2017年04月24日

四月大歌舞伎 昼の部


kabukiza201704.jpg四月の歌舞伎座は昼夜見応えのある六演目が並びました。
全体として感じたことは、世代交代の過渡期とでもいうのか、大幹部と少し前まで花形世代だった役者さんの共演が目立つ印象。
過去に観たことのある演目ばかりでしたが、当然のことながら役者さんが替わると印象も変化し、こうして歌舞伎の演目は脈々と受け継がれていくのだなぁと思いました。


四月大歌舞伎 昼の部
2017年4月9日(日) 11:00am 歌舞伎座 
1階1列センター (上演時間 4時間40分)


一、醍醐の花見
作: 中内蝶ニ
脚本: 今井豊茂
振付: 藤間勘十郎
出演: 中村鴈治郎  尾上松也  中村歌昇  中村壱太郎  尾上右近  
     市川笑三郎  市川笑也  市川右團次  中村扇雀 ほか


慶長年間、豊臣秀吉が京都の醍醐寺で、諸大名を招いて盛大に催したとされる花見の宴を題材とした長唄舞踊。
ちょうど桜が満開の時期に観ましたので、劇場の外でも桜、中でもお花見といった趣きでした。

鴈治郎さんの秀吉に扇雀さんの北政所というのは、上方歌舞伎を見慣れた者にとっては鉄板ともいえる配役。
淀君が壱太郎くん、ライバルの松の丸が笑也さん、前田利家の妻まつが笑三郎さん、石田三成が右團次さんと、成駒屋さんと澤瀉屋さんという珍しい座組(右團次さんは高嶋屋だけど)の上に、歌昇くん、種之助くん、萬太郎くん、尾上右近くんといった花形御曹司も顔を揃えて、桜に負けない華やかな舞台となりました。


淀君と松の丸の「盃争い」が盛り込まれているのですが、笑也さん松の丸が淀君に敵意むき出しで、淀君が何かするたび、言うたびにキッ!となるのがおもしろかったです。北政所が踊る隙に秀吉が淀君を隣に呼び寄せた時なんかサイコーでした(笑)。笑也さん、クールビューティだからキ~ッ!となるお顔も迫力。

それぞれが踊りを披露するのですが、歌昇くん筆頭に萬太郎くん、種之助くん、尾上右近くんと、若者は踊り巧者が揃っていて眼福。

秀吉がひとりになると、あたりに妖しげな雰囲気が漂い、白装束の秀次の怨霊登場。
「誰?あのイケメン?」と思ったら、松也くんでした。
美しさの中に凄みも漂う秀次。
怨霊となって秀吉にとり憑こうとするところ、三成と義寅に鎮められて退散して、何ごともなかったように、桜花ハラハラ散る花の盛りの醍醐となりました。


二、伊勢音頭恋寝刃 
追駈け/地蔵前/二見ヶ浦/油屋/奥庭
出演: 市川染五郎  市川猿之助  尾上松也  中村梅枝  中村米吉  中村隼人  
     市村萬次郎  片岡秀太郎 ほか


阿波の国のお家騒動で紛失した名刀 青江下坂にまつわるお話。
伊勢の神官・福岡貢(染五郎)は主筋の宝刀青江下坂をやっと手に入れ、今田万次郎(秀太郎)へ渡すべく廓 油屋に出向くが、万次郎は不在。元家来の料理人・喜助(松也)へ刀を預け、恋仲の遊女 お紺(梅枝)を待ちます。意地の悪い仲居・万野(猿之助)にお鹿(萬次郎)のお金のことであらぬ罪を着せられ、お紺からは万座の中で愛想づかしをされて逆上し、自分が手にしているのが青江下坂とは知らず万野をあやまって手にかけてしまうと、妖刀に魅せられ次々と人を斬り捨ててしまうのでした。


「染五郎さん貢に猿之助さんが万野」と聞いただけで「絶対観に行く!」と思いました。
お二人とも初役ですが、今後持ち役になりそうな雰囲気。
おもしろかったです。

最初に「追駆け」がついていて、これははじめて観ました。
桑原丈四郎(橘太郎)と杉山大蔵(橘三郎)が密書を持っていて、万次郎側の奴林平(隼人)がそれを奪うため追い駈けるという三人の追いかけっこがユーモラスに展開して、地蔵前→二見ヶ浦と場所が移ったところで福岡貢も合流して密書が手に入り、二見ヶ浦に昇る朝日の光で密書を読む、という流れ。
隼人くん演じるイケメンの奴林平が体躯も声も立派で感心。
若者の成長は眩しいなぁ、とすっかりおばちゃん目線です。

見つかりそうで見つけられないこの追いかけっこを始め、この物語はボタンの掛け違いというか、詰めの甘さといったものが惨劇を生み出しているなぁと改めて思いました。それと、万野の悪意ある底意地の悪さね(笑)。


万次郎に名刀 青江下坂を渡すつもりで油屋に出向く貢。
万次郎は何とか神社の方へ去ったばかりで、それなら、と追いかけようとする貢に「入れ違いになっては」とお岸(米吉)に言われて油屋で待つことに←なよなよくどくど言うお岸なんて無視して行けばよかったのに
万次郎やお紺を待たせてもらうために、他の遊女を呼び、刀も預けろと万野に攻められる貢←ここでパァーンと断ればよかったのに
貢の刀を代わりに預かった料理人の喜助。悪者がすり替えたのに気づいてひと工夫しますが、それを貢には伝えられず←そこ、大事なとこなの
お鹿さんからお金をだまし取ったと万野に言い立てられ、事実無根と訴えるものの万野にやり込められる貢←やってないんだから、そこはもっと断固として主張しよ
本物の青江下坂を持った貢を追いかける喜助と万野・・・なぜか万野だけが先に帰ってきて貢と鉢合わせ←喜助どこに行ったんだよぅ

といった具合。
歌舞伎にはよくあるパターンですが、実にじれったい。
まぁ、これをじれったいと言っていてはお話にならないのですが。


持ち味的にも姿形的にも、仁左衛門さんの貢を受け継ぐのは染五郎さんではないか、とかねてから思っていましたので、今回初役で挑むにあたり、仁左衛門さんに教えていただいたと聞いてとてもうれしく思いました。
爽やかな眉目も柔らかな物腰も、万野の悪口に耐えに耐えるところも、ついに発火して妖刀に操られるように白がすりを血に染めて次々と人を斬るところも、色っぽい。

猿之助さんの万野がまた(笑)。
こういうSキャラ、本当にハマるよね、という感じです。
いかにも意地悪そうな目つきとかかなりデフォルメされている印象ですが、きちんと理が勝って弁も立って、憎らしいくらいでした。

梅枝くんのお紺、米吉くんのお岸は違ったタイプのべっぴんさんで眼福。
ただ、お二人とも遊女というより芸妓さんのように見えたかな。
松也くんの喜助はさすがに安定。
秀太郎さんの万次郎のいかにも不甲斐ないぼんぼんっぷり、萬次郎さんお鹿の達者さと熟練組の手堅さ。


ラスト。
貢が手にしている刀こそが青江下坂だと喜助が言い
お紺さんが手に入れた折紙を持って愛想尽かしは偽りだとわかり
これでお家再興間違いなし、めでたしめでたし。
「えっ!あんなに人殺しておいて、それでいいの!?」といつも思う幕切れです。
 

三、一谷嫩軍記  熊谷陣屋
出演: 松本幸四郎  市川染五郎  市川猿之助  市川高麗蔵  市川左團次 ほか


これまで何度となく観た「熊谷陣屋」ですが、幸四郎さんの直実で拝見するのは2014年11月の歌舞伎座顔見世以来2度めでした。

その時の配役と比較すると、藤の方の高麗蔵さんと弥陀六の左團次さんはそのままで、相模に猿之助さん、義経に染五郎さんが入っているのが特徴的で、ここでも継承を意識した座組かなと思いました。

幸四郎さんの直実はスケールが大きく、かつ濃厚という印象があって、今回もそれは変わらないのですが、わが子を犠牲にしなければならなかった悲しみと悔恨、虚しさがより色濃く出ていると感じました。

左團次さんの弥陀六のも矍鑠とした中に平家の武将としての気骨が感じられ、「あの時、義経を助けていなければ・・」という義経への複雑な思いが滲み出ていました。

義経は染五郎さん。
品よく美しく。いかにも「悲劇の貴公子」然とした佇まいがこの役にぴったり。

猿之助さんの相模は、万野と打って変わって抑えた演技。
それだけに、直実が差し出した敦盛の首が実はわが子小次郎の首と知った時の動揺、悲しみの深さが際立っていました。
染五郎さんの直実、猿之助さんの相模で「熊谷陣屋」を観られる日もそう遠くなさそう。

それにしても
いかに忠義のためとはいえ、手塩にかけて育てたわが子を犠牲にしなければならいない物語は心が痛みます。
「義経千本桜」の「すし屋」しかり、「伽羅先代萩」しかり。
それがその時代の趨勢であり逆らうべくもないものとはいえ、何とも切なく虚しさばかりが残ります。



昼の部3本 こっくり見応えありました のごくらく度 (total 1740 vs 1741 )


posted by スキップ at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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