2016年12月28日

赦すっ! 「はたらくおとこ」


menatwork.jpg今年結成20周年を迎えた阿佐ヶ谷スパイダース。
そのアニバーサリーイヤーに持ってきたのは2004年に上演された代表作。
しかも、紅一点の女性キャストを除いてすべてオリジナルキャストで。

実はワタクシ、12年前、チケット取っていたにもかかわらず当日謎の高熱のため観に行けなかったという曰くつきの作品。
12年の時を経てオリジナルキャストでこの舞台を観ることができるという奇跡に感謝。


阿佐ヶ谷スパイダースPresents 「はたらくおとこ」
作・演出: 長塚圭史
出演: 池田成志    中村まこと   松村武   池田鉄洋  富岡晃一郎  北浦愛  
中山祐一朗  伊達暁  長塚圭史

2016年12月2日(金) 7:00pm 松下IMPホール G列上手



東北の田舎で経営者の茅ヶ崎(中村まこと)を中心に夢の”しっぶいりんご”づくりに賭けた男たち。
しかしご多分に漏れずリンゴ農園は失敗。やることもなく悶々とした日々を送る茅ヶ崎と従業員たち(池田成志、中山祐一朗、池田鉄洋)は、地元の農協と農薬問題で対立する佐藤兄妹(松村武、北浦愛)の騒動に巻き込まれ、さらにはそこに、怪しげなトラックが突っ込んできます。そして悪夢のような出来事が次々と襲いかかり・・・。


いろいろと騒動が起こる中にもどことなく牧歌的な空気が漂って、ブラックでありつつ笑いも散りばめられた前半。
そこへいきなりバーンと突っ込んで来たトラック。
運転していたのは前田兄弟の弟・愛(伊達暁)ですが、そのトラックの怪しげな積荷に触れた兄の望(中山祐一郎)が何とも悲惨な姿で運び込まれてきたあたりから雰囲気は一変。
その空気に触れただけでも身体に多大な影響を及ぼすらしき積荷を全部工場に運び込んで、「捨ても残しもしない」と食べ始める茅ヶ崎。
一斗缶の中に入れた手を、苦しいうめき声をあげながら取りだした時には「ひぇっ!」という小さな叫び声もあがった客席はやがて静まり返ります。


苦しみに悶えながら「それ」を手づかみで食べていく茅ヶ崎と佐藤兄。
もちろん匂いなどないはずなのに、ぴちゃぴちゃという音とともに悪臭までこちらに伝わってくるようで、異様な空気の中、固唾をのんで見守る客席。
2人を見ていた夏目(池田成志)もついに「それ」を食べ始めます。
・・・その様を顔を歪めるような気持ちで見つめながら、こういうあたり、いかにも演劇的で舞台を観る醍醐味だと思いました。
演出も役者さんの演技も、凄まじいのひと言です。

このシーンでいっぱいいっぱいになっていたら、暗転の後、トラックが突っ込んで来た場面がリプレイされて、頭から血を流して机の上に倒れ込ている茅ヶ崎。
「あ、これは悪い夢だったのね」と思っていると、茅ヶ崎が起き上がって、夏目に言い放つ言葉が
「赦すっ!」。

この「赦すっ!」は、夏目が「それ」を食べながら、茅ヶ崎の家族を事故で死なせて逃げたドライバーが自分だったことを告白したことを受けていて、そこには、茅ヶ崎がずっと探していた、亡くなった妻が最期に買ってくれた「しっぶいリンゴ」の味が「それ」と同じだ、やっと見つけたと言ったことにも繋がる訳で、つまりこれは、夏目の「贖罪」の物語だったのかなぁと思い至った次第です。
多分、「赦すっ!」と言った茅ヶ崎はもうこの世にいなくて、でもいろんな思いを経て夏目の魂は救われて。
夢というよりは願望かな。
このあたりは観る側の感性に委ねられて、意見の分かれるところでもありましょうか。


それにつけても、2004年初演当時「サリンよりもっとヤバイもの」とされた積荷が、今の私たちには「核汚染」という言葉をもって容易に身近なものと思い当たるあたり、時代の変遷を感じます。


ダメダメだったり滑稽だったり哀しかったり、いろんな顔を自在に見せてくれる”はたらくおとこたち”は皆すばらしい。
ゆらゆらと揺れているようないつものなるし~かと思いきや、超シリアスな顔や涙まで見せる池田成志さん。
一本気な中に翳りと色気を織り込む中村まことさん。
絶妙ななまりで剛速球投げ込む松村武さん。
あら、イケテツ、こんな真面目でやわらかい役もやってたのね、な池田鉄洋さん。
卑怯なくらい純朴で切ない中山祐一朗さん。
無垢な過激の伊達暁さん。
憎々しげなキャラクターを憎々しげに演じた富岡晃一郎さん。
出番は少ないながら怪しげで不気味な味はバツグン、長塚圭史さん。
よくもこれだけ揃えてくれました。


おっさんたちが歌うあんなにヘタくそで切ない「ガラスの林檎」を聴いたのははじめて のごくらく地獄度   (total 1682 vs 1687 )



posted by スキップ at 22:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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