
サヨナラ公演のラスト パレードで真風涼帆さんが ♪朝焼け色のルビー 黄昏色のトパーズ・・と歌い継いで、「太陽色のダイヤモンド~」と歌うと大階段のてっぺんにキラキラ太陽のように輝く朝夏さんが現れて、「あぁ、まぁくんは本当に宙組の太陽だったなぁ」と胸がいっぱいになりました。
宝塚歌劇宙組公演
ミュージカル・プレイ
「神々の土地」 ~ロマノフたちの黄昏~
作・演出: 上田久美子
レヴューロマン 「クラシカル ビジュー」
作・演出: 稲葉太地
出演: 朝夏まなと 真風涼帆 愛月ひかる 寿つかさ 純矢ちとせ 澄輝さやと
凛城きら 蒼羽りく 桜木みなと 伶美うらら 和希そら 星風まどか ほか
2017年8月24日(木) 3:00pm 宝塚大劇場 1階16列センター/
9月19日(火) 1:00pm 1階14列下手
(上演時間 3時間/休憩 30分)
「神々の土地」
舞台は1916年 革命前夜のロシア。
皇帝ニコライ二世の従兄で軍人のドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ(朝夏まなと)は、モスクワにある亡き伯父の妻イリナ(伶美うらら)の屋敷で暮らしていましたが、皇帝の身辺を護るため首都ペトログラードへの転任を命じられます。ニコライ二世とイリナの姉でもある皇后アレクサンドラ(凛城きら)はとラスプーチン(愛月ひかる)という怪僧に操られて悪政を敷き、民衆の反感を買っていました。王朝を救う道を模索するドミトリーに友人のフェリックス・ユスポフ公爵(真風涼帆)がラスプーチン暗殺を持ちかけます。時を同じくして、皇帝から皇女オリガ(星風まどか)との結婚を勧められるドミトリー・・・。
とても深くて重厚でドラマチック。
ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフという実在の人物を主人公に、ロマノフ王朝の滅亡となるロシア革命、その発端ともいえるラスプーチン暗殺事件といった史実とドミトリーとイリナとの切ない恋を中心としたフィクションをうまく融合させて壮大なドラマに仕上がっています。
革命という、自分の力ではどうすることもできない大きな時代のうねりの中で、心の奥底で通じ合いながらその思いを告げることもせず自分の生きる道を進む二人。
栄華を誇った一つの時代の終わりと叶わぬ悲恋が重なり合って、何とも余韻の残る作品です。
上田久美子先生と朝夏まなとさんといえば「翼ある人びと」というすばらしい作品がありますが(2014年のスキップ's エンタメモリーベストスリーに選んだくらい好き)、また新たな名作誕生です。そしてこの作品も大好き。
そういえば「翼・・」もヒロインは伶美うららさんだったな。

こちらは開演前の幕。
宇宙みたいだけど、ロシアの氷原かな。
初めて聞くといささか名前が難しくて頭に入り難いところもありますが、貴族たちのさり気ない会話だけで、当時のロシアやニコライ一世を取り巻く状況をわからせる筆致。
細かく配された伏線をきちんと回収していく緻密な脚本。
中心となる人物ばかりでなく、ジプシー酒場の人々やイリナの屋敷の家令、農夫のイワンなど、登場人物一人ひとりが時代を生きている存在感。
いかにもロシア帝政時代を思わせるクラシカルで豪華な衣装や装置。
凍りつくような、色の少ない雪原と、真っ赤な絨毯を敷きつめた大階段が象徴的な宮廷との対照も鮮やか。
この赤い大階段を使って行われる近衛騎兵隊任官式のダンスのシビれるカッコよさ。
その中心にいたドミトリーが、今度はその階段を上っていくラスプーチンを撃つ側となる皮肉。
一つひとつがとても丁寧に”丹精込めて”つくり上げられた舞台という印象です。
ラスプーチン暗殺の場面は、その静謐な雰囲気も視覚的にも、宝塚歌劇史上に残る名場面になると思います。
アレキサンドラ皇后のドレスのドレープを持って後に従い、無言で銀橋を歩くラスプーチン。
そこに重なる本舞台上のドミトリー。
交錯するように位置を変え、ドミトリーは銀橋に出て、真紅の大階段を上るアレキサンドラ皇太后とラスプーチン。
そして銀橋に立つドミトリーの背中がラスプーチンと一直線に重なり、響き渡る銃声。
暗殺を成し遂げたあとのドミトリーの背中。階段を上がる足取りの重さが彼の苦悩を物語っています。
これが正しいと思った訳でも、望んだ訳でもない「暗殺」。
そんな手段を取らなければならなかった、そうせざるを得なかった運命の重さ。
ドミトリーの心の痛みが伝わって、観ていて息をするのも苦しいくらいです。
後になってドミトリーが何度か口にする「愛する祖国を守れなかった」という言葉の切なさ。
ドミトリーが花道で歌う中、登場人物が・・貴族も軍人も皇族一家も民衆も、ラスプーチンも、次々と踊りながらナナメに舞台を横切るラストの演出もとても好き。
まるで走馬灯のよう。
そしてラスト、舞台の対角線上一番離れた位置にドミトリーとイリナが立ち、見つめ合い、少し歩み寄ろうとしたところで幕。余韻の残る幕切れでした。
朝夏まなとさんのドミトリー。
「あんたは皇帝の従兄で王子様だ」とイワンが言うように、いかにも身分の高い青年貴族の品があり、頭もよく正義感にあふれているけれども、謙虚。
イリナを愛する気持ちを決して口にせず、皇族の一員として軍人としての矜持を忘れることがなかったドミトリーが最後に「馬鹿なことをしてしまった」とペルシャへ送られる汽車を飛び降りてイリナに逢いに来たところで思わず落涙。本当の別れ際に「イレーネ」と呼びかけて、「イリナよ」と言われると「ずっと呼んでみたかったんだ。あなたが結婚する前の名前で」と言った時のやわらかな笑顔とやさしい声にますます涙とまらず。
あの長い脚に軍服の似合いっぷりハンパなく。
そしていつも感じることですが、朝夏さんは本当に手の表情が洗練されていて美しい。イリナやオリガをダンスに誘う時、差し出した指先の美しさにホレボレ。
言葉を発しなくてもイリナを見つめる愛にあふれた視線。
ダンスは元より、台詞の声ものびやかな歌声も聴いていてとても心地よい。
・・・つまり、大好きです、朝夏まなとさん。
イリナの伶美うららさんもとてもよかったです。
美貌とデコルテの美しさには定評がありますが、それが如何なく発揮されて、気品があって知的で慎み深く、落ち着いた大人の女性。
ドミトリーが思いを寄せるのも納得の魅力ある女性像でした。
伶美さんもこの公演で退団ですが、朝夏さんとのバランスもよくて、もっと二人でいろんな作品観たかったし、この一作だけでもトップ娘役としてもよかったのではないかな、と思いました。
真風涼帆さんは名門貴族の御曹司フェリックス・ユスポフ。
一見金持ちの遊び人のチャラ男ですが、ドミトリーへの友情に厚く(愛情かも?「永遠の片思いね」とマリア皇太后に言われていましたね)、国を憂いてラスプーチン暗殺とクーデターを企てるという役。
こういう役を下品にならずにやれるのは真風くんの強みです。
朝夏さんはじめ軍服の人たちの中、一人だけずっと仕立てのいいスーツを着ているのですが、それがまたよく似合うこと。
ニコライ二世の皇女でドミトリーと婚約するオリガは星風まどかさん。
何も知らないお嬢様だったのがドミトリーを通じて外の世界も受け容れるようになるオリガ。
最後のあの行動は、両親である国王夫妻や国を思ってのことはもちろん、女として、ドミトリーに対する複雑な思いがあってのことだったのかな。
次期トップ娘役と決まっている星風さん。
可愛いし、歌も台詞もしっかり。ちょっと勝気なこんな少女役は手の内という感じです。ますます役の幅を広げていただくよう期待しています。
厳格で威厳ある寿つかささんのマリア皇太后、表情の少ない中に孤独感を漂わせた凛城きらさんの皇后アレクサンドラ、 端正な顔立ちに急進的なボルシェビキのリーダーという感情激しいワイルドな役が意外にハマった桜木みなとさんのソバール・・・と挙げ始めたらキリがないくらい個性際立つ登場人物の中でも、忘れちゃならないラスプーチンの愛月ひかるさん。
それまでのドミトリーはじめ貴族たちの会話の中に「ラスプーチン」「あいつはペテン師」と何度も出てきて、いつ出てくるの?と思っていたら盛大な音楽とともにオケボックスから銀橋へ登場。
不気味な雰囲気全身にまとわせて。
ニコライ二世一家以外の全員に忌み嫌われていたラスプーチンですが、自らの死(自分を暗殺させる)によって結果的にロシア革命を加速させたことになっていて、彼も時代が生んだ寵児なのかという気も・・・。
ラスプーチンの死に続くクーデターの失敗で、ドミトリーがペルシャ送りと決まり、いきり立つ民衆の背後・・・ボルシェヴィキであるゾバールを操るように踊るラスプーチン。
ぼんやり知っていたラスプーチンに俄然興味がわいて、少し本を読んでみようという気になりました。
いやそれにしても、愛月ひかるさん、怪演です。
繰り返しになりますが、とても重厚で観応えのある作品。
ただの歴史ドラマに終始せず、ちゃんと切ない悲恋も織り込まれていて。
いろんな細かい伏線もあるので何度でも繰り返し観たくなります・・・ということで、宝塚大劇場千秋楽のライブビューイングに行くこと、急遽決定!(東京宝塚劇場千秋楽のライビュはもちろん最初から行くつもり)



「まぁくん最後だから」と公演ドリンクは1回目観た時(8/24)に2種類とも制覇。
ウォッカをベースに、バイオレット・シロップとソーダを合わせ、宙組カラーをイメージしたオリジナルカクテル「ロマノフ」
「クラシカル ビジュー」にちなんでフランス語で「私の宝石」と言う意味を持つスパークリングワイン「ア トゥー・クール キュヴェ・ビジュー ブリュット」
お芝居だけでとても長文になったのでショーは別記事につづく のごくらく地獄度



