2017年05月24日
市川染五郎 世界最速の飛六方相勤め申し候 「氷艶2017 -破沙羅-」
「ディズニー・オン・アイス」があるなら「歌舞伎・オン・アイス」があったっていいじゃないか!という市川染五郎さんの妄想が現実のものとなった「氷艶」。
2009年3月のブログにご本人がチケットデザインつきで書いていらっしゃいますが、この時点で「5年以上前に考えた」とおっしゃっていますので、実に構想(というか妄想)13年。
「歌舞伎とフィギュアスケートの饗宴」という言葉だけでは言い表すことのできないスケール感のある極上のエンターテインメントが目の前に繰り広げられました。
千穐楽カーテンコールで染五郎さんが「すごい人が集まって、すごい無理なことをするとすごいものができあがる」とおっしゃったそうですが、まさにそれ。
ずっと口をあんぐり開けて観ているような感じで心震わされっ放しで、終演後は胸がいっぱいになりました。
「氷艶 HYOEN 2017 -破沙羅-」
脚本: 戸部和久
演出: 市川染五郎
振付・監修: 尾上菊之丞
振付: 宮本賢二
振付: 東京ゲゲゲイ
音楽監督: 仙波清彦
演奏: DRUM TAO
映像演出: teamLab
アーティスティックコンサルタント: VOGUE JAPAN
出演: 市川染五郎 髙橋大輔 荒川静香 市川笑也 澤村宗之助 大谷廣太郎
中村亀鶴 鈴木明子 織田信成 浅田舞 村上佳菜子 佐々木彰生 大島淳
蝦名秀太 鈴木誠 中村蝶紫 澤村國矢 片岡松十郎 中村かなめ ほか
2017年5月20日(土) 5:00pm 国立代々木競技場第一体育館
アリーナ 北Cブロック3列センター (上演時間 2時間35分)
女神(荒川静香)が少年に見せる夢物語。
はるか遠い昔、神代の時代。
天からこの地に天下った瓊瓊杵尊(ニニギノミコト/織田信成)の妃として岩長姫(市川笑也)と木花開耶姫(コノハナサクヤヒメ/浅田舞)姉妹がやってきますが、瓊瓊杵尊は木花開耶姫だけを選びます。姉の岩長姫はこれに激怒し、歌舞伎の世界の大敵役の仁木弾正(市川染五郎)を呼び出し、2人に復讐しようとします。一方、瓊瓊杵尊の家来 猿田彦(中村亀鶴)は2人を助けるために武蔵坊弁慶に姿を変え、日本史の英雄である源義経(高橋大輔)を呼び出します。義経は想い人の静御前(鈴木明子)を残して現れ、こうして義経と仁木、時空を超えた「善」と「悪」の闘いが繰り広げられることになります・・・。
会場中央にスケートリンク。
その三方を客席が取り囲み、残り一面には巨大スクリーン。
子どもたちがリンクに出てきてクルクルとスピンしたりジャンプしたりする中、そのスクリーンの頂に淡いゴールドの天女のような衣装に身を包んだ荒川静香さんが現れ、本当に女神そのもののような神々しい佇まいで空中を浮遊しながらリンクへ降り立ち、現役時代と変わらない美しいスケーティングでイナバウアーを見せてくれるプロローグから心奪われて、一気に物語の世界へ。
とてつもなく面白く楽しかった。
どこを切り取ってもすばらしかった。
そしてずっとワクワクドキドキしていました。
宙乗り、殺陣、和太鼓、巨大な大蛇、プロジェクションマッピング・・・ケレン味たっぷりに、派手に華やかに、次々繰り出される一流のエンターテインメントに時が経つのを忘れるくらい。
本当に、今振り返れば宝物のような時間で、あれは一夜の夢だったのではないかと思います。
義経と仁木弾正が時空を共有する設定は最初聞いた時、ぶっ飛んでいるようにも思いましたが、それが成立する世界観。
物語は奇想天外なようでいて、宙を行く仁木弾正の影が鼠になっていたり、歌舞伎のお約束事や聞き覚えのある台詞が散りばめられていたり。
蘇我入鹿、石川五右衛門、地獄太夫、酒呑天童子なんて人たちが歌舞伎そのままの拵えで現れたり。
義経が舞う時には「花のほかには松ばかり~」の詞章も。
義経はちょっぴり人間的で、カッコよく登場したもののまずはヤラレる→凹んでいるところを静御前(の幻?)に慰められて元気出す→また負ける→仁木たちの宴会に変装して潜り込む→バレて捕まる→岩長姫にいたぶられる→静御前(の幻?)に助けられる→両軍総出の大立ち回りの中、仁木弾正を一騎打ちで討ち果たす、と負けて負けて負けて最後勝つ!と判官贔屓+ヒーローものを地でいく展開。
台詞や物語の進行は主に歌舞伎役者さんたちが担い、スケーターは言葉の代わり滑りで心情を表現。
歌舞伎役者さんはスケートに挑み、スケーターの皆さんは初めて持つ剣を構えて華麗な殺陣を見せてくれます。
歌舞伎役者がスケート靴を履き、スケーターが靴を脱ぐ・・・「どこまでも両者が『氷の上という同じ舞台に立つ』ことにこだわったという染五郎さんの演出が冴えわたっていました。
どの場面も大好きで挙げていたらキリがないのですが、特に印象に残ったシーンをいくつか。
◆ 蛇髪姫様
岩長姫が呼び出した、大蛇を操る蛇髪姫。
全身黒づくめにゴールドを散らした衣装でシャープで妖艶で、まるで凄腕のスナイパー。
低い姿勢での攻撃的な滑り。木花開耶姫をシャーッと威嚇したりしてカッコイイ(←悪役フェチの血が騒ぐ)。
あれ、荒川静香さんだよね?!と女神とのギャップにオドロキ。
女神稲生とは表情はもちろん身体の使い方まで全く別物で、言葉は発しないけれど芝居心のある人だなと思いました。
そしてとてもイキイキ、何だか楽しそう。
スクリーン前で和太鼓を盛大に打ち鳴らし続けるDRUM TAOの面々。
そのスクリーン上からは「阿弖流為」の龍神様のような巨大な大蛇がゆらりゆらりと宙を浮いて現れます。
一人の人がビューンと大蛇の口のあたりまで釣り上げられたと思ったら、バンジージャンプみたいに真っ逆さまに落ちた時には思わず「うわっ!」と声が出てしまいました。
やがて氷上に降りた大蛇の中にスケーターの人たち(4人かな?)が入って操り、まるでシュルシュルと滑らかに速く水ヘビが動いているよう。
さらには、横一列に並んだ義経と四天王が大蛇の身体を横断するように一糸乱れぬ速さで滑り込んで通り抜けるなんて離れワザ(しかも大蛇も動きつつ)も見せてくれました。
この蛇髪姫の場面、何回でも観たいくらい好き。
◆ 連れ舞いと蓮理引き
義経と静御前、瓊瓊杵尊と木花開耶姫 二組のカップルのデュアル連れ舞いの美しさにうっとり。
これ、高橋大輔&鈴木明子、織田信成&浅田舞のペアスケーティングなのですから何とも贅沢。
瓊瓊杵尊と木花開耶姫は逃げようとするところを岩長姫に引き戻されるという蓮理引きも見せてくれました。
後ろ向きのままスーッと滑っていくのが、スケーターならではの蓮理引きだなぁと感心。
◆ 義経 in 出雲阿国
二幕冒頭。
瓊瓊杵尊と木花開耶姫をまんまと岩に閉じ込めて、飲めや歌えの大宴会中の仁木弾正ご一行様のところへ静々と現れた遊女 阿国。
変装した義経で踊りを披露するのですが、驚いたことに高橋大輔くん、スケート靴を履いていませんでした。
現役時代にもドラマチックなステップはじめ表現力には定評があった高橋大輔くん。
ダンスはお得意だと思いますが、日舞となるとこの公演のために習ったのでは?
しかも、始まりは日舞調だけど段々アップテンポでHip Hopダンスみたいな感じに・・・このダンスが東京ゲゲゲイさん振付だと後でしりました。
スケート靴履いていようがいまいが、ダンスであろうが日舞であろうが、「踊り力」やっぱり凄いなと思いました。
最後、海老反りだもんね。
もちろん義経の時の大輔くんもとてもステキ。
長いポニーテールの髪がスピンのたびにジュワッと揺れて、義経のイメージカラーの赤のアイシャドー。
やはり色っぽいスケーターです。
◆ 氷上の毛振り
学生時代にアイスホッケーをやっていらして、今回出演の歌舞伎役者さんの中でNo.1スケーター 市川笑也さん。
笑也さんと染五郎さんは終始スケート靴履いていらした模様。
ふわりと裾が広がった大きな衣装を着ての滑らかな滑りだけでも感心していたのに、二幕で怒りに燃えてからは髪型も変わって、「連獅子の獅子みたいな髪型だなぁ」と思っていたら、ツツーッとリンクセンターに進み出ると、その場で毛振り。もちろんスケート靴履いたまま。
いや~、あれ、どうやって足を踏みしめているのでしょう。
会場どよめきとやんやの喝采でしたが、これをやらせた演出の染五郎さん、鬼だ!と思いました。
◆ 世界最速飛び六方と前後転宙乗り
その染五郎さんももちろん魅せてくれます。
演出家として座頭としてこの作品をまとめ上げたのに加えて、自分の見せ方もちゃんと押さえて。
どれほどスケート練習したのだろうと思います。
普通の滑りはもう当然といった感じで、スパイラルのように片足滑走したり、フィギュアスケートでよく見る片膝立ててもう一方の足を後ろに伸ばす低い姿勢での滑り(ランジというらしい)もやっていたのにびっくり。
リンク中央を縦に、ご本人曰く「世界最速飛び六方」で進んで行った時には、「染ちゃん、六方やってるよ」と観ていて背中がゾクゾクしました。
さらには、宙乗りです。
10メートル以上はあるかと思われる代々木体育館の高い空中を、高速で前転したかと思えば続けざまに後転。
どよめきと歓声と大拍手の中でクルクル回る染五郎さんを観ていたら涙がブワッとあふれました。
もちろん悪役としての存在感もハンパなく。
妖しく大きく色気もある仁木弾正。まさに色悪。
岩長姫をお姫様抱っこして二人宙乗り空中ランデブーでは扇に隠れてちゃっかりキスしたりして💕
染五郎さんの悪役大好きなワタシ。仁木弾正もまた観たくなりました。
◆ そして殺陣
大詰めの殺陣。
敵味方入り乱れての総力戦。
リンクを滑りながらの殺陣は迫力もスピード感も数倍増しで目が追いつきません。
初めて剣を持ったとは思えぬキレッキレの殺陣を見せた高橋大輔さん。
ラスト 仁木弾正に刀を撥ね飛ばされて、猿田彦が差し出す宝刀をサッと受け取って弾正にとどめを刺すところのカッコよさ。
剣を構える低い姿勢が印象的だった浅田舞さん。
四天王やグレーや赤の黒衣姿(忍者のようにも見える)のスケーターさんたちのスピード。
スケート靴を履いた人も履いていない人も、歌舞伎役者だって負けていません。
リンクいっぱいに迫力の殺陣が展開されていて、目がいくつあっても足りないくらい。
合戦前にはDRUM TAOの演奏。
彼らが太鼓を打ち鳴らす背景のスクリーンでは火山や荒れ狂う波などのプロジェクションマッピングが流れていて、とても見応え聴き応えがありました。
殺陣とは別に印象に残ったのは村上佳菜子ちゃんの天鈿女命(あめのうずめのみこと)。
一番直近まで現役だったこともあってか、テクニカルな面は一番見せてくれたのではないかな。
衣装に鈴がついていて、滑るたびに涼やかな音色が響くのも可愛かったです。
氷上の歌舞伎役者さんたちとスケーターの皆さんが互いをリスペクトし合っているように、客席で見守る歌舞伎ファンもフィギュアファンもその空間を共有して、自分が好きな人たちを誇りに思うと同時に、他方が好きで大切に思っているもののすばらしさも知って心から拍手を贈る・・・コラボレーションの醍醐味ってこういうことなんだなと実感しました。
それをこうして実現してくれた染五郎さん、やっぱり凄い。
染五郎さんについては、ビジュアルが好みとか舞台姿がいいとかあの不思議ちゃんキャラがたまらんとか、好きなところはいろいろありますが、何と言っても、いつも私たちをワクワクドキドキさせてくれるところだと改めて思いました。
ほんと、染ちゃん観てるといつも驚かされてドキドキして、楽しいもん。
今回、高橋大輔さんはじめスケーターのファンの方からも「染五郎さん凄い」「染五郎さんありがとう」と言う声が聞えてきて、本当にうれしかったし、染五郎さんのファンであることを誇らしく思いました。
千穐楽のご挨拶で開口一番「あのね、楽しい」とおっしゃったという染五郎さん。
出演された歌舞伎役者さんたちもスケーターの皆さまも、「とても楽しかった!」「ここに参加できて本当によかった。幸せだった」「氷艶ロス」と口々にSNSなどで発信されていて、本当に作品としてもカンパニーとしても、すばらしかったのだなとうれしくなりました。
そして、その目撃者(染五郎さん言うところの生き証人)の一人になれたこと、この上なく幸せでした。
これが代々木競技場デビューでした。
全体の座席図がこちら。
そして私が座った席からはこんな目線でした。
超上級コラボレーション ぜひ映像化されますように のごくらく度 (total 1220 vs 1223 )
この記事へのトラックバック
盛り上がってる様子をツイッターで断片的に見て、どんなのぉぉ?と思ってたんです。で、ここはスキップさま頼み、と。
私は一度だけ、この会場でアイスショーを見たことがあるんですよ。高橋大輔くん、荒川静香さんたちが出演されてました。その時は生で見る素晴らしさと、一方で観客の独特の雰囲気に微妙な疎外感?を感じたりもして。
今回、(最初この企画を知った時は呆気にとられましたが)歌舞伎ファンもスケートファンも、客席で一体となってた様子がが窺えて、すごいなあと感心したのでした。私にも「そりゃ見るでしょ」の勢いがあったらな……。
ところで、例によってアカウントだけ持ってたインスタグラムですが、スキップさまが紹介してらしたのでがぜん読みたくなって、園子夫人のだけフォローしています。染五郎さんのブログは少し前にテレビでネタにされてましたけど、奥様はこういう面でもバックアップしてらっしゃる感じ。
私もスキップ様と同じ回を北G15列から拝見することができました!!
暖気がこもる2階ほぼてっぺん、ちょうど宙乗りの最高位置で,プロジェクションマッピング、スケーティング、立ち回りなどのフォーメーション、どれもとても美しかったです。
染五郎さんの妄想が叶ったことに感動(特に六方の場面)。テレビで応援していたトップスケーターの皆さんの美しい滑りに悲鳴とため息。そこに晴の会メンバーがいることにも嬉しくなったり。太鼓も胸に響きました。
歌舞伎の表現力のすごさと、スケートの美しさの親和性の高さが新鮮で、未だに一つ一つのシーンが目に浮かんで、つくづく楽しすぎた夢のような時間でした。
日々その時々の努力が、夢(妄想)を実現させる縁を運んでくるのですね。
10代の頃、何回かお遊びでスケートしたことまで思い出し。滑るより止まるのが大変(笑)。歌舞伎役者の皆さんのご苦労がしのばれました。
思い入れありすぎの(^^ゞ長文レポお読みいただいてありがとうございます。
少しでも雰囲気が伝わるとうれしいのですが。
おっしゃる通り「そりゃ見るでしょ」の勢いだったのですが、
観られて本当によかったと思っています。
ブログにはあまり書いたことないのですが、実はフィギュアスケート好きで
(きっかけは札幌オリンピックのジャネット・リンちゃんだったり・・古っ)
少し前までは試合も時々観に行っていましたので、今回のメインスケーターの方たちは
浅田舞さん以外は現役時代にリアルで観たことあります。
それにしても高橋大輔さんファンの熱さは会場でもすごかったです。
それだけ魅力的なスケーターということですよね~。
あら、きびだんごさま、インスタグラムのアカウントを?
園子夫人のインスタ、写真もさることながら、文章もいつもステキで、
いろんなものを歌舞伎に結び付けられていたりして、賢明な女性だなと見直し(←)ました。
毎朝更新されるのがとても楽しみです。
染五郎さんのブログ 自撮り画像もあれはあれで(笑)楽しみなのですけどね~。
ご一緒だったのですね~。
本当にすばらしい饗宴、すばらしい時間でした。
私の席からは氷上のプロジェクションマッピングはあまり見えませんでしたので
スタンドでも観てみたかったなぁと思いました。
スケーターの皆さんの滑りは間近で見るとそのスピードにも圧倒されました。
それについていく歌舞伎役者さんたち、本当にどれだけ努力したのだろうと
思います。
松十郎さんの石川五右衛門もカッコよかったですね。
染五郎さんの妄想がこんなふうに最上の形で現実のものとなることに
感動しきりだったのですが、なでしこさまのおっしゃる通り、
日々の努力や精進がこういうご縁を運んでくるのでしょうね。