと知って心配して駆け付けた盲目の袖萩が、勘当され瞽女に身を落としていて家にも入れず、娘を連れて戸口で心情を吐露する場面。雀右衛門さんの泣きのお芝居はtoo muchと感じることも時にはありますが、袖萩の哀れさがよく出ていて切なかったです。勘当した娘でありながらも母親としての愛情を押さえきれない浜夕の東蔵さんがまたすばらしく。
安倍貞任の吉右衛門さんは上使の桂中納言と偽っての登場からタダモノではない感満載。気品があって大きくて。
堂々として力強い武将というばかりでなく、幼い娘にすがられ、妻である袖萩の死に心痛める姿に人間味があふれていました。
桂中納言を貞任と見破った義家はその場で捕えたりせず、戦場での再会を約束して別れる・・・というのがいかにも歌舞伎・文楽的な結末ですが、その影で涙する女たちの物語でもあるなぁと思いました。
浄瑠璃は葵太夫さん。
丸本物はやはり浄瑠璃の名調子にも支えられると感じた次第です。
三、雪暮夜入谷畦道 直侍
出演: 尾上菊五郎 中村時蔵 市川團蔵 中村東蔵 ほか
(上演時間 1時間3分)
昨年一月 歌舞伎座の壽初春大歌舞伎で市川染五郎さん主演で観た演目。
極めつけと言われる菊五郎さんの直侍はまだ拝見したことがなくて、とても楽しみにしていました。
その菊五郎さんの直次郎、すごくカッコよかったです。
雪道を歩く姿、懐に手を入れたり、蕎麦をすすったりする仕草の一つひとつが粋でイナセで、いかにも御家人崩れという風情。
どこか危険な香りも漂わせ、こりゃ女がほっとかないというヤツでしょう。
直次郎ってこんな人だったんだろうなと思わせるリアリティと物語世界とのバランスが絶妙です。
あんなにナマ足見せる75歳なんて、歌舞伎の世界にしかいないよね。
時蔵さん三千歳への所作がまた色っぽくて、そりゃ三千歳でなくても惚れるわな。
菊五郎さん-時蔵さんのカップルは「魚宗」にしてもその他の演目でも本当に息もぴったり。菊五郎さんに漂う「オレの時蔵は渡さないゼ」感(笑)。
昨年観た時、按摩の丈賀が東蔵さんで、でも東蔵さんはこの前の「奥州安達原」に出演されていたし、今回はどなたかしら?と思っていたらやっぱり東蔵さんでした。
「直侍」観たらやっぱりお蕎麦が食べたくなったけど、日曜日で歌舞伎そばお休みじゃないかぁ のごくらく地獄度



