2017年01月02日

おもろうて、やがて・・ 「天獄界~哀しき金糸鳥」


tengokukai.jpg甘粕正彦って、私にとっては映画「ラストエンペラー」で坂本龍一さんが演じたイメージそのまま。

この物語は、甘粕正彦に両親を殺された少女と甘粕とのかかわりを通じて描く骨太の昭和史。
甘粕はじめ伊藤野枝、川島芳子・・・と名前を知っている実在の人物が虚実織り交ぜて目の前で生きていて、とても惹き込まれました。
リリパらしい茶目っ気と笑いも散りばめて。


リリパットアーミー30周年記念公演最終公演
玉造小劇店配給芝居Vol.20
「天獄界~哀しき金糸鳥 (かなりあ)
脚本・演出; わかぎゑふ
出演: コング桑田  野田晋市  うえだひろし  桂憲一  
八代進一  鈴木健介  浅野彰一  大井靖彦  小椋あずき  
長橋遼也  畝岡歩未  村上陸  山像かおり  わかぎゑふ
劇中歌: ダイナマイトしゃかりきサ~カス

2016年12月4日(日) 1:00pm 近鉄アート館 Bブロック2列



大正12年 憲兵大尉甘粕正彦の独断によって憲兵隊司令部で殺害された社会運動家 大杉栄と愛人の伊藤野枝の4人の遺児のひとり ルイズ(小椋あずき)は福岡の祖父母のもとに引き取られます。
修学旅行で東京を訪れたルイズは義兄(伊藤野絵の前夫の子)辻一(まこと/大井靖彦)と会って心を通わせ、互いに「おじさま」「カナリー(カナリアの英語読み)と呼び合い文通する約束をします。
成長しお見合い結婚し、軍人である夫の赴任地満州に移り住んだルイズ(改名して留意子)は、満洲映画協会理事長として権勢をふるう甘粕正彦(野田晋市)の邸に名前を偽って女中として入り込みます。
そこでルイズがいろいろな人と出会い見たものは・・・。


とてもおもしろかったです。
大正末期から昭和へ、日本の傀儡政権と言われた時代の満州を舞台にした人間模様。
笑いを散りばめながらどこか切なくてもの哀しい。
テイストが昨年観た「ひとり、独りの遊戯」に似ているなぁ、と思っていたら、
後でプログラムを読むと、わかぎゑふさんの「満洲三部作」第二弾なのだそうです。
ということは第三弾もあるのね。


甘粕もルイズも実在の人物であり、甘粕が満洲映画協会理事長も史実ですが、そんなふうに家に入り込んだり、さらには川島芳子(山像かおり)まで登場して、何故か甘粕の命を狙っていて・・・それは、川島芳子がかつて伊藤野枝に心酔していて、彼女を殺された復讐のためで、遺児となったルイズたちにも毎年贈り物をしていたといったエピソードが史実なのかフィクションなのかという感じで展開します。

しかも、川島芳子の贈り物ひとつにしても、ルイズが少女時代にリボンのついた箱を開けるシーンが前にちゃんとあって、その時になって「ああ、あのプレゼント!」とわかるという風にいくつも張り巡らされた伏線やプロットが終盤一気に回収される演劇的心地よさ。
女中となったルイズを何かとかまってくれる甘粕邸の運転手(うえだひろし)は、辻一の弟の流二だということは、劇中で身バレする前にわかっちゃったけれど。

流二といえば、料亭で自分を暗殺しようとする者たちへの対応を淡々と話す甘粕に
流二が、「なんや玄人玄人(くろうとくろうと)してまんな」と言って、
意味がわからず甘粕がじっと流二の顔を見ていると、
「ヤクザみたいやっちゅうことですわ」と流二。
「関西弁は表現が豊かだな」と甘粕。
ゑふさんならではの筆致だなぁと思います。

甘粕邸の仮面舞踏会で芸を披露する司会者 森繁久弥なんて人も出てきました。
「ひとり、独り・・」の時は同じような感じで藤山寛美さん出てきたよね。

その森繁久弥さんも乗っている引揚げ船の中で、満映の社員たちが話しているところに通りかかった留意子が運転手の消息を聞いて先に無事に日本に帰ったことを知り、また同時に甘粕が自殺したことを聞かされるあたり、説明台詞やモノローグになりがちなところ、うまい脚本だなぁと感心。

そして本当のモノローグ。
自分の目で甘粕の姿を見ることで彼女自身も成長した留意子。
その留意子がこれまでずっと「おじさま・・」と呼びかけて義兄の一に手紙を書いている形を取っていた物語が、「心の中で思うだけで、まだ1通も書いていません。今度は本当に書かなくちゃ」と明らかにするラストシーン。
何とも余韻が残ります。

「リリパットアーミーと言えば、中華芝居」なので、もちろんカンフーばりの迫力満点で派手な殺陣もあります。
また、川島芳子が「本当に大杉栄と伊藤野枝を殺したのはおまえなのか」と甘粕に迫る場面で、これもリリパ名物「ミュージックハラスメント」が登場(13年ぶりですって)。
八代進一さんがタキシード着てムードたっぷりに「星降る街角」を熱唱。
しかも2コーラス(笑)。
目の前でクネクネ歌われた野田さん、がんばりました。

こんなお笑いコーナーにもかかわらず、野田さん甘粕がハラスメントに屈することなく降参もせず何も語らなかったことで、「伊藤野枝たちを殺したのは本当は甘粕ではないのではないか」と印象づけることにもなっていて、わかぎゑふさんの演出、ほんと凄い。
そして、その真実がどうかということも含めて、あの時代の日本のこと、人々のことをもっと知りたい、知らなければという知的好奇心も刺激される脚本のすばらしさ。


野田晋市さんの甘粕正彦、とてもよかったです。
最初に「坂本龍一さんのイメージ」と書きましたが、あそこまでストイックではないにしてもかなり近い。
全然タイプの違う役者さんなのに凄いなぁと思いました。
孤高でキレ者で、口数少ないけれど言葉遣いは丁寧で穏やかな語り口。
仕事には厳しくて時間にはとても正確、という甘粕。
「その銃で私を撃ちなさい」と留意子に静かに銃を渡すところ、カッコよかった~。

うえだひろしさんの流二がまたハマり役。
関西弁を話す運転手でいい加減に見えて実は何でもお見通し。
甘粕に対しても、自分の母親を殺した人間という思いはあっても、留意子よりはかなり冷静に見ている感じ。

留意子の小椋あずきさんはまっすぐな眼差しと声で本当に少女のようだったし、川島芳子の山像かおりさんはチャイニーズドレスも、男言葉を話す男装もステキだったし。
花組芝居からゲスト出演の3人(桂憲一・八代進一・大井靖彦)も何人か兼ねてご活躍でしたが、中でも、大井靖彦さんの甘粕邸の中国人(・・ではないと後でわかる)執事がハマりすぎでした。


IMG_7685.jpg

こちらはカーテンコールのショット。
正面、下手、上手と3ポーズしてくれましたが、これがイチバン楽しそうに写っていました。
「東京公演のためにSNSにバンバンのせて」とコングさんおっしゃっていましたが、今ごろになってほんとごめんなさい。  


終演後にはサイン会あって、この日は野田晋市さんと小椋あずきさんでしたが、千穐楽で桂さんも八代さんも物販に出ていらしたのでプログラムにサインいただいちゃった のごくらく度 (total 1685 vs 1687 )

posted by スキップ at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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