
2013年に上演された「夜更かしの女たち」に続く第二弾ということですが、前作は観ていなくて、今回初見参となりました。
「密室を舞台に繰り広げられる心理サスペンス」ですって。
直人と倉持の会 vol.2 「磁場」
作・演出: 倉持裕
出演: 竹中直人 渡部豪太 大空祐飛 長谷川朝晴
黒田大輔 玉置孝匡 菅原永二 田口トモロヲ
2017年1月15日(日) 12:00pm サンケイホールブリーゼ
1階C列センター
舞台はあるホテルの最上階にあるスイートルーム。
売り出し中の劇作家 柳井(渡部豪太)が映画のシナリオ執筆のためこの部屋に缶詰にされることになり、プロデューサーの飯室(長谷川朝晴)、映画監督の黒須(田口トモロヲ)と打合せを開始します。
題材となるのは芸術家のマコト・ヒライ。
映画の出資者 加賀谷(竹中直人)はマコト・ヒライに心酔しており、柳井の才能を買って過剰なほど期待をかけています。
柳井も加賀谷の期待に応えようとするものの、柳井が「書きたい」脚本と加賀谷が「書いてほしい」脚本には決定的なズレがあることが明らかになり・・・。
観終わった後、「『磁場』ってよく聞くけど正確な意味は何だったかしら」と思って調べてみました。
「磁石や電流のまわりに生じる磁力のはたらいている空間」
「磁石のもつ磁極に対して力を及ぼすような場を磁場または磁界という」
あたりが比較的シンプルな説明のようですが、よくわからん(高校時代 物理嫌いだったし)。
でも、多分、ここに生じた磁力は、人間の意志をもってしても抗うことのできない力だったのだろうと思います。
「自分は素人だから口は出さない」と言いながら、マコト・ヒライへの強すぎる思い入れを口にし、控え目で丁寧な物腰とは裏腹に、無言の圧力を与える加賀谷。
その加賀谷の呪縛にじわじわと追い込まれていく柳井たち。
笑いも散りばめられているのですが、観ているうちにどんどん息苦しさを感じるようになりました。
加賀谷が求めるものと自分の書きたいものとの狭間で行き詰まり、脚本が全く書けなくなった柳井でしたが、加賀谷に引き合わされた女優・椿(大空祐飛)の助言もあって、「マコト・ヒライ自身は登場させずに彼の生涯を描く」という、本来書きたかった脚本を完成させます。
それは当然加賀谷の意に沿わず、クビになって、アシスタントとして呼んでいた先輩劇団員 姫野(黒田大輔)が後を継ぐことになります。
ホテルを引き払うことになり、姫野にあれこれアドバイスする柳井は憑きものが落ちたようなスッキリした表情で、「あぁ、これでよかったのね」と思わせておいて、ラストのあれ。
ここまでは、磁場を生じさせる力を及ぼす存在は竹中直人さん演じる加賀谷で、周りの誰もがその磁場の中に取り込まれていくのだと思っていたのですが、その加賀谷を含めて狂気に駆り立てるのは「マコト・ヒライ」・・に取り憑かれた心だったのでは、と感じました。
いや~、「私にすべて任せてください。大丈夫ですから」という加賀谷に抱き抱えられた柳井の表情、ほんとコワかったです。
それにしても竹中直人さんの加賀谷。
あのじわじわと真綿で首を締めるような追い込み方と垣間見える狂気。
監督の黒須を言葉で追い詰める時の情け容赦なさ。
ほんと、怖かったです。
渡部豪太さんの柳井もよかったです。
やる気に満ちた若い劇作家が精神的に疲弊していき、呪縛から解放され、また闇へと沈む変化が痛々しい。
姫野をポンと押して、一瞬 宙に浮いた彼が落下した時には思わず「えっ!」と声が出てしまいました。
柳井が姫野に「引き継ぎ」する時、マコト・ヒライの資料を、「この付箋のところは使えそうな話」「この付箋は加賀谷さんが特に好きなエピソード」と説明する場面を観ていて、「あぁ、劇作家ってこんなふうに資料を読み込んで脚本を練り上げていくんだなぁ」と劇作の一端を垣間見たようで興味深かったです。
才能がひとつ失われた話でもあります の地獄度


