
そしてすべて観終わった後、それは正解だったと改めて思ったものです。
ただ、最初にそれを想定したのは「二人桃太郎」のある夜の部だったのですが、本当にリンクしているは実は昼の部の方だったと、翌日しみじみ感じることになったのでした。
江戸歌舞伎三百九十年
猿若祭二月大歌舞伎 昼の部
2017年2月25日(土) 11:00am 歌舞伎座 3階2列センター
一、猿若江戸の初櫓
作: 田中青滋
出演: 中村勘九郎 中村七之助 中村児太郎 中村萬次郎
坂東彌十郎 中村鴈治郎 ほか
京から江戸へくだってきた出雲の阿国と猿若の一座が木材商 福富屋を助けたことから奉行の目にとまり、江戸で小屋を建て興行を許されることになるという、江戸歌舞伎の発祥を描いた演目。
初代猿若(中村)勘三郎が江戸で中村座を興した物語。
初めて観たのは2006年 南座顔見世の十八代目中村勘三郎襲名披露興行。
猿若・阿国を演じるのはあの時も今回も、勘九郎(当時 勘太郎)さんと七之助さん。
こうして挙げると思い入れたっぷりのように感じますが、そんなことはなくて、舞台の明るい色調とも相まって、祝祭感あふれる楽しい一幕。
興行を許された猿若が舞を披露する後半。
櫓が上がってから見せる勘九郎さん猿若の踊りが本当に小気味よく形も綺麗。
あんなに空気感ないようにふわりと跳ぶのに、足を踏む時の音の響き。
「超絶技巧をさり気なく見せる」というツイートを見かけても私にはどのあたりが超絶なのかはよくわかりませんが、とにかくいつまでも観ていたい舞踊でした。
艶やかな七之助さん阿国との並びも綺麗。
そしてあの笑顔を観ていると、「猿若、本当によかったね」と思えてきます。
ここから初めて観る演目が2作続きましたが、どちらもおもしろかったです。
二、大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)
作: 初代桜田治助
補綴:戸部銀作
出演: 尾上松緑 中村勘九郎 中村七之助 中村児太郎
市川團蔵 中村時蔵 ほか
「黒髪」長唄連中
中村屋ゆかりの演目で、48年ぶりの復活狂言なのだそうです。
物語: 伊豆下田で寺子屋を営んでいる正木幸左衛門(松緑)は大変好色で、女房のおふじ(時蔵)は悋気する日々。そんな幸左衛門の家へ、寺入りを希望する若い娘おます(七之助)や、一夜の宿を求める清左衛門(勘九郎)がやってきます・・・。
寺子屋のお弟子さんが若い娘さんばかりで(芝のぶちゃんとか千壽さんとかの綺麗どころ)、手とり足取り教える幸左衛門がやたらボディタッチするいかにも女好きのセクハラ師匠で、それを見てやきもち焼くおふじさんが「もおおおお!」とばかりに鰹節をシャシャシャシャッと削ったり、入門希望のおますさんを「美人だから」と断ったり、幸左衛門に去り状書かせておいて「行くわよ、いいの?アタシ本当に出て行くわよ」的な顛末とか、コメディかと思いましたが、後半になって雰囲気は一変。
幸左衛門は実は平家追討の野望を持つ源頼朝
おふじは平家方に通ずる伊藤祐親の娘 辰姫
清左衛門は平家追討の院宣を持つ文覚上人
おますは何と、北条政子
・・・という、荒唐無稽というか、いかにも歌舞伎らしい某、実は・・の展開。
頼朝・政子の濡場あり、頼朝を思って身を引いたおふじこと辰姫が切ない思いを語るくどきありで、ラストは朝日が昇る富士山をバックに頼朝が源氏の白旗をカッコよく掲げて幕。
楽しく拝見したのですが、時折意識を失い^^; ふっと気がつくたびに舞台上がドラスティックに変化していてびっくり。
児太郎くんが七之助さんおますに付き添うお姉さんの役だったのですが、ちゃんと年上に見えて感心。
三、四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)
四谷見附より牢内言渡しまで
作: 河竹黙阿弥
出演: 尾上菊五郎 中村時蔵 中村錦之助 尾上松緑 尾上菊之助
市川團蔵 中村歌六 中村東蔵 市川左團次 中村梅玉 ほか
物語: 無宿人の富蔵(菊五郎)は、四谷見附外の堀端で出会った主筋の藤岡藤十郎(梅玉)に、江戸城の御金蔵に忍び込もうと持ちかけ、四千両を盗み出して藤十郎の家の床下に埋めますが、やがて捕らえられ伝馬町の牢屋へ送られます・・・。
河竹黙阿弥が江戸時代に実際に起こった御金蔵破りを題材にして戯曲化したものだとか。
これも初見でしたが、とてもおもしろかったです。
そして、菊五郎さんのカッコよさに唖然。
悪党ながら肚の座った大きさを感じる富蔵。
しがないおでん屋のおやじで出てくる第一声から漂うタダモノではない感。
口では主筋の藤十郎を立てておきながら、心の底では見下しているしたたかさと凄み。
対する梅玉さんの武士らしい佇まいの中の小心さ、気の弱さとの対照が際立っています。
そして、「伝馬町西大牢の場」。
歌舞伎座のあの広い舞台いっぱいに広がる牢内の迫力。
左團次さん牢名主筆頭にズラリと高い座位置に並ぶ牢役たち。
神妙に並んで床に座る囚人たち。
圧倒的かつ絶対的な縦社会。
新入りが入ってきたり、差し入れの品があったりするたびに展開される牢内のしきたりや決め事。
それを粛々と取り仕切る富蔵。
居並ぶ囚人たちをオペラグラスで見ていて、「あれ、菊ちゃんじゃん!」と思ったら、要領よく上席に入れてもらえる新入りだったり。
牢名主や富蔵たちの前に出て座る時の足が変わった組み方でしたが、あれも決め事なのかな。
まるで時代劇や映画に出てくるような江戸の牢内が細やかに端正に展開されて、大変興味深かったです。
四、扇獅子
出演: 中村梅玉 中村雀右衛門
最初に芸者の雀右衛門さん、後半は鳶の梅玉さんが華やかにいなせに踊ります。
お二人とも獅子頭に見立てた扇を手にしていて、それが「扇獅子」なのね、と一人で感心。
梅玉さんが踊る橋のセットに牡丹が描かれていて、「石橋」のようだなぁと思っていたら、名題下さんお二人がその橋の上から鮮やかにトンボ切って場内拍手喝采でした。
明るい絵面で楽しい舞踊でしたが、これ、上演時間12分で、その前の休憩は10分。
この演目、いる?(暴言)
だって夜の部開演まで50分しかなくて慌ただしかったのですもの のごくらく地獄度



