2017年01月03日
私には映画があったから 「キネマと恋人」
中学時代の後半から高校時代、映画 特に洋画が大好きで、「ロードショー」とか「スクリーン」といった映画雑誌を毎月買って、新作旧作問わず映画館に通っていた時期がありました。
ポール・ニューマンとかロバート・レッドフォードとか、スクリーンの中のスターに心ときめかせ、言葉がわかるようになりたくて、英語の勉強にも精を出したものです。
そんな青春時代の甘酸っぱい思いが蘇ってくるようでした。
世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007
「キネマと恋人」
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
映像監修: 上田大樹
振付: 小野寺修二
美術: 二村周作
出演: 妻夫木聡 緒川たまき ともさかりえ 三上市朗
佐藤誓 橋本淳 尾方宣久 廣川三憲 村岡希美 ほか
2016年12月7日(水) 7:00pm シアター・ドラマシティ 1列上手
物語の舞台は昭和11年(1936年) 地方の離島にある小さな港町。
ハルコ(緖川たまき)は酒色に溺れて暴力を振るう失業中の夫(三上市朗)との生活を支えるためレストランで働く毎日ですが、唯一の楽しみは、映画を観ること。毎日映画館に通い、同じ映画を何度も観ています。
ある日、「月之輪半次郎捕物帖」というお気に入りの映画を観ていたハルコの前に、スクリーンの中から間坂寅蔵(妻夫木聡)が飛び出してきて、ハルコを連れ出します。
いつも自分を観てくれているハルコに恋をしていると告白する寅蔵ですが、その島に寅蔵を演じている役者 高木高助(妻夫木聡)自身も現れて・・・。
ドリーミーでスイートでビター。
夢とロマンと切なさが舞台から、スクリーンからあふれ出てきました。
美しく豊かで素敵なお芝居。
こんなことあったらいいのに、という幸せな妄想が現実に目の前に現れて、物語の結末はシンデレラのようにハッピーエンドではないけれど、心温まる思いで劇場を後にすることができる、そんな物語。
それと同時に、ケラさんの映画や舞台、役者さんへの深い愛情を感じる作品でした。
ケラさんがウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」にインスパイアされて書いた作品ということですが、その映画は未見。
映画館で映画を観ていたハルコに、セピア色のスクリーンの中から寅蔵が声をかけてきて、飛び出してくるあたり、「へ?そんなお話なの?!」と最初は驚きましたが、それが荒唐無稽という感じではなく不思議なくらい自然に受け容れられて、そのために巻き起こるドタバタに声をあげて笑う一方で、人の悲しみやぬくもりに胸がきゅっとなったり。
ハルコさんの現実に切なくなりながら、ラストはよかったね、と思わせておいてほろ苦い・・・ケラさんお見事です。
ラストシーン。
夫と別れて高助との約束の場所に向かったハルコでしたがそこに高助の姿はなく。
失意のハルコが重い足取りで向かったのはやはり映画館。
最初は曇った表情で映画を観ていたハルコが段々笑顔になっていって、そこに妹のミチル(ともさかりえ)も加わって。
少し前のシーンでハルコとミチルが幼い頃の話をしていて、「おねえちゃんは強かった」というミチルに言われたハルコが、「私には映画があったから」と答えたことがこの場面につながっているのだと思います。
現実は辛いこと、厳しいことも多いけれど、映画を観ている間はそんなこと忘れて楽しくて、そうして映画館を出て、また私たちは生きていくんだ、と。
たとえば映画を演劇に置き換えたら、それは私自身にも言えることで、何だかケラさんが私たちの背中を押してくれているように思えたりもしました。
登場人物は一人ひとりがとても愛おしい。あのどうしようもないハルコの夫でさえも(笑)。
緒川たまきさんのハルコは本当にかわいい。
表情とか仕草と「ごめんちゃい」なんて言う可愛らしい方言とかアンティークな着物とか、すべてがピタリとハマってハルコさん。
ハルコさんウクレレ弾いて妻夫木くん(あの時は高木高助だったかな?)「私の青空」歌うシーン、よかったな。私もウクレレ弾いてみたくなりました。
ともさかりえさんのミチルもすごくキュートだったし、何役か兼ねていた村岡希美さん演じる脚本家の根本が、スターの嵐山進(橋本淳)に「映画の中から寅蔵を消してくれ」と言われたのに対し、「映画の中の月之輪半次郎は間坂寅蔵のことが大好きなの。だから彼が死ぬ脚本なんて書けないわ」と言い放つところ、カッコよかったです。
スクリーンの熱演に拍手贈る観客も村岡さんだったなぁ。
妻夫木聡さんは、器用な役者さんという印象はそれほどないのですが、役者さんとその役者が演じている映画の中の人物という結構繊細な演じ分けも、まっすぐで天真爛漫な寅蔵と現実社会の中でくすぶっているような高助と鮮やか。
二人が鉢合わせするシーンは映像を使わず、歌舞伎っぽい仕掛けでアナログ感たっぷりでした。
カーテンコールでも二役早替りして登場していました。
「クレシダ」で美形の少年俳優 ハニー役を観たばかりだった橋本淳さんのいかにもスター然とした嵐山進の傲慢ぶりも雰囲気よく出ていましたし、三上市朗さんのハルコの夫 電二郎の自覚のないダメっぷりもよかったです。
そういえば、寅蔵が迷い込む娼館に一人ずい分大柄な娼婦がいると思ったら三上艦長で、爆笑したよね。
いつもながらオープニングがカッコよすぎて、あの部分だけでももう1回観たいと思うほど。
プロジェクションマッピングとそれに合わせて登場する役者さんの動きがピタリと合っていて、芸術作品の域でした。
舞台下手にスクリーンが設置されていて、そこに映写される映画の中から寅蔵が出てきたり、はたまたハルコを連れて入ったりするところ、楽しかったな(映像:上田大樹)。
ハルコの家(彼女の現実世界)が伸縮する紐のようなもので表現された枠になっていて、それが歪んだり揺れたりすることでハルコの心象を表しているような演出も印象的でした。
また、場面転換はモブの人たち?が椅子や装置を移動させるのですが、その動きがコンテンポラリーダンスみたいでこれまたカッコいい!と思っていたら、小野寺修二さんの振付だったのね。
無声映画のワンシーンで野村萬斎さん出て来た時ひとり大ウケで手を叩いて笑っていたら周りの人たちスルーでちと恥ずかしかったワ のごくらく地獄度 (total 1686 vs 1688 )
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